第16話 頂点に立つ生徒たち

「よし、今日は全員揃っているな」


 あれからもう2日が経ち、ドラバルドが受け持つ生徒達との模擬戦当日を迎えた。


「いい仕事するじゃねぇかよ、先生」

「それはどうも」


 デイビッドは今日を待ち遠しにしていたのか、偉く機嫌が良かった。

 たっく、模擬戦の話をしたら誰よりも一番に食い付いて来たのは良かったが、俺に対する態度は変わらんのな。

 あの日デイビッドから事情を訊いたが、あの3年生に勝てば自分が一番強いと証明出来ると思ったとしか答えなかった。

 まぁ、あの状況から見てデイビッドは押されていて負けそうだったのは明らかだったし、それが悔しいと言う表情も見てとれた。

 デイビッドがどうしてそんなに一番であろうとこだわるのかは、まだ分からないがただ単に自分の力を相手に見せつけるのが目的じゃないって感じてはいる。

 と言っても、所詮は俺の勘でしかないんだけど。

 俺はそのままノーラスとエリスの顔へと視線を向けた。

 ノーラスは少し不安な表情をしており、エリスはいつも通り冷静な表情をしていた。

 うん、2人は少し表情が硬い感じがするが、そんなに心配する様な感じでもないか。


「おい先生、全員揃っているしさっさと行こうぜ」

「あ~そうだな。もう相手さん方もいるかもしれないし、行くか」

「はぁっ! 3年生と模擬戦、俺が一番だと分からせる最高の舞台だ」

「(あー……行きたくないな)」

「(ハルト先生は、何を考えて3年生との模擬戦なんて組んだの?)」


 そのまま俺達は模擬戦場へと向かうと、思いもしない光景を目の当たりにした。


「何だこの人だかりは?」


 模擬戦場には、多くの生徒達が見物人として集まっていた。

 どうしてこんなに他の生徒が集まってるんだ?

 俺が少し驚いていると、ある生徒が俺達に気付き声を上げた。


「おい、来たぞあの『GMR』に喧嘩を売った新入生達が!」

「お~逃げずに来たのか。何だ、俺は怖気づいて逃げると思ってたんだがな」

「ねぇ見て、あの新入生の担当教員。あのハルト先生よ。新入生も可愛そうね」

「まぁ何でもいいから、さっさと模擬戦初めてくれよ! 俺達は『GMR』の活躍を見に来たんだから、いいやられやくになってくれよ」


 するとそこに、ミイナが俺達に気付き急いで駆け寄って来た。


「ハルト先生」

「ミイナ先輩。何なんですか、これ?」

「誰かが今日の模擬戦の話を聞いて、言いふらしたみたい。私達もこんなに人がいる事に驚いているの」

「はぁ~まぁ、知られてしまったのは仕方ないですね」


 俺は後ろにいる生徒の方を見ると、デイビッドはやる気満々の顔で、ノーラスは多くの観客に少し萎縮し始めていた。

 エリスは観客の声などに惑わせる事無く、何か考え事をしている表情であった。

 まさか、見物人がこんなにいるとは想定外だな。

 案の定、ノーラスが萎縮している。

 デイビッドは、逆にやる気が上がった様だけど、あまり状況的には良くないな……にしても誰が今日の模擬戦の事を言いふらしたんだ? 今日の事は教員以外、知っている人はいなかったはず。

 俺がそんな事を考えていると、デイビッドが先に模擬戦場へと向かって行ってしまう。

 俺は直ぐにその後を追いかけて模擬戦場へと入ると、そこには既にドラバルドと3人の生徒達が待ち構えていた。


「おぉハルト先生。何やら大事になってしまった様だな。誰かが今日の事を言いふらしたかで」

「えぇ、ドラバルド先生。私も驚いてますよ」

「どうしますか? 今日の模擬戦は中止しますか?」

「いえ、このままやらせて下さい。それにこんな状況、そうそう新入生から体験出来ないですし、うちとしてはいい経験が出来るいい機会ですし」


 ドラバルドは俺の言葉を聞くと、少し表情を曇らせた。


「……分かりました。でもハルト先生、模擬戦前に1ついいですか?」

「はい、何ですかドラバルド先生?」

「どうしてこんな事をするのですか?」

「どうしても言われましても以前も言った通り、良い経験をさせる為ですよ。人は経験によって成長するとも言いますしね」

「……そうですか」


 ドラバルドはそれを聞いて、そのまま俺に背を向けた。


「手加減はしませんよ。もしも、うちの生徒達に勝てると思っているなら、今すぐそんな考えはやめた方がいい。怪我してトラウマにでもならない様に、直ぐにギブアップするように伝えた方がいい」

「ご忠告ありがとうございます。でも、うちの生徒も十分に強いんでご心配なく」


 その後ドラバルドは何も言わずに、担当教員席に向かった。

 いや~物凄い気迫と言うか、オーラだった……ありゃ、本気でうちを潰しくるな。

 で、対戦相手の生徒はっと。

 俺がドラバルドが去った後に、残った生徒を見て見覚えのある生徒が居て「あっ」と声が出てしまう。

 そこに居た1人は、2日前デイビッドと戦っていた生徒であった。


「よぉ先生、2日振りですね。俺の事覚えてますか? 後、新入生も久しぶり」

「覚えてるって言うか、お前ドラバルド先生の担当生徒だったのか?」

「おいおい、俺の事知らねぇのかよ。マジか、この先生」

「皆が皆、全員が君の事を知っているとは限らないだろ、ガウズ」

「そうそう。ガウズは自意識過剰なのよ」

「何だと! リティア!」

「ガウズは落ち着いて。リティアも、ガウズを挑発する様な事を言わない」


 そう言って、ガウズとリティアの間に立っていた、青がかった黒髪で青い瞳なのが特徴の男子生徒が2人を仲裁した。


「すいません、ハルト先生。では、試合前に自己紹介させていただきます。私は、3年のマルス・フェンリルです。そして隣の金色の髪をしているのが、同じく3年のガウズ」


 マルスは真横に居たガウズを紹介した。

 ガウズは、金髪でツーブロックにしている髪型で、青のリングのピアスを右耳にしているのが特徴的であった。


「ガウズ・ヨルガンだ」

「そして、こちらの薄ピンク色のボブカットヘアーの彼女が、同じく3年のリティアです」

「リティア・ヘル。よろしく」


 リティアは、マルスの言った薄ピンク色のボブカットヘアーが特徴で、青のリングを首からアクセサリーとして下げていた。


「私達3人がドラバルド先生の担当生徒です。今日はよろしくお願いしますね」

「これはご丁寧に自己紹介までありがとう、マルス。それじゃ、こちらも」


 そう俺はエリス達に自己紹介をさせようとしたが、マルスがそれを止めて来た。


「いえ、それは大丈夫ですよ。昨日ガウズと一悶着あった、ちょっと紺色のツンツン髪がデイビット・リンベルト」

「っ!」


 名前を呼ばれてデイビッドが反応すると、マルスはそのままノーラスの方に視線をずらした。


「で、レモン色の髪型で少し自信なさげな君が、ノーラス・スラング。そして、炎の様に綺麗な赤い長髪をして、『紅の魔女』と呼ばれる彼女が、エリス・アーネストですよね?」

「あぁ、その通りだ。よく知っているね」

「今日の対戦相手ですし、当然ですよこれくらい」


 マルスは笑顔で俺に返事をして来た。

 なるほど、既に調査済みってか? さすがはこの学院の頂点に立つ生徒だ。

 名前は知らなかったけど……

 するとマルスは俺に向かって手を差し出して来て、握手を求めて来た。


「互いに良い時間にしましょう」

「……そうだな。よろしく」

「っ!」


 俺はマルスの差し出して来た手に対して、近くにいたデイビッドの手首を掴んで代わりに握手させた。


「おい! いきなり何するんだ!」

「おいおい、相手がこんなに良くしてくれてるんだから、対戦相手のお前が答えるのが普通だろう」

「だからって、急に引っ張る事ないだろうが!」

「いや、お前俺が言っても言う事聞かないだろ」


 俺とデイビッドが軽い言い合いをし始めた所で、マルスはデイビッドとの握手を離した。


「(……気付かれた? いや、考え過ぎか)」


 とそこで、ドラバルドが声を掛けて来た。


「ハルト先生、そろそろ始めませんか?」

「あ、はい! 直ぐに順番とか決めますんで。ほら行くぞ、お前ら」


 俺はデイビッドの背中を押して自分達の控え場所へと急ぎ足で向かった。

 そしてマルス達も、ドラバルドの元へと向かうのだった。

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