第11話




 自分のやっていたことの恐ろしさに気づいた。

 何度もアスランの人格を改変して、自分の理想に近づけようとしていたのだ。無意識に。


 何が丸ごと愛するだ。誰よりもクラリスが一番、アスランの中身など見ていなかった。どうでもいいと思っていた。


 アスランの軽薄さを馬鹿にする権利など、クラリスにはない。


 そのことに思い至って、クラリスは覚悟を決めた。


「アスラン」


 校門前、馬車から降りるとすぐに、クラリスは話しかけられる前にアスランに声をかけた。


「アスラン。私が間違っていたわ。あなたはあなたのままでいいの。変わる必要なんかない」

「クラリス?」


 アスランは怪訝そうに眉をひそめた。


 クラリスは胸元からペンダントを引き出すと、小瓶に向かって言った。


「アスランは元に戻って、私との婚約を解消して、幸せになって」


 クラリスはにっこりと微笑んだ。


(これが、私の一番の願い)


 小瓶の向こうで、目を丸くしたアスランがクラリスを凝視している。

 クラリスは小瓶を下ろして、アスランの前から去ろうとした。


 だが、次の瞬間、


「……っなんでだあああああああぁぁぁあっっ!!」


 響いた絶叫に、クラリスだけではなく周りの生徒達も硬直した。


 声の主は、両手を地面について崩れ落ちていた。


「ア、アスラン?」

「なんでだっ! なんで、婚約解消なんて言うんだぁぁっっ!! クラリスの理想通りにしたじゃないか! それなのに!」

「へ?」


 ぽかん、とするクラリスに、アスランは訴えた。


「クラリスが、「理想の恋人は女の子にやさしくてかっこいい人」って言ったから、頑張ってカッコよくなって女の子に優しくしてたのに! クラリスは俺のこと嫌うし!」

「は?」

「そしたら、クラリスが「婚約するなら地味で誠実でクソ真面目」な奴がいいって言うから、その通りにしたのに!」

「へ?」

「女の子になれって言うからそうしたし、ワイルドで硬派がいいって言うからそうなったのに!! なんで婚約解消なんだあぁぁっ!!」

「えー……」


 クラリスは目を瞬いた。


(いや、どういうこと?)


「アスラン様。今のを聞いた限りでは、私達に優しくしていたのは、クラリス様の理想になるためだったということでしょうか?」


 生徒達の中から歩み出てきたセイラが尋ねると、アスランは涙目で頷いた。




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