第50話⁂犯人!最終話⁂




樹里亜殺害未遂の経緯ですが、犯人はやはり百合子だったのです。


それは弥生から言われた一言がどうしても許せなかったのです。

「私の強姦された痛みから比べれば、あなたの一番愛する人陽介を奪われる事なんか対した事無いじゃないの?仕返しに陽介に近づいて百合子の愛する人を奪ってやったのよ!私にあんな酷い事をしたあなたが悪いのよ、私がどんな怖い思いをしたか、一生忘れられない、今尚あの日の事を思い出すわ。どれだけあなたを恨んだ事か!復讐よ!」


「確かにやり過ぎたけど弥生だって悪いのよ、私が先に好きになった人と知っていながら、私の好きな人を奪うなんて~それも今まで何回奪ったと思うの?それから樹里亜ちゃんは陽介の子供なんでしょう?許せない!」

そして留めの一言!

「それは絶対違う!ウッフフフ~!誰がそんな話を?余計に面白くなって来たわね。ウッフフフ~!もっと苦しめばいいのよ!わざと復讐のために陽介を奪ってやったのよ!」


その言葉に{私はもう身も心も陽介に捧げて陽介無しじゃ生きていけない!陽介に捨てられる事は死ぬより辛い!陽介だけは絶対離したくない!いっその事弥生を殺したい!だが達也が弥生に目を光らせている。この女どこまで私を苦しめるつもり許せない!いつも私の一番大切なものを奪うこの女絶対許せない!そうだ!あの娘樹里亜を亡き者にして弥生をどん底に突き落としてやる!大切なものを奪われた痛みを知れ————!}


陽介に溺れ狂ってしまった百合子は頭に血が上り、あの元レディース総長で現在ヤクザの親分の妻、姐さんに樹里亜殺害を依頼したのです。


離婚した時に慰謝料をタンマリ貰っていた百合子は、散々お金を散財しましたが、さすがに子供まで殺めた事への自責の念に駆られて夜も眠れない日々が続いています。そしてこの残酷な出来事は墓場まで持って行くつもりなのです。



************

冬は空気が乾いて、富士山は一層くっきりと美しい姿を現わしています。

そんな冬の澄み切った空に美しい富士山も星空も観ることができる「六本木ヒルズ展望台 東京シティビュー」からの眺めの壮大で美しい事。



2016年8月下旬の事故以来自宅療養が続いていましたが、達也は無事に11月下旬に仕事復帰を果たしたのです。

階段から足を滑らせ擦過傷 、挫傷、右足骨折の大怪我を負ったのです。

あの時は院長の事故とあって群衆が一斉に集まり一時は大パニックになったのです。


それを「命の危機です!」など軽はずみにも程が有ります。

確かに頭部も軽く打ちましたが、人聞きの悪い言葉を発する木村。


幾ら死んで欲しいからと言って、大袈裟に騒ぎ立てて、事故を装って故意に殺すつもりだったのかも知れませんが?

専門知識のある看護師も多く集まっています。群衆の目が有ります。


それでもこの事故を皮切りに恐ろしい殺害計画を練っている人物がいます。

それは陽介です。


それは弥生の何気ない一言から端を発する事になるのです。

どいう事かと申しますと?


まず躁状態にみられる異常な金遣いの荒さ、気持ちがハイになるとギャンブルにのめり込み多額の借用書が弥生宅に届けられていたのです。

更には命より大切な樹里亜を強姦しようとした事によって完全に弥生は切れたのです。


「一刻も早く何とかしないと、陽介さんだって負債を背負わさせられ大変な事になるのよ、このままだったら義父母から受け継いだ豪邸だっていつ手放さなくてはならないか?」


更には木村や貴理子からの度重なる達也に対する苦情。

それだけでは済みません。

陽介を殺人に向かわせた決定打となる事件が起こったのです。


それは遥斗も現在後期研習の24歳。

山城病院にチョクチョク顔を出していたのですが、癇癪持ちの双極性障害の為に虫の居所が悪かったのか?遥斗の態度が生意気だと言って酷い暴言と暴力を振るったのです。

顔には今でも生々しい赤いアザがクッキリ残っています。


陽介にして見れば、たった一人の可愛い自分の命より大切な息子に暴力を振るうなど到底許せません。

遥斗のアザを見て””カ————ッ!””と頭に血がのぼって、今までに積もり積もった不満が一気に爆発して、等々堪忍袋の緒が切れて殺害してしまったのです。


そして12月に起きた火事も実は陽介の仕業なのです。

隠ぺい工作です。

いつまでもクロ―ン人間樹里亜をあのまま放っておく訳にも行きません。

それにあの乞食や行方不明者達も只の負の遺産でしかありません。

生かしておいても維持費だけでも莫大ですし、いつ秘密がバレるやもしれません。

休憩場所の灰皿の従業員の吸殻に夜中にこっそり火を付けたのです。

備蓄してあった灯油もありましたから余計に火の勢いが強くなったのです。



じゃ~!11月に仕事復帰した達也は一体誰なのか?

突発的な会議が有ったため已む負えずに顔を出す事になった達也。


陽介は急な会議が勃発して頭を抱えています。

この病院では患者さんからの誤診に対する訴えや苦情の対処方法の為に突発的に会議が開かれる事もあるのです。

既に達也を殺害してしまった陽介はとんでもない方法を思い付きます。


それはあの別荘で見た行方不明者の中に体格といい、目元といい、達也にそっくりな稲垣と言う男が居た事を思い出したのです。

実はこの男を見た時から既に殺害時期を考えていたのです。


そして達也の身代りにアルバイト代としてほんの小一時間程で破格の10万円を握らせたのです。


マスクをして現れた偽物の達也に雰囲気は多少疑われましたが、あまりにもそっくりなのでそれ以上疑う人物は誰一人としていなかったのです。




じゃ~!美紀が達也の殺害を知っているのはどうしてなのか?という事です。


百合子は叔母咲子から家が近い事もあり、よく相談をしたり相談されたりしていたのです。

「達也が容態が悪いから郊外の別宅で療養したいと言っているのよ~!誰か良い家政婦さん紹介してくれない?」と百合子に頼んでいたのです。


百合子が達也の別宅に家政婦を送り込んでから暫くして、家政婦からの言葉に啞然とする百合子。

「百合子さんとんでもない事が起こっています。達也さんが陽介さんに殺害されるかもしれません。こっそり隠れて何やら話しているのを聞いてしまったのです。放っとけません!こんな事誰にも話せませんが?紹介してくれた百合子さんにだけは話しておかないと大変な事に?」


「ありがとうネ!守秘義務が有るから口外しちゃダメなのによく私に話してくれたわね!」


本来ならば親戚だから絶対口外しないのが筋ですが、今尚陽介の事が忘れられないのです。

{陽介は離婚しているが、あの弥生は今尚美人で魅力的な自分を誇示し続けて男をあさり続けているふしだらな女。やっと樹里亜殺害でスッキリしたと思っていたのにあっさり息を吹き返してしまった樹里亜。私は樹里亜の事件以来、あまりにも酷い事をし過ぎた自責の念で陽介とも距離を置くようになっていた。だがそれでも忘れられなかった。それで叔母咲子から色々聞き出していたのだ}


そして家政婦の衝撃的な内容にくすぶっていた炎にまた火が付いたのです。


{もし達也が殺害されていたら陽介と弥生は直ぐにでも結婚してしまうかもしれない。そんな事をしたら完全に私の夢は絶たれてしまう。達也が居たから陽介をいつかは私の者に!と思う事が出来たのにその夢が完全に絶たれてしまう}


どうしても陽介と弥生が一緒になる事を阻止したかった百合子は樹里亜と仲良しのよく知っている顔見知りの美紀に話したのです。


そんな事を話したら陽介が警察に突き出される事も十分考えられる。

又犯罪者の親戚になるのでは?


今の百合子にはそんな感情は有りません。

あの2人をどんな事をしても引き裂きたい!只ただそれだけなのです。

それだけ今尚陽介を愛しているのです。


それでも噂も広がらずに無事難を逃れた山城家の家族たち。

一体どうして???



2021年ゴールデンウイ-クの五月晴れの下。

陽介と弥生は夫婦となり幸せな結婚生活を送っています。


あんな事件が本当にあったのかと思う程穏やかな春の陽ざしの中で笑顔がこぼれています。


不幸の連鎖の中で掴み取った幸せですが、その代償はあまりにも大きく陽介と弥生は懺悔の日々を送っています。


そしてひっそりと佇むあの別宅の跡地内に憩いの公園を作ったのです。


その公園の脇には兄達也と樹里亜【少女A】の小さな銅像が仲睦まじくほほ笑んでいます。


人々が集う満開の花々に囲まれた美しい公園。

賑やかな事が好きだった達也の為に陽介が建造したのです。

春にはチュウリップが、夏にはヒマワリが、秋にはコスモスが、冬にはキンセンカが満開の花を付けます。


何人もの従業員やクロ―ン樹里亜達を殺してしまった事への懺悔と、寂しがり屋だった達也の為に年中満開の花を咲かせて弔っているのです。


公園の名前は【TandY公園】達也と陽介の公園です。

幼き日のあんなに仲良しだった頃の兄を忍び陽介が命名したのです。



樹と樹里亜は父達也の動向を時間が空くと探っていたのですが、結局何も分からず父はあの別宅で全ての物的証拠諸共闇に葬られてこの事件は幕を閉じたのです。


本当は3ヶ月前に既に陽介の手で闇に葬られていたのですが、事件性が無いとみなされ解決したのです。


それにしても何より可哀想なのは樹里亜のクロ―ン達です。

まともに陽の光を浴びる事も出来ずに達也に玩具にされた挙句、短命な生涯を閉じて已む負えず焼却炉で焼却された者や、あの火事で焼け死んだクロ―ン樹里亜達。

若い身空で散って行ったクロ―ン樹里亜達は死にゆく時何を思ったのか?

あまりにも悲惨な生涯のため可哀想で言葉が有りません。



聞き取り調査も丹念に行なわれたのですが、一切の不審な証言を得る事が出来なかったのです。


百合子はあれだけ陽介と弥生の中を引き裂きたかったのに何故全てを話さなかったのか?


それは実は息子淳太郎の3大メガバンク就職が既に内定していたからなのです。

その為口が裂けてもそんな話は出来ません。

《犯罪者が親類にいる場合は内定取り消しの恐れも十分にある》


そして美紀にも「ごめんなさいね!達也さん火事で死んだのに変な事言っちゃって間違いだったわね!」とやんわり釘を刺していたのです。

その為一切の証拠は消え去ったのです。


大人達の愛憎劇の渦に巻き込まれた樹里亜ですが、この事件では失うものも大きかったのですが、そのおかげで掛け替えのない樹という最高の一生の伴侶を見つける事が出来ました。


今樹と樹里亜は幸せの真っただ中にいます。

樹と樹里亜はもう直ぐ結婚します。


若い二人に幸あれ*。⋆✰⋈◡*⋆💛。✧。✧♡




おわり

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