第15話:母子問答

「すごいわね、どうやったらこんなことができるのセシリア」


 母上がうっとりと緑になった大荒野を見渡しています。

 まあ、確かに、見とれてしまう気持ちは私にも分かります。

 一カ月前までは砂岩地帯だったのですから。


「私の力ではありません、全て母上のお力ですわ」


「何の事なの、私は何もやっていないわよ」


「母上が恵まれない民に救い続けられた事が神様の目に触れたのですよ。

 そうでなければ今まで発見できなかった地下水源を発見できたりしませんわ」


「まあ、私はただ可哀想な人達を救いたかっただけです。

 神様の加護など願ってやっていたわけではありませんのよ」


 母上は本当に優しい方だ。

 そんな母上を利用するのは胸が痛むが、聖女なんて面倒は避けたいです。

 申し訳ないですが、聖女は母上にやっていただきます。


(本当に悪い奴だな、それでも俺の聖女かよ)


(黙っていなさい、ヘルメス。

 ヘルメスは計略の神でしょ、だったら私がこんな事をするのは貴男のせいよ)


(おい、おい、おい、それはないだろ。

 俺には色々な能力があるんだぜ。

 計略だけでなく、幸運と富を司り、体育と音楽、技能や発明の神でもあるぞ)


(はい、はい、はい、好きに言っていなさい。

 確かに色々な神ではあるのでしょうが、今私が欲しい能力ではないわ。

 今私が欲しいのは、農業や狩りの能力よ。

 ヘルメスにはそんな能力ないでしょ、だからもう黙っていて)


 本当にイライラする目障りな奴だわ。


「それは私もセシリアも分かっているよ。

 だが現実にこんな幸運を授かったんだ。

 これは神の力だとしか思えないではないか。

 そして神の加護が受けられるような行動をしているのはルイーズだよ」


「父上の申されている通りですよ、母上。

 もうこれ以上疑問も否定もせずに聖女である事を受け入れてください。

 なにも自分から聖女だと言う必要などありません。

 聖女様と呼ばれたら、少し困ったように微笑んでくださればいいのです。

 それに母上が聖女だという評判が広まれば、領民も安心できます。

 キャッスル王家も近隣の領主も領地に介入し難くなります。

 自分から聖女だと名乗る必要などありません。

 否定さえしてくださらなければいいのです」


「……仕方ありませんわね。

 領民が安心して暮らすためだというのなら、重すぎる名誉や称号も受けるしかありませんわね」


 やれ、やれ、ようやく受け入れてくださったか。


「でも、全てはセシリアが宝石を創り出してくれたからできた事なのですよ。

 本当はセシリアが聖女の称号を受けるべきなのですよ」


(そうだ、そうだ)


 黙っていなさいヘルメス。

 これ以上何か言ったらこの場で張り倒しますよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る