第二章

第11話:亡命

「……亡命希望ですか、我が国に攻め込むつもりはないと申されるのですな」


 国境に集結したキャッスル王国の将軍が厳し眼で見てきます。

 事前に何度も亡命希望を伝える伝令を送りました。

 こちらの事情も包み隠さず全てちゃんと話しました。

 ですが、信じてもらえずキャッスル王国軍が集結しています。

 まあ、でも、仕方がないです。

 何といっても十五万もの人間が国境に迫ってきたのですから。


「嘘でない事は、後方の者達を見てくれれば分かると思います。

 半数は非武装の女子供ですし、家財道具も運んでいます。

 男達は剣や槍を持っていますが、これはジェイムズ王国軍やウィルブラハム公爵軍の追撃を恐れての事です」


 父上が堂々と将軍に対峙されています。

 卑屈になる事も居丈高になる事もなく、穏やかに交渉されています。

 ここで家臣領民に途中で合流してきた貧民を合わせた十五万人の亡命が認められなければ、私達はジェイムズ王国軍やウィルブラハム公爵軍と戦うことになります。

 私の力を使えば負ける事はありませんが、平穏な生活はできなくなります。

 伯爵家を継ぎ家臣領民の生活と命を背負う覚悟はしましたが、それ以上の責任を背負うのは嫌なのです。


「……事情は分かりますが、我が国としてもそう簡単に十五万もの民を受け入れることができないのは、伯爵殿も分かっておられるであろう」


 まあ、それはそうですよね。

 入国させてから武装蜂起されても困りますし、十五万もの民が貧しさから犯罪に走ることになっても大変です。

 急遽国境の防衛を任された将軍が入国を拒否するのは当然なのです。


「横から会話に加わる事をお許しください、将軍閣下」


「ふむ、伯爵家の令嬢の方ですな。

 何が話したいと申されるのですかな」


「わたくしはセシリア・ジェイムズ・ウィルブラハム・ブートルと申します。

 実は貴国をはじめとした大陸各国で宝石や食糧を手広く扱う商会を経営しておりまして、十五万の民であろうと十分雇い養う余力がございます。

 その証拠としてこれをご覧ください」


 私は大きな麻袋に入れたダイヤモンドを四千個を見せました。

 どのダイヤモンドも二十カラットを超える大粒です。

 金貨に換算すれば四百万枚分に匹敵するでしょう。

 普通の時にこんなものを見せたら、欲に駆られた将軍に襲われるかもしれません。

 ですが、背後には農民貧民とはいえ十五万もの戦力があるのです。

 その戦力のお陰で、ここまでくる間、領主も盗賊団も襲ってこなかったのです。


「……商会の名前を教えていただけますかな、セシリア嬢」


「はいセブートル商会と申します」

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