第5話:盗賊団

 ガタガタゴロゴロと荷車が激しい音をたてながらついてきます。

 家臣使用人達には必要最低限の荷物と言ったのですが、誰だって何も知らない外国に移民するとなれば、できるだけ多くの家財道具を持っていきたくなります。

 私や父上が厳しく制限しても、慈悲深い母上に泣きつけば、私も父上もつい多少の荷物を認めてしまう事になります。

 そこ結果が予想以上に遅い移動速度となってしまいました。


「伯爵様、前方に武装した者達が立ちふさがっております。

 いかがいたしましょうか」


 騎馬で先行して前方を警戒していた完全武装の武方家臣の一人が、今後の判断を仰ぐために戻ってきました。

 噂では聞いていましたが、街道の治安がとても悪くなっているようです。

 王家の政治が悪くなっているのも多少あるのでしょうが、一番悪影響になっているのは伯父が当主を務めるウィルブラハム公爵家の悪政です。

 領地から逃げ出さなければ餓死するしかない無理な税を取立てているそうです。


「我々が国を捨てることになったブートル伯爵家の者だと説明するのだ。

 領地に残っている家臣の中にも、一緒にキャッスル王家に移民を望む者がいるかもしれないので、迎えに行くところだと説明して道を開けさせるのだ。

 それでも道を開けなければ戦うしかない」

 

 父上らしい判断ですね。

 私と同じように盗賊団が元ウィルブラハム公爵領の民だと思ったのでしょう。

 父上にとっては分家するまでは自分の家の領民だった者です。

 祖父の代までは、慈悲深い統治とはいえないまでも普通の税率だったのに、伯父の代になってからは苛斂誅求に高税を取り立てていると聞いています。

 できれば元領民を殺したくないと思っておられるのでしょうが、盗賊団に父上の慈悲深さが通じるとは思えないです。


「「「「「ウォオオオオオ」」」」」

「殺せ、皆殺しにしちまえ」

「長年の恨みを晴らす時だ」


 やはりこうなりましたか。

 盗賊団から見れば父上や私達は悪逆非道な領主一族にすぎません。

 父上や母上の慈悲深さなど全く知らないのです。

 命を捨てて襲ってくるのは当然でしょうね。

 可哀想ですが、ここは殺すしかありません。

 盗賊団を結成した時から、彼らは他人から奪う生活をしてきたのですから。


「伯爵様の慈悲の心を踏みにじる盗賊どもは皆殺しにしろ。

 これまでも多くの旅人を襲い奪い殺してきたのだ。

 ここで一人でも見逃せばまた旅人が殺されるかもしれない。

 最悪ブートル伯爵領を襲うかもしれないのだ、殺せ、皆殺しにしろ」


 若い声ですが、なかなか腹の据わった家臣がいるようですね。

 彼に任せておけば大丈夫でしょう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る