夢記録

宮古遠

第一夜

 

 気付くと私は、巨大な蜘蛛くものようでそうではない不定形怪物に追いかけられていた。扉越しにどうにかあしの進入をふせいでいたが、限界が近い。すると、突如私の中に存在する『もう一人の私』が出現し、私の主導権をにぎった。『もう一人の私』は超人的身体能力を駆使くしすると、あっという間に怪物を倒してしまった。 

 私と、私の通った小中高入り交じったクラスメイト達は、この地を捨て、何処どこか別の場所へ移動しなければならない。が、その前に我々は、る男が駅のホーム上へ意図的に隅々すみずみにまで散乱さんらんさせた①~⑩の番号が書かれたビー玉を、カルタのように先に見つけて、星形に整頓せいとんし並べてゆく勝負に勝たねばならない。代表者は私だ。

 私は苦戦した。そうして苦戦していると、次第に行為そのものが面倒で、イライラしてきた。だから私は、再び都合良く、私と体を共有する別人格の私を出現させ、ビー玉拾いカルタ遊びの勝負に勝利した。しかし、星の図形が非常にいびつなので、綺麗きれいに並べ直すことが出来るまで、奮闘ふんとうをする羽目はめになった。このままでは社会見学の電車に遅れてしまう。が、どうにもできない。

「ビー玉を星形に並べる作業の所為せいで、全員が遅刻する羽目はめになるじゃない」

 クラスメイトの女子どもが、私へ圧力をかけ始める。応えようと奮闘する私。然し結局、私は出発までにビー玉を並べ直す作業を終わらせることができず、ホーム上へ見捨てられてしまった。このとき何故か、他にも四名の男子生徒がホーム上へ取り残された。うち一人は、私が小学生の頃、毎日同じシャツを着て、常にフケを散らしていた、蟷螂かまきりめいた手足を持つ、貧乏少年である。

 社会見学へゆかねばならないのに、私は、社会見学の行先いきさきを、これっぽっちも知らなかった。ふと見ると、ホームの左右どちらにも、電車が止まっている。どちらの扉も閉まっていた。

 目の前の扉が開いたので、私は急いで乗り込んだ。が、それは反対へ向かう電車だったらしい。発射寸前で気が付いた私は、どうにか難を逃れた。然し正解である反対側の電車も、すでに駅からなくなっていた。

 どうしたものかと、私たちはホームのはしへ、とぼとぼと歩き出した。するとホームのはしに、目的の電車がきちんと止まっているではないか。キャリーバッグを持った大人や学生、ご婦人ふじんといった、色々の、沢山の人々が、ホームへ橋をけるようにして、並んでいる。待つ場所を間違えていたらしい。私はホッとして皆に知らせ、その人たちと一緒に電車へ乗り込んだ。乗り込んでから貧乏少年がなくなったことに、私は気付いた。

 電車は混んでいなかった。

 乗り込むと、年長らしい青年が、乗り遅れた際の行動を私たちに教えてくれた。

「自分たちの持っている手帳てちょうに、乗り遅れた分だけ、赤ペンで×をつけるんだ」

 青年いわく、そうしないと、とても大変な事になるらしい。マナーを知らなかった私たちは、怖いので、皆できちんと×を二つ付けた。しかし何故か私のペンだけが青色だったので、私は友人に赤ペンを借りて、×印を二つ付けた。

 私がぼうっと、車内から外をながめていると、一本の木が遠くのおかに生えているのが見えた。すると友人が、昨日見たテレビ番組の話でもするようにして、

「聞いたかよ。みんな蜜柑みかんの木が大好きなんだ。そこにはしらぬ間にまた、人が増えているらしいぜ」とった。首吊くびつりに蜜柑みかんの木をもちいる事が、今の流行トレンドらしい。

 貧乏少年が、隣の車両から私たちのところへ戻ってきた。彼は不確ふたしかな面持おももちで、

「社会見学の前には、しっかり水にからないと駄目だめみたいだよ」とった。

 目的の駅が、いよいよ近づいてくる。私は皆の話を聞きながら、延々えんえんと、理由の判らぬ漠然ばくぜんとした遅刻の不安感に、襲われ続けていた。

 ダルマみたいなふとっちょ車掌しゃしょうさんが、私たちの前に現れ、社会見学について話し始めた。どうやら一緒に乗り込んだ他の学校の人たちも、同じ社会見学へ向かうらしい。

「ホームへでる前に、電車の中でキチンと二列に並んでください」

 車掌しゃしょうった。

「ありがとうございます」

 私ははきはきとした声で答えた。それにつられたのか皆も、

「ありがとうございます」と合唱をした。

「皆さんおそろいで。へっへっへ」

 車掌しゃしょうはえびす顔で笑った。が、すぐさま顔をきりりとただすと、いかにもおごそかな敬礼で、「いってらっしゃい」と我らを称えた。

 私たちも敬礼をした。

 車内のときが一瞬止まった。

 

 

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