第11話 詐称の罪

しばらくして、上野の森キャストの近所では男が聞き込みをしている。

「こういうものです。」

訪れた男の名詞にはデータバンクの文字があった。

「ルビちゃんかい?もしかして、縁談?」

「いえ、就職調査です」


「そりゃもういい子だよ。いつも元気で笑顔だしね。あたしらにも親切で、足が痛くって辛い時は食事の世話までしてくれたんだよ」

「森のおっちゃんも、うちみたいなところに来てくれて願ったり、かなったりって言ってるよ」

「ご家族は?」

「そういや、聞いたこと無いねえ」

「森キャストの前にはどこにいたんですか」

「さあ、張り紙見てきたらしいけど」

「その前はモスバーガーに勤めてたって聞いたけどねえ」


チリエージャでは調査員が報告をしていた。

「調べたんですが、家族のことは全くわかりません。両親は子供の頃無くなって中学までは施設にいたみたいです。高校は夜間の商業高校。コンビニに勤めながら通っていたみたいですが。」


デザイン室では噂話の花が咲いていた。

「孤児の施設の出身ですって!」

とテツ。

「え~素敵、テレビドラマみたい」

とみほ。

「まあ、そんな方がこのチリエージャに?」

と翠

「こういった会社だから、身元が一番重要ですからね。身元保証人でもいない限りアルババイトでも難しいですね。」

「やっぱり辞めてもらったほうが?みんな安心して働けません」

「そうね。このままだとそのほうがいいかも・・・・・・せっかくいい子だと思ったのに残念ね」

櫻子先生は少しがっかりした様子だ。


そんなことも知らずにせっせとダンボールを運ぶルビ

「ちょっと、話があるんだけど」

とさゆりが声をかける。

「はい・・?」


しばらくして、上野の山の土手にうなだれて座るルビの姿があった。

「どうした、ルビ」

バイクで通りかかったエイタが声をかけた。

「ああ、エイちゃん。今日すっごい空が綺麗。夕陽見てた」

「まだ、会社の時間じゃないのか。」

「会社・・クビになった」

「え?」

「私が悪いの。」

ルビは続けた。


「もともと臨時のアルバイトだし、チリエージャは宝石の会社だから身元保証人が必要なの。・・それにあたし、履歴書に書いてなかった事があったから。書いたら雇ってもらえないと思って。」


「施設にいたこと?」


「・・知ってたんだ」


「前に手紙が来てたの偶然見ちゃってさ。なんとなく、もしかって思ってた」

「10歳の時に両親が亡くなって、中学を出るまでは施設に引き取られてたの。その後、バイトしながら商業高校を出て・・」

「施設にいたのは悪いことじゃないだろ!それに、俺、身元保証人になってやる!オレじゃ駄目なのか」

「家族で無いと、駄目なんだって。それに、履歴書に嘘を書いたのはいけないことだもん。許して貰えないよ。でもね今まで施設の名前を書いたら、みんな不採用になったの。だから・・だから自分が悪いのはわかってるんだけど、ヤッパリ悲しい。だってたぶんもうこんなチャンスは無いと思うし、みんな凄くよくしてくれたから。」


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