【ホーリーナイトサイド】ディオス達焦る!

 リーファはある大きな部屋の一室の豪華な椅子に正しい姿勢で座り、紅茶を丁寧に飲む。



 「それでライルさんはいつお戻りに?」

 


 リーファの言葉に【ホーリーナイト】のメンバー全員がギクリと固まる。



 「ああ、いやまだ外出中でな」

 「何処まで遠出しているのですか?」

 「ええと……まあ結構遠くだな」

 「本当にライルさんは外出中なんですか? もしかして――」

 「いや大丈夫だ。リーファが邪推する事は何もない」

 「そうですか。ならいいのですが」



 リーファは訝しみながらディオス達を見てくる。

 ディオス達は目を泳がせながらも必死で誤魔化した。

 エルシーが小声でディオスに話す。



 「どうするのよ。ますます状況が悪化しているわよ」

 「分かってるって。だからオリアスの提案で誤魔化すんだよ」

 「実力を見せつけるって事ね」

 「ああ。そうすればリーファもあの無能のライルがいなくても納得するだろ」

 「それもそうね」



 ディオスはリーファの下に近づき正しい言葉遣いでオリアスの提案を口にする。



 「ライルがいない間に俺達の実力を証明しておきたいんだ。リーファには是非見ててほしい」

 「それは構いませんが……ライルさんがいなくて大丈夫なんですか?」

 「ライルなんかいなくても余裕だ」

 「ライルなんか……?」

 「ああ、いや兎に角俺達の実力をリーファに見せておきたくてな」

 「分かりました。では御同行いたします」

 「ああ頼む」



 ディオスはリーファを嘗め回すような視線で見ながら、会話する。

 特に二つの立派な強調された胸を見ている。

 ディオスは内心興奮していた。



 「じゃあ行くぞお前たち」

 「ええ」

 「ああ」

 「行きましょう」



 ディオス達【ホーリーナイト】が活気を入れて出立する。

 リーファは訝しみながらも御同行する。



 「ここがいいな」

 「ここは訓練場ですか?」

 「そうだ。ここの訓練場で飼われている強力なモンスターを俺達が倒す。見ていてくれ」

 「分かりました」



 訓練場で一匹の中型モンスターが放たれる。

 中型モンスターの名前はスーパータイガー。

 トラ型の肉食モンスターだ。

 Bランクに分類されるモンスターである。

 ライルとアーニャが簡単に倒したバッファローやリザードマンと同ランクだ。



 「こいつを俺が倒す。見ていてくれリーファ」

 「スーパータイガーですか。これ位余裕ですよね」

 「まあな」



 冒険者と異なり最高ランクはSSランク。

 これは冒険者が通常、一人で相手取るものではないため……あるいは、現れた時点で手の施しようのない、天災級の相手に付けられたランクだ。

 対して目の前の存在はBランク。

 駆け出しの冒険者には厳しいとはいえ、上位パーティー、とりわけその中でも優秀であるはずのホーリーナイトの力試しには少々、保険をかけすぎた相手と言えた。



 「じゃあ行くぞ!」

 


 ディオスの掛け声で【ホーリーナイト】のメンバーが調子に乗ってスーパータイガーへと挑む。

 先ずは上位剣士の役職を持つディオスが、華麗に決めようと持っていた剣で攻撃を仕掛ける。



 「はあああああああああああっ!!」



 しかしディオスの攻撃がスーパータイガーへ当たらない。



 「あれ!?」

 「何やってるのよディオス」

 「何やってるんだディオス」

 「何をしているんだディオス」

 「いや、普段なら当たっていたんだが、可笑しいな」



 もういいと言わんばかりの態度で、上位戦士のガロンがスーパータイガーへと挑む。

 持っていた太い硬質な剣で攻撃する。



 「うらああああああああああああああああっ!!」



 しかしディオス同様ガロンの攻撃も当たらない。



 「何してるんだこの馬鹿が」

 「ちょっと本気出しなさいよ。幾らBランクモンスターだからって」 

 「リーファの前ですよ」

 「いや分かってるんだが、何かいつもと調子が違うってか、何かな」



 ディオス達はいつもと違う違和感に戸惑う。

 それを見ていたリーファが「はあー」と大きくため息をついた。

 そして一瞬で彼らが苦戦していたスーパータイガーを制圧した。



 「な!?」

 「あの本当に実力はあるのですか? やはりライルさんがいないと……」

 「いや大丈夫だ。少し今日は体調が優れないだけだ」

 「本当ですか? 別に手加減はいりませんが」

 「ごほっごほっ、どうやら少し熱があるようだ。お先に失礼する」



 ディオスは早足で訓練場を後にした。

 それに続いて早足で後を追うようにエルシー達も訓練場を後にする。



 「ライルさんがいないホーリーナイトなど所詮この程度という事でしょうか? ライルさんはいつ頃お戻りになられるのでしょうか」



 ディオス達に追放されたとも知らずリーファはライルの帰りを渇望していた。



       ♦


 「ちょっとどういう事よ。何であんな雑魚一匹狩れない訳。まさか本当に体調不良なの?」

 「いやそれが前とは少し違和感があってな。何かこう、攻撃してもその場にモンスターが居ないと言うか」

 「はあ? 何言ってるのよ。ディオスなら余裕でしょ。それより、リーファに猜疑心を与えたじゃない。どうするのよ」

 「分かってる。次は必ず実力を証明して見せる」

 「ガロンも分かってるでしょうね?」

 


 ガロンもディオス同様、謎の違和感に苦しんでいた。


 

 「ああ分かってる。次は余裕に狩ってみせるぜ」

 「頼んだわよ。アタッカーの貴方達が活躍しないと話にならないんだから」

 「全くですよ。二人ともしっかりしてくださいね」



 ディオスとガロンは先刻までの失態を忘れたかのような切り替えの態度で頷いた。



 「安心しろリーファには必ず残ってもらう」

 「おうよ。俺達はこの国のトップのホーリーナイトだぜ」



 ディオス達は再び奮起する。

 しかしディオスやガロンの違和感の正体がライルの未来予知ラプラスの悪魔のお陰だとは微塵にも思っていない。

 未来予知で未来を見てモンスターの動きを的確に指示していたからこそ、ディオス達は攻撃が当たり苦戦せずモンスターに勝てていたのだ。

 これは回復のタイミング、バフ、デバフのタイミングも同じだ。

 ライルが全て指示していた。


 全て偶然で片づけられ、大噓つき扱いされたが、ライルは確かに未来を見ていたのだ。


 

 リーファに猜疑心を与えた【ホーリーナイト】は崩壊の序曲を奏でる。

 着実に一歩一歩崩壊の未来に足を踏み入れていた。

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