レッドVSホワイト 戦隊ヒーロー主役総選挙

無月弟(無月蒼)

宝塚ホワイトの下克上

 皆さんはご存じだろうか。人知れず悪と戦う、5人のヒーローの存在を。



 ここはある学校の校舎裏。

 一人の女子を、悪者達が囲うようにして立っていた。


「おーほっほっほ! わたくしは悪役令嬢ですわよー! ヒロインをいじめますわよー!」


 悪役令嬢の魔の手が、ヒロインにのびる。しかしそんな中、彼らは颯爽と現れた。


 赤や青、黄色といった色とりどりのヒーローたち。

 ヒロインを安全な場所に避難させた彼らは、悪役令嬢を断罪する。


 ドンッ!

「お前、コイツに手を出してんじゃねーよ」


 壁ドンをしながら迫力のある鋭い目をする彼の名は、俺様レッド!

 

 クイッ。

「やれやれ、あんまり手間を掛けさせるな」


 顎クイをしながら冷たげな眼をするのは、クールブルー!


 ぽんっ。

「そういう所も可愛いけど、ちょっとやり過ぎかな」


 頭ポンをしながら爽やかな笑顔を浮かべるは、王子様イエロー!


「覚悟してよね、おねーさん♡」


 身を屈めた状態で上目遣い。幼く愛くるしく、それでいて時々攻めの姿勢を見せる、ショタグリーン!


 5人揃って……あれ、5人目はどこに?


「おい、一人足りねーぞ。アイツどこ行った?」


 辺りを探すレッド。するとそこに、白いきらびやかな服装に身を包んだ彼……いや、彼女がやって来た。


「遅れてすまない。さあ、悪い子にはお仕置きをしないとね。覚悟はいいかい、そこの君」


 凛々しい顔をしながら悪役令嬢を見据える彼女の名は、宝塚ホワイト!


「「「「「天下御免の胸キュン戦隊、イケメンジャー!」」」」」


 現れた5人は、いずれも目を見開くほどのイケメン揃い。

 彼らは乙女ゲームの攻略対象キャラをモチーフにした戦士達。悪役令嬢と言う名の敵と戦う、作者が東映に土下座して謝らなければならないようなふざけた戦隊ヒーロー。

『胸キュン戦隊イケメンジャー』なのである。



 ◇◆◇◆



 悪役令嬢を懲らしめたイケメンジャーの面々は、学生寮へと帰っていた。

 戦いの時以外彼らは普通の高校生として、寮での生活を送っているのである。


 悪を倒した後の、穏やかな昼下がり。寮の食堂ではレッドとホワイトが紅茶を飲みながら、話をしていた。


「今日は遅れてしまってわるかったね。演劇部の舞台が本番中だったんだ」

「しょーがねーか。ホワイトはヒーローと演劇部を掛け持ちしてるからなあ。今回は何の役やってたんだ?」

「妖怪マニアの高校生の役さ。高校生の可愛い雪女ちゃんが出てくる、素敵なお話だよ。あ、そういえばレッド、君に言わなきゃならないことがあったんだ」

「なんだ?」


 ホワイトの話に耳を傾けながら、紅茶を口に運ぶレッド。


「今までは君がイケメンジャーの主役を務めてきたわけだけど、私と交代しろという声が多数届いているんだ」

「ぶはっ!?」


 飲んでいた紅茶を、盛大に吹き出した。


「ホワイトてめえ、下克上する気か! 俺が主役で、何が不満なんだ!」

「私が言い出したわけじゃないよ。ただファンの子達から、そういう声が出ているというだけさ」


 イケメンジャーには、とにかくファンが多い。

 今回の主人交代の件は元々ホワイトのファン達が言い出したものだが、実はもう一つ、別の理由もあった。


「ほら毎年KACの度に書いているイケメンジャーシリーズも、今年で三年目だろう。マンネリ化してきてるから、何かテコ入れしようって製作サイドが話をしているんだ。で、そこに丁度ファンの子達が主役交代してほしいって言い出したから、やってみるのもアリかって事になっているそうだ」

「なんだよ製作サイドって。まあ、確かにマンネリ化は問題だけどよう」


 本家戦隊ヒーローは一年で次のチームに交代するが、イケメンジャーは違う。

 メンバーが変わらないまま同じような事を繰り返していたら、飽きられるのも無理はないだろう。

 しかし、はいそうですかと納得できるレッドではなかった。


「だからって、赤でなく白が主役になるなんておかしいだろ。戦隊ヒーローの主役と言ったら赤! これは未来永劫変わることの無い由緒正しい伝統なんだ! 変えちまったら、本家戦隊ヒーローやそのファンから怒られるぞ!」

「それはどうだろう。世の中何が起こるか分からないからねえ。もしかしたら本家でも白が主役の戦隊が結成されて、既にオンエアされているかもしれないよ」

「ははっ、無い無い」


 あくまで赤以外が主役なんてあり得ないと主張するレッド。

 するとそんな彼を、ホワイトは真顔で見つめる。


「今上がっている案としては、どっちが主役がいいか、ファン投票で決めようってことになってる」

「いや、だから俺はそもそも主役を降りる気はねーから。白が主役だなんて、納得してねーし」

「私もね、君が主役である事に不満があるわけじゃないんだ。だけど私が主役の話が見てみたいという声は確かにあって、期待された以上はそれに応えたい。そして何より私の力がどこまで通用するか、試してみたいんだ」


 ファンからの声があったからだけでなく、自分の力を試してみたいという思いが、ホワイトにはあった。

 それは決していい加減な気持ちではなく、高みを目指したいという確かな思いと信念があってのものだった。


「競う相手が今までチームを引っ張ってきた君だからこそ、戦ってみたい。好敵手と見込んでのお願いだ。この勝負、受けてくれないか」


 深く頭を下げ、懇願するホワイト。真っ直ぐにぶつけられた言葉に、レッドは思わず圧倒されたけど、すぐにそれに答える。


「わかったよ。そこまで言われたのに勝負を受けないようじゃ、男が廃るもんな。けどやるからにはお前を潰すくらいの気持ちでいくから、覚悟しておけよ!」

「望むところだ。私も全力全開でいかせてもらうよ!」


 かくして、二人のイケメンの直接対決が決定したのだった。




 それから数日の間。レッドもホワイトもそれぞれファンに向けて演説やパフォーマンスを行い、我こそが時期主役に相応しいと訴えかけた。

 その結果。


「同票!? 何百人も投票したのに、同票だと?」

「驚いたよ。まさかこんな結果になるとはね」


 まさかの同票。この結果に二人は悩んだ。

 同票になるなんて思っていなかったから、どうするかなんて考えていなかったのだ。


「どうする? 同票なら現状維持ということで、君が引き続き主役をやるってもできるけど」


 ホワイトからの提案。しかしレッドは、首を横に振った。


「ふざけるな。そんな施しを受けるような真似して主役になったって、嬉しくねーよ。もう一度だ、また演説やパフォーマンスをして、一週間後にもう一度勝負だ!」


 レッドの提案で、やり直すことになった主役選挙。

 しかし2回目も結果は同票。3回目も4回目も、結果は同じだった。


 ここまで来るともうやめれば良いのに、レッドは決着をつけると言って、何度も選挙は繰り返された。


 そうして同票が続くこと20回。

 21回目もきっと同票。誰もがそう思っていた。だが……。


「キャー、宝塚ホワイト様ー、おめでとうございまーす!」

「お姉様なら必ず主役の座を射止めるって信じてましたー!」


 勝ったのはホワイト。21回目にしてようやく、この長い戦いに決着がついたのだ。


 その結果にファンの子達は歓声をあげて喜び、ホワイトはそんな女の子達に手を振っている。

 そしてその隣ではレッドが、ガックリと膝をついていた。


「レッド、勝負を受けてくれてありがとう。勝敗以上に君と本気で戦えたことが、私は嬉しいよ」

「うるせえ、慰めはよせ!」


 自分が負ける可能性を考えていなかったわけではないが、やはり実際にそうなってしまったのは、ショックだったようである。

 しかし彼はなぜ負けたのか。その答えを、ホワイトが告げる。


「君は少し、決着をつけることに拘りすぎた。21回も選挙をしたものだから、いい加減疲れた子も出てきたのだろう。敗因はそれだよ」


 最初に選挙を言い出したのはホワイトだが、その後何度も繰り返したのはレッドだった。

 どうしても決着を着けたいという彼の思いが強すぎたため、このような結果を生んでしまったのだ。

 レッドは悔しそうに顔を歪ませるが、すぐに吹っ切れたように言う


「ええい、ちくしょう! けど仕方ねーか。レッドが主役で無いのはやっぱりまだモヤモヤするけど、約束だからな。負けた以上、もうごちゃごちゃ言わねーよ。ホワイト、これからはお前が、戦隊を引っ張っていけ」


 レッドは負けた。しかし終わったことをいつまでも引っ張るほど、彼は小さい男ではなかったのだ。


「いいか、お前は俺から主役の座を受け継いだんだからな。しっかり務めをはたさねーとただじゃおかねーぞ」

「もちろん、期待に応えらるよう頑張るよ。それに君も気を落とすことはない。ほら、あれをごらん」


 ホワイトが目を向けた先。そこには敗れたレッドに向けて声援を送る、たくさんのファンの子達がいた。


「レッド様ー、顔を上げてくださーい!」

「主役じゃなくなっても、私達はレッド様のファンであり続けまーす!」


 送られてきたのは、勝利したホワイトにも決して負けない、暖かい言葉の数々。

 勝敗だけが全てじゃない。ファン達のレッドへの愛は、何も変わっていないのだ。


「へへ、ありがとよお前ら。俺はこれからも、頑張っていくからな。それとホワイト、これからの戦隊を、頼んだぞ!」

「了解だ。頼れる仲間達と一緒に最高の戦隊にしてみせるから、皆も応援してくれ!」


「「「きゃーーーーっ!」」」


 こうして21回目の選挙でようやく、宝塚ホワイトを主役にした、新生胸キュン戦隊イケメンジャーが誕生した。


 負けるなイケメンジャー、頑張れイケメンジャー。

 KACが続く限り、なぜか君達の活躍は続いていくのだ!





 おまけ。


「そういえばレッド、君は白が主役をする事には難色を示していたけど、女が主役をする事には何も言わないんだね」

「当たり前だろ。戦隊は男の子だけのものじゃねーんだから、女が主役でも別にいいだろ。男女平等だ」

「分かってるじゃないか。君のそういう所、嫌いじゃないよ」

「うるせ」


 おしまい♪


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