ベッド


「一緒に寝ましょうよ!」

「寝ない」

「私と一緒に寝るのが嫌なの!?」

「…そういう事じゃない」

「じゃあ寝ましょうよ!」

「だから、一緒に寝るのはおかしいだろ!?」


珍しくアルフレッドが大きい声を出していた。しかし、エミリアはここで引くつもりは一切無い。ムッとした顔をしながらアルフレッドの顔を見つめ続ける。



事の発端は、数分前だった。



◇◇◇



お父様から呪いついて説明を受けたアルフレッド達はエミリアの部屋へと戻ってきた。しかし、ギルはまだ受け止めきれていない少年達を現実に戻す、とマーヴィンと一緒にキャロウとホレスとベンを側近の控室へと連れて行った。


エミリアはそれをにこやかに見送り、彼らが部屋を出るとアルフレッドにある提案をした。前々から考えていた事なので、今がチャンスだと思ったのだ。


「アルフ、王宮内は安全じゃないから、夜は一緒に寝ましょう!私一人だと危険だもの」


最近、エミリアの周りでは不幸な事が続いていた。怪我などはしていないが、王宮内は安全とは言い難い今、いつ怪我をさせられるか分からない。


だから、夜はアルフレッドと一緒に寝たら、守ってもらえるし側に居てもらえるし、エミリアとしては良い事しか無いと思ったのだ。


(我ながら良いアイディね!)


そんな満足気なエミリアとは裏腹に、アルフレッドは冷たく言い放った。


「寝ない」

「!?」



◇◇◇



こうして、二人は言い合いになったのだ。

エミリアとしては断られるとは思ってもいなかったので、驚きでしかない。


「夜中私に何かあったら、アルフ駆けつけるのに時間かかるじゃないの!」


アルフレッドの部屋はエミリアの部屋と同じ階にあるが、数分の距離がある。しかし、アルフレッドはそれは無いと反論してくる。


「俺は自室よりもエミーの部屋の隣にある側近の控室にある個室で寝る事が多い。駆けつけるのに数秒だ」

「そうなの!?」


それは初知りだった。アルフレッドはエミリアより早くに起きて遅くに寝ているようなので、全く気づかなかった。


「…でも!音もなく襲われたら、助けも呼べないわ!」


だから一緒に寝ましょう。そう言い張るエミリアに、アルフレッドは多少思う事があったようだ。少し考える素振りを見せたあと、口を開く。


「母さん…ライラに寝てもらおう」


そう言うと、アルフレッドは部屋から出ていった。エミリアが呼び止める声は聞こえているだろうに、聞こえない素振りで出ていく。きっとライラに声をかけに行くのだろう。


「そ、そんな…」


エミリアは伸ばしていた手を下ろす。

別にライラと寝たい訳ではなかった。アルフレッドと一緒に寝たいだけなのだ。


(ここから、どう挽回するべきかしら)


絶対に諦めない、それがエミリアだ。失敗してもすぐに次を考える。ウンウン言いながら考えていると、ライラが部屋にやって来た。


「お嬢様、アルフから話は聞きましたわ」

「ライラ…」


事情を説明しなければ、そう思って彼女の方を見るか、ライラはエミリアにウィンクをした。


「大丈夫です。私に良い考えがあります。押せばいいのです」

「…! 今回も押せばいいのね!」


エミリアは先程までの悲しい顔とは打って変わって笑顔になる。流石、アルフレッドの母親である。話さなくても言いたい事を理解して、かつ的確で素敵なアドバイスをくれる。


具体的にはどうしたらいいかしら、そう言いながらはエミリアはライラと作戦を練り始めた。























「ねみぃ…」


アルフレッドの横でギルがあくびをする。

外は真っ暗で、あと数時間もすれば夜が明けるだろうという時刻だ。二人は今の今まで今後の警備について相談をしていた。


「お前がもう少し早くに来てくれれば…」

「仕方ないだろ、あのアホ共の理解に時間がかかったんだ」


本来はもう少し早い時間に解散する予定だった。しかし、ギルがキャロウ達に理解をさせるのに時間がかかり、開始時刻が遅れてこんな時間になってしまったのだ。


「もう今日は宿舎には帰らねーわ、俺もアルフと同じく控室で寝る」


ギル達は一応一番隊所属のままではあるので、軍の詰め所の方にそれぞれ個室を貰っている。


しかし、軍の詰め所の方まで少し距離があるので、ほとんど自室には帰らず、アルフレッドと同じく側近の控室の個室で寝てる事が多い。ちなみに、マーヴィンもキャロウもホレスもベンもほぼ控室で寝泊まりしている。


(念の為に、人数分の個室を準備させておいて正解だったな)


雑魚寝などはしたくないので個室を作り、寝泊まりできるようベッドを置いてある。各自、それぞれ自分の部屋として使えと言ってあるので、個室のドアには名前を書かせてあるので、自室と大差ない。そのため、全員ほぼここで寝泊まりしていた。


「じゃ、また数時間後」

「ああ」


今日はもう数時間後しか寝れないだろうが、仕方ない。二人は少しでも長く寝ようとさっさと自分の個室へと入る。


(そういえば、エミーは母さんと寝たのだろうか)


昼間、エミリアからとんでもない提案をされ頭が痛くなる思いをした。前も注意をしてやったはずだが、エミリアは未だに男というものが分かっていないようだ。


(男女が軽々しく一緒に寝るもんじゃない)


断じて、アルフレッドはエミリアを女として見ている訳ではない。だが、エミリアは年頃の娘だ。そんな娘が男と同じベッドなんて以ての外だ。


そんな事を考えながら服を脱ぎベッドへと向かう。


しかし、そこでアルフレッドはある違和感に気づく。毛布が何故か盛り上がっているのだ。


(は…おい、まさか…)


嫌な予感が頭をよぎり、アルフレッドは勢い良く毛布をめくった。この盛り上がりはあきらかに人形なのだ。


すると、めくった下にはネグリジェ姿のエミリアがスヤスヤと寝ているではないか。アルフレッドの予感が的中してしまった。



「なっ!?」



予感はしていても、思わず大きな声が出てしまう。しまった、っと思った時には既に遅く、扉の外からギルが声をかけてくる。アルフレッドの声に驚き飛び起きたのだろう。


「アルフ!どうした!?」

「な、何でもない。すまん、起こしてしまって」


いま扉を開けられたら困る。アルフレッドは咄嗟に扉を抑えながら答える。ギルは何だよ紛らわしい、と怒りながら扉の前から去っていった。


(良かった…)


いや、良くない。何故、エミリアがここで寝ているのだろうか。これはまたライラの差し金なのだろうか。眠気で頭が上手く回らず、アルフレッドは混乱する。


「うんっ…?」


エミリアが薄っすらと目を開けた。騒がしさで目が冷めたのだろう。とりあえず今は彼女をどうにかしなければいけない。


「おい、お前なんでここに」

「アルフ…?お帰りなさい」


エミリアはフニャっとした顔をして笑う。どうやらまだ寝ぼけているようだ。アルフレッドの質問は耳に届いていないようで、身体をベッドの端に寄せ、ここどうぞ、とマットレスを叩いている。


「どうぞじゃない。お前、一人でここに?」

「違うわ、ライラが送ってくれたの」


少しずつ覚醒しているようで、会話が成立し始める。今回もライラの差し金のようだ。


「あいつ…ろくな事しないな…」


母親に直接文句は言えないが、今この場に本人は居ないので良いだろう。今はそれよりもエミリアをどうにかしないといけない。


「アルフ、早く寝ましょう」

「一人用のベッドだから、狭くて眠れない」

「なら、私のベッドに行きましょう」

「…」


眠そうな顔をしながら、エミリアはアルフレッドを見る。彼女は何が何でも一緒に寝るつもりのようだ。


「お前のベッドで一緒に寝ていたら、明日メイド達に勘違いをされるだろ」


アルフレッドもそろそろ眠気の限界で、自分が何を口走っているのか分からなくなってきている。明日も仕事が山積みなので、少しでも寝ておきたい。


「それじゃあ、ここで寝ましょう」

「…そうだな」


もう諦めよう。ここで言い合いをして、これ以上睡眠時間を削りたくない。

妹と一緒に寝るのだ、そうだ、そう思おう。


(俺に妹なんぞいないが、妹みたいなもんだしな)


無理やり自分を納得させると、アルフレッドはベッドに入った。

エミリアも満足そうな顔をしている。


「おやすみ、アルフ」

「おやすみ」


寝れればもう何でもいいい、アルフレッドはそんな事を考えながら眠りについた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る