第39話 カノジョも彼女

「前回の私たちそれぞれの定期テストの順位は?」




 自信満々の表情で、千代は俺に問いかけた。


 ――前回のテストは、俺が学年一位、そして千代が学年二位。


 どちらが一位になるか勝負までしておいたのだから、俺が千代の順位を間違えることはありえない。


 逆に、亜希と瑠羽と麻衣ちゃんの順位については――彼女とはいえ他人の順位をわざわざ覚えるようなことは、普通・・はしないだろう、と考えたか。




 なるほど、この質問で決めると宣言するだけはある。


 ……正直、ちょっとセコイ気もするが。




「さぁ、スマホに順位を入力してちょうだい」




 勝利を確信した笑みを浮かべ、千代は言う。


 気分はギャンブル漫画の主人公なのだろうが、残念ながら彼女は……。




「亜希は58位、瑠羽は160位、麻衣ちゃんは14位、千代は2位」




 ギャンブル漫画の主人公ではなく、ギャルゲーヒロインなのだ。


 俺の回答を聞いてから、それぞれのスマホに表示されている順位を見て、千代は狼狽し、驚愕を浮かべた。




「そ、そんな……。成績上位者でもないのに……こんなのイカサマよ!?」




 そう言って、千代は俺の肩を掴んでゆすった。


 ……千代はギャルゲーヒロインなのだ。


 ギャンブル漫画の勝ちを逃して急に小物と化す敵キャラではない。


 ので、そんな安っぽい反応をしないでくれないだろうか……!




「イカサマじゃないですよ!」




「そうそう、伊院さんはとある要素を忘れてるみたいだね」




 麻衣ちゃんと瑠羽が、ニヤニヤと笑みを浮かべながら、千代に向かってそう言う。




「とある要素……?」




 繰り返して言う千代に向かって、亜希が言葉を引き継いで言う。




「普通の人なら、伊院さんの思惑通り、学年上位でもない限り、他人の順位なんて覚えていないと思うわ。だけど友馬は――あの『HENTAINOTE』の製作者なのよ……?」




 その言葉に、はっ、とした表情の千代。




「恵まれた頭脳から生まれたクソみたいなノート。合法非合法問わずありとあらゆる学園の女子のデータを集め、網羅したコンプラと言う概念を無視しきったあのノートの製作者なのだから……大好きな彼女の成績を覚えていない方が不思議じゃない?」




 亜希の言葉に、千代は愕然とした表情で、膝から崩れ落ちた。




「私と一緒にいる時は真面目だから、すっかり忘れていたわ。友君の異常とも言える性癖……記憶力を……。見誤っていた、というわけね」




 悔し気に歯噛みをする千代。ノリノリだった。


 そんな彼女に優し気な視線を向けつつ、亜希は言う。




「伊院さんから勝負を持ち掛けられたときには既に、気づいていたわ。このクイズが、そもそも勝負になんてならないことに」




「それは……どういう意味?」




 不思議そうに問いかける千代に対して、亜希は答える。




「『HENTAINOTE』にかける熱意の全てをあたしたちに向けて好きでいてくれる友馬にとって、私たちに関することで分からないことはないんだから。そもそも、決着がつくはずないのよ」




 亜希の言葉に、瑠羽と麻衣ちゃんは大きく頷いていた。


 三人のその誇らしげな表情を見て、千代はポカンと口を開いてから、俯く。


 そして、大きく息を吐いてから、呟く。




「……凄い信頼関係。私の完敗よ。もう、あなたたちの関係に、文句はつけられないわ」




 そう言った千代に、亜希はおもむろに近づく。


 そして――彼女を、ギュッと抱きしめた。




「ま、真木野さん……!?」




 何が何だか分からずに、動揺を浮かべる千代に対して、亜希は言う。




「勝ち負けなんか、ないって言ってるのよ。あたしたちの友馬に対する気持ちも、伊院さんの友馬に対する想いも。どっちが上とか下とかないし……それに何より。友馬があたしたちに順番をつけるってことも、絶対にない。それは、少しだけ伊院さんよりも先に友馬のことを好きになったあたしたちが、保証する」




 亜希の言葉に、瑠羽と麻衣ちゃんは大きく頷いた。




「だから、折角同じ人を好きになったんだから。伊院さんとも……瑠羽や麻衣みたいに仲良くなりたいって、あたしは思っているんだけど……ダメ、かな?」




 亜希は、千代に上目遣いにそう言った。


 ……むやみやたらと彼女を作ることはもちろん反対なのだろうが、千代が中途半端な気持ちで俺の恋人になったわけではないと察したのだ。




 しかし、重大な問題が発生していた。


 ――亜希が、千代を口説いてる感じになっているのだ。


 そういうのは……彼氏の俺の役目ではないだろうか!?




「……皆の気持ちも。友君の皆に対する気持ちも。十分伝わったわ。私と同じように、不純な気持ちなんてないのよね。それなのに……試すような真似をして、ごめんなさい。こんな私が――みんなと一緒にいて、本当に良いのかな?」




 不安そうな千代の表情。


 震える声を漏らし、彼女は亜希を、瑠羽を、麻衣ちゃんを――そして、俺を見た。


 彼女の視線を受け止めてから、俺は答える。




「良いに決まってるだろ! いきなり恋人から『四股してます。だけど皆のことが大好きだから、引き続きよろしくお願いいたします』なんて言われたら、何かしら試すようなことをするのは当然だろ!?」




 俺の言葉に、亜希と瑠羽、麻衣ちゃんが、無言のまま大きく頷いた。


 それから、相変わらず無言のままジィッと俺を見つめてくる。


 正直ちょっと気まずかった……。




「私も……みんなと、友くんと。これからもずっと、一緒にいたい」




 紅く上気した頬。


 涙を讃え、潤んだ瞳。


 不安気に言う彼女が儚げで、何よりも愛おしくて――。




「これからもずっと、一緒にいて欲しい」




 俺は彼女を抱き寄せて、そう答えた。


 千代は、俺の背中に腕を回し、「ありがとう」と小さな声で、呟いた。




 それからしばらく彼女を抱きしめていると、わざとらしい咳払いが耳に届いた。


 俺と千代は互いに離れる。




「伊院さんばっかりズルい。……あとで、ちゃんと私たちも抱きしめてくれないとダメだから」




 瑠羽が不服そうに唇を尖らせてそう言う。




「もちろん、そうさせていただきます」




 俺の言葉に、瑠羽はもちろん、亜希と麻衣ちゃんも嬉しそうに頷いた。




「それじゃあ、このクイズももうお開きだな……」




 俺が言うと、




「え? まだ続けるでしょ」




 キョトンとした様子で、亜希は言う。




「そうだね。……色々と聞きたいこともあるし」




「友馬さんが私たちのことで分からないことはないけど、私たちはお互いに知らないことも知ってるから」




 瑠羽と麻衣ちゃんは、どこか悪い顔画をしながらこちらを見てそう言った。


 ……一体俺はこれから、何を言わなくちゃいけないんだ?


 この殺伐とした雰囲気に、どうしても不安になってしまう。


 良い話だなぁ、で終わったと思ったんですけど……?




 助けを乞うように、俺は千代を見る。


 俺の視線に気づいた彼女は、満面に笑みを浮かべて、大きく頷く。




「それじゃあ、ここから先は改めて、勝ち負け関係ない2巡目を、開始するわ」




 それから俺は、彼女たちの様々な質問攻めに遭い、かなりの恥ずかしさに悶えることになった。


 だがしかし。


 彼女たちも同じように悶えていたので、トータルでプラスかな、と思うのだった――。


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あとがき

 ここまで読んでくれてありがとっ(≧◇≦)

 次回から、不定期更新になります(*´σー`)エヘヘ

 現在、「伝説の最強魔王に転生したおっさんは、勇者を蹂躙したのでのんびりスローライフを送りたい」を毎日更新中なので、良かったらそちらもチェックしてください(*´▽`*)

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友人キャラです。学園の女子から嫌われています。モテモテ主人公は別にいます。←こいつがヒロインNTRれた理由…何なん? 【世界一】超巨乳美少女JK郷矢愛花24歳 @tonikaku

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