第33話「強すぎて……」

 降って湧いた幸運により、猛者である竜騎士? のアクアさんを仲間にした後、ついでとばかりにクエストに同行して貰う事にした。


 町の門を出て東に向かうと、目的の村へ着く。

 今はお昼前ぐらいだから、夕方には着くかな? という距離だ。


 馬車や馬を借りても良かったんだが、どうせなら道中で出現するモンスターを退治して経験値を得たいので、歩きで行こうと思う。


 そう思い俺とマッドが歩き出すと、アクアさんは立ち止まったまま首を傾げていた。


「どうしたんですか?」

「いや、もしかして歩いて行くのか?」


「まあ、道中のモンスターも退治して討伐報酬も欲しいんで……」

「だったら、もっと効率良く行こう。ちょっと待ってな――」


 アクアさんはそう言うと、指を輪っかにして口元へ持っていき口笛を吹き出した。


 なにをしているんだ? そう思ったのも束の間――


「ピィーッ!」


 鳴き声を上げながら何かがやって来た。


「おう来たな! よしよしっ」

「ピィ~ッ♪」


 アクアさんの体へ嬉しそうに体を擦りつけるのは、臆病で有名な走竜と言われるモンスターだった。


「俺、野生の走竜見たの初めてっす!」

「俺もだよ……まさか呼んで来るとはね……」

「口笛吹けばすぐだぞ?」


 いやいや、口笛鳴らしたぐらいじゃ来ないですからっ……一体何者なんだこの人?


「どれ、後二体も呼んでやる――」


 アクアさんがまた口笛を吹くと、どこからともなく二体の走竜が現れる。


「よしよし。じゃあ、これに乗って行くか!」


 当たり前のように走竜へ跨がり、俺達に早くしろと促すアクアさん。そんな事言われても、走竜なんて乗った事ないしな……。


「手綱もないのにどうやって進むんですか?」


 俺の当然の疑問に、マッドも同意するように頷いている。


「行きたい方向を指図すれば良い。コイツらは頭が良いからそれだけで進むぞ?」


 本当かよ……とりあえず、言われるまま走竜へ跨がってみる。お、意外と座り心地が良いな。


 しかしだ、やはり手綱が無いとフラフラする。これを手綱無しで乗るには、相当な体幹が必要な気がする。


 マッドも同じく走竜へ跨がってみたが、やはり掴まる所がないから安定しないようだ。


「進めっす――うああっ!」


 案の定落ちるマッド。俺も真似して進めと命令してみたが、走竜が進むと同時に振り落とされてしまった。


「いつつっ……難しいですアクアさん……」

「情けないぞお前達。よし、コイツらを乗りこなせるまで練習だな」


「手綱買ってくるっす……」

「走竜に手綱なんぞ付けたら暴れて話にならんぞ? 諦めて乗りこなす練習をしろ」


 走竜に乗りながら腕を組み、落ちた俺達を見下げるアクアさん。どうやら拒否権はないようだ……。


 それからクエストは一時中断して、走竜に乗って走る練習をするはめに。俺は盾を背中に担いでるから、中々バランスを取るのに苦戦していた。


 数時間後。


 根気よく練習に励んだ俺達は、なんとか走竜に乗ってもある程度のスピードなら落ちずに乗る事に成功していた。


「やりましたよアクアさん!」

「俺も乗れてるっす!」

「よし、なら行くか! コイツらなら狭い所でも進めるから馬なんぞよりよっぽど役に立つぞ。モンスターを追っかけるのも簡単だ!」


 ああ、それで走竜にしたのか。走竜なら馬よりスピードもあるし、なにより身軽で森の中も駆ける事が出来る。


 モンスターを狩りながら進むなら、確かに便利かもしれない。スピードはMAXの半分も出ていないが、なんとか落ちる事なく走竜で走り出した俺達。


 クエストの目的地まで途中途中モンスターを倒しながら進み、順調に討伐報酬と経験値を積み上げていく。


「中々筋が良いぞ! 連携もバッチリじゃないか!」

「いや~、そんな事ないっす~」

「まだまだですよ~」


 アクアさんに褒められ照れる俺とマット。それから気を良くした俺達は予想以上に奮起してしまい、気付いたらかなりのモンスターと戦っていた。


 お陰でレベルはぐんぐん上がり、その副産物で俺とマッドは新たなスキルとバフを獲得する事が出来た。


 マッドは【盗む】を覚え、本当にシーフみたいになってきたな。んで俺はというと、【連帯】という不可思議なバフを獲得。


 効果は今一分からないが、役立つものだと期待したいところだ。そして、それから数時間後。



 夕方になり、ようやくワイバーンによる家畜が襲われるという被害にあっていた村へと到着した。


「ふ~っ! やっと着いたっす!」

「日も落ちて来たし、本番のクエストまで村に滞在して情報を集めよう」


 村に着いた俺達は、クエストを依頼した村長の所に行き、クエストについて詳しく聞く事にした。


 走竜に乗る俺達を怪訝な表情で見る村人に挨拶をしながら村長宅へ向かっていると、突然警戒を知らせる鐘が村に響き渡る。


「東の空からワイバーンが二体やって来たぞーっ! みんな家畜を隠すんだ!!」


 注意を促す叫び通り、東の空から翼を羽ばたかせたワイバーンが二体やって来ているのが見えた。


「着いたと同時に本番か……」

「どういう戦法で行くっすか?」


「そうだな……家畜を狙って下降してきたとこに俺がシールドバッシュで攻撃してバランスを崩し、下に落ちたところをマッドが攻撃って感じかな。そこでトドメを刺さなくても良いから、翼を狙って飛び立てないようにしよう」

「了解っす!」


 戦法が決まった所で走竜から一旦降りた俺達は、いつでも戦えるように身構えていた。


「亜種が調子に乗りおって。王は何をしている……」


 そんな時、後ろで上空を見ていたアクアさんがボソッと呟く。なんだか少し怒っている感じ。不思議に思い、どうしたのかとアクアさんへ訪ねようと瞬間――


「ぎいいぃぃっっ!!」


 上空で旋回していたワイバーンの一体が苦しそうな叫びを上げ、突然生気を無くしたように落下を始める。そしてその体の上には、アクアさんがハルバートを突き刺している姿が目に入っていた。


 その後、続けざまに二体目のワイバーンに飛び移り、さきほどと同様にハルバートを突き刺して討伐を終えてしまった。


「強すぎっす……」

「これが竜騎士の実力……」


 ここまで俺達の後ろで戦闘を見守っていた事もあり、突然の行動に驚くしかなかった。


 何故急に怒り出してしまったのか。そして、俺達の練習相手を、急に奪わないで欲しかった……。

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