第32話「最強の新参者」

 リリエッタのお父様と対話してから数日後。

 俺とマッドは、冒険者ギルドへ来ていた。


 リリエッタとサーシャが戻るまでは、暫く二人でクエストを受けて経験を積むつもりだ。


「これなんかどうっすか?」


 掲示板に張り出された数あるクエストからマッドが指差したのは、『ワイバーンを退治しろ』という、難易度Bのクエストだった。


「難易度Bか……少し難易度が高いが、グルグル火山でレッドドラゴンと遭遇した時の良い練習になるか?」


 少し悩んだが、グルグル火山に挑むまで半年しかない事を考えると、二の足を踏んでいる場合ではない。


 俺は何件かのクエストを掲示板から剥ぎ取り、受付で受注を済ませた後、ついでにクランメンバー募集の紙を渡した。


 泉のダンジョンを受けた後、クランのランクが新設クランから零細クランへと上がったので、増員をしようとしていた。


 最初は三人しか集まらなかったから、今度はどれだけの応募がくるか楽しみだ。


 俺のジョブも進化して【雑用】よりはマシだと思うので、少しは興味を引いてくれるだろう。


 因みに今のジョブとステータスは、


《エレン 20歳 男》


 ・ジョブ【主任】Lv5

 ・HP=200

 ・SP=100

 ・攻撃力=70

 ・防御力=100

 ・素早さ=70

 ・器用さ=200

 ・固有スキル【評価】【鷹の目】【シールドバッシュ】【交渉】

 ・固有バフ【同時進行】


 この通り、ジョブの進行と共に能力は向上し、スキルだった同時進行がバフに昇華。そして、新しいスキル【交渉】を獲得していた。


 なんだか【雑用→平社員→主任】と進化しているを見ると、サラリーマンが昇格しているようだ。


 この先はあれか、【主任→課長→部長】みたいな感じで進化するのか? それもまた複雑な心境になるな……。


「どうしたんすかリーダー? 早くクエストに行くっす!」

「あ、ああ。そうだな……」


 マッドに急かされギルドを出た俺達は、そのまま真っ直ぐ首都を出て、ワイバーン被害で困っている近郊の村へと向かう事にした。


 しかし、その途中で意外な人物と再会する事に――


「もしかしてエレンか?」


 町の門を出ようとしていた所で、後ろから声をかけられた。振り向くと、そこには蒼い鎧とドラゴンを模した兜を被り、斧と槍が一体になった武器ハルバートを持った【竜騎士】であるアクアさんがいた。


「アクアさんじゃないですか!?」

「久しぶりだなエレン。元気にしてたか?」


 久しぶりに聞く力強く清廉な美しい声。兜からは水色の長い髪がサラサラと風に乗り揺れている。


 そう、アクアさんは最強の冒険者でもあり、最強の美女でもあるのだ。兜を取った時の姿を初めて見た時は、あまりの美貌と溢れ出る強者のオーラに見惚れてしまったのを思い出す。


「はい! あ、そう言えば聞きましたよ。【黄金の槍】を辞めたらしいじゃないですか……」

「まあな。あそこもそれなりに居心地が良かったんだが、エレンの最高のメンテナンスを受けられないから辞めたまでよ」


 最強の冒険者との呼び声高いアクアさんから、最高だと褒められるとなんだか照れくさくてむず痒い。


「お、俺のメンテなんて大したことないですよっっ。それより……アクアさん、今はどうしているんですか?」


 アクアさんの現状が気になりそれとなく聞いてみた。

 もうどこかのクランに所属しているのか。

 それとも、ソロで活動しているのか気になる所だ。


 まあ、アクアさんほどの実力があれば、ソロでも十分活躍出来るのだろうけどね。なんと言っても、年間1000枚以上の金貨を稼ぎ出す猛者だし。


「特にどうもしていない。エレン以上のメンテをしてくれる奴が居ないから、どうもやる気が出なくてね。そう言えば、エレンはクランを立ち上げたらしいじゃないか?」

「ま、まあ……でも、大したクランじゃないですよ? メンバーも、俺含めて四人しかいない零細クランですし……」


「大きくなるのはこれからだろ。エレンのように優秀な者なら、直ぐに人も集まり出すさ。そうだ、今メンバーは募集しているのか?」

「ええ、まあ……」


「そうか! それは良かった! だったら、私をエレンのクランへ入れてくれないか?」

「へっ? アクアさんを俺のクランに?」


 突然の出来事に、思わず隣にいたマッドを二度見してしまう。


 当のマッドは、「凄いっす! 是非加入して欲しいっす!」と、乗り気だったが、俺は二つ返事で頷く事は出来なかった。


 理由は二つ。


 まず、単純にアクアさん程の実力者に払える月給が確保出来るかという不安。


 そして、仮にアクアさんを俺のクランに入れたら、俺達の弱小ぶりに呆れ、直ぐに辞めてしまうんじゃないかという心配が脳裏に浮かんでしまった。


「うーん……」


 俺が悩んでいると、アクアさんはハルバートを掲げて俺にこう言った。


「私への報酬は、この武器のメンテナンスと、私の体自体のメンテナンスだけで良い! 君のメンテナンスを受けられるなら金など要らん!」


 それは凄く魅力的な提案だった。武器のメンテナンスは慣れてるからお手のものだし、アクアさん自体のメンテナンスも別に抵抗はない。


 あ、因みにアクアさん自体のメンテナンスとは、マッサージの事だ。アクアさんは、俺のマッサージが大好きで良くお願いされていた。


 なんでも、『ちょうど私のツボにピッタリ嵌まる最高の指』なんだとか。アクアさんの体、筋肉が凄くて最初は指が痛くなったっけな。


「それは凄く魅力的な提案なんですが……」

「どうした? 何か不安を感じる事でもあるのか?」


「いや、アクアさんのような猛者に比べると、俺達はまだまだ弱いですし、足を引っ張らないかと……」

「ハハハッ! そんな事を心配しているのか! なに、弱ければ鍛えれば良い。なんなら、私が稽古を付けてやるぞ?」


 最強の猛者が加入し、稽古まで付けてくれるのか。

 しかも給料は武器のメンテとマッサージだけで良い。

 うわ~、断る理由が見つからなくなってきた……。


 うーん、でもな……よし、最後の判断基準として、アクアさんのステータスを確認してから考えるか。


《アクア ??歳 女》


 ・ジョブ【竜の騎士】Lv90

 ・HP=1200

 ・SP=600

 ・攻撃力=800

 ・防御力=800

 ・素早さ=600

 ・器用さ=100

 ・固有スキル【月下雷鳴】【水氷操作】【咆哮】【竜突】

 ・固有バフ【変身】【飛翔】【水中適応】


 な、なにこの人!? 強すぎっっ!!

 あれ? てか、ジョブおかしくない?

 竜騎士じゃなくて竜の騎士?


 なんだか良く分からないほど突き抜けた能力に、


「ぜ、是非加入して下さい!! 」


 気付いたらアクアさんの両手を握り、即決で加入を認めていた……。

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