022 進出

試合は…まあ、勝った。ノーダメージ。完封。ベスト8進出決定。



「いやー、ダイキ先生!さすがでございますです。お肩でもおみいたしましょうか?…なんてね。おめでと。」



しゅんが太鼓持ちになってしまった。ツッコミを入れたいところなのだが、その元気がない。さすがは全国大会。ワシさんレベルのプレイヤーさんがごろごろ。気なんて抜けたもんじゃない。最初から最後まで、気はりっぱなし。



「ありがと。ふへー…疲れた。」



俺のカウンター戦法は周知の事実であるため、今回の大会では「春霞一閃しゅんかいっせん」の採用率が急上昇した。「速度強化」の採用率も上がっている。


この大会、俺にはあまり影響ないのだが、一つ厄介やっかいと言われているルールがある。それが「ベスト8まで技の変更不可」というもの。俺とベスト8までに当たる可能性のあるプレイヤーさんは、カウンター対策の技を入れざるを得ないという状況になったのだ。情報管理の都合らしいが、俺にとってはむしろ好都合。



「大樹…本当にすごいんだな…。それにしても、春霞一閃のラッシュのとき、すごかったな。よくかわせるもんだ…。」



「かなりやばかったんですけどね…。」



あずまのおっちゃんが感心してくれている。まあ、俺もあのシーンは今日のベストだと思っている。ベスト8をかけた試合だったのだが、相手は開幕から全力戦闘を展開。春霞一閃を連発し、波状攻撃をかけてきたのだ。



―――結構あせった…。



おそらく俺と当たったらこうする、と決めていたんだと思う。迷いがない感じがした。焦りも重なって、開始20秒ほど回避で手いっぱい。しかもサインの女性、ゆみさんが応援してくれていたのだ。負けるわけにはいかないとプライドが燃え上がり、余計にからまわり。波状攻撃が一段落したところで、なんとか落ち着きを取り戻し、カウンターで押し切った。



「そういえば大樹だいきくーん?スマホを熱心に握りしめて、どうしたのかなー?」



俊にめっちゃいじられる。自分でもなぞの行動力を発揮し、ゆみさんに電話番号を渡してしまったのだ。普段ならば絶対にできない行動なのだが、人との出会い、それは一期一会かもしれない。考えるよりも先に一歩踏み出していた。



「あーもう!電話待ってるの!かかってこんかなーって!」



しばらくはネタにされそうだ。下手をすると、亜美からもいじられるかもしれない。まあ、良いけど。





その夜、スマホの着信音が俺の寝室に鳴り響いた。知らない番号。普段ならば無視するところだが、今日ばかりはそうもいかない。


おそるおそる通話ボタンを押す。



「も、もしもし…。」



その後何があったか、よく覚えていない。ただ、幸せな時間が流れ始めたことだけはわかる。ニヤニヤが止まらないし、電話帳に桜井悠美さくらいゆみさんというかわいらしいお名前が登録されていた。

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