009 一瞬

ゲームスタート。相手の技を確認すると、俺と同じ構成だった。やはり人気らしい。



『燃え盛れ…』



特有のカットイン。いきなりの大技だ。まともにくらえば大ダメージ。試合の行方を決定づけられてしまう。普通ならばガードしてダメージを減らすのだが、俺なら回避できる。


相手キャラが炎をまとい、周囲に赤い花びらが舞う。一瞬の静寂の後、光が一閃。



炎陽えんようっ!』



炎のなかから漆黒に染まった刃が姿を現す。タイミングは…ここっ!



―――よいしょっ!からの…カウンターッ!



一瞬の出来事。やっていることは単純。方向キーを倒して回避。ボタンを押して通常攻撃。それだけ。すべてはタイミングなのだ。



「うぉっ!すげ。今、炎陽かわした!」



「まじで?ラッキーパンチじゃないん?」



若干ギャラリーさんが盛り上がっている。うれしい限り。しかし、ラッキーパンチでもビギナーズラックでもないのだ。それを今から証明しよう。


技にはそれぞれに使用回数が定められている。何十回も発動できるわけではないのだ。必然的に通常攻撃を織り交ぜる必要が出てくる。そして通常攻撃にはカットインする演出などはない。要するに、カウンターし放題なのだ。



―――よし…いけるっ!



きれいな回避からのカウンター。相手キャラのゲージを削り取った。



『コングラッチュレイションッ!』



「ありがとうございました。いや、すごいですね。炎陽かわすなんて…。」



緊張からの解放と初戦突破の高揚感からか、声をかけてもらえたのに、反応が遅れてしまう。自画自賛するのはマナー的に良くないと思うので、落ち着いた返しをしよう。



「…いえ…。ありがとうございました。」



なんとも不愛想な対応になってしまったが、これが俺の限界なのだ。もし気を悪くさせてしまったのならば、ごめんなさい。


まあ、何はともあれ初勝利。1回カウンターを決めてからは、余裕をもって対戦を進めることができた。結果的にはノーダメージ。危うい瞬間もあったが、まあ、乗り切った。このままの勢いで、波に乗りたいところ。



「勝ったぞい!」



一応、俊に報告する。俺の勝利を信じてくれていることはありがたいのだが、まだ試合が行われていないメインステージ前でポツンと一人。さすがに変な目立ち方をしていると思う。いや、別にどこに座るかなんて俊の自由。俺がとやかく言えることではないのだが。



「おー!さすが。じゃあ、2回戦、いってみよう!」



軽いノリで送り出される。トーナメント形式なので、回を重ねるごとに待ち時間が短くなる。対戦相手の方を待たせるのは申し訳ないので、付近で待機する。





「おい、聞いたか?今までノーダメ完封で勝ち上がっている人がいるらしいぞ。」



目の前で俺についての会話が始まった。盗み聞きは良くないと思いつつも、気になる。それとなく近づいてみよう。



「まじで?ノーダメとかあり得るん?だって炎陽とか絶対ダメージ受けるじゃん。」



「いや、全部かわしてるんだって。」



そう。全部かわしてる。そして、全てにカウンターを決めた。



「まじかよ…。よし、見に行こうぜ。その人、どこで試合してるん?」



「次でベスト16だから、そろそろメインステージで始まるはず。」



ベスト16。無事に残ることができた。俊は観客席の最前列。最高の位置でカメラを構えている。基本的に撮影は許可されていないのだが、俊はちゃっかり事前に許可をとったらしい。対戦者や観客のプライバシーに配慮するかたちで、スクリーンのみの撮影だそう。



「いやー、1回戦で負けちゃったけど、そんなすごい人見れるんなら来たかいがある。」



そう言ってもらえると、嬉しい限り。


メインステージの横でスタンバイする。さすがにもう緊張はしていない。視線の先には優勝賞品のゲーム機が鎮座している。今更ながらではあるが、あのゲーム機は副賞に過ぎない。メインの賞品は、全国大会への切符だ。



―――全国大会…どんな賞品もらえるんかな…?



もう賞品のことで頭がいっぱい。何よりも、もう優勝した気分になっている。気合いを入れなおさなければ。



『ベスト16に進出されたプレイヤーの皆さん、ステージに上がってください。』



いよいよだ。


ちなみに当然と言うべきか、前回優勝の方もいらっしゃる。幸いなことにトーナメント的には反対の山。対戦するとなると、決勝ということになる。



―――まあ、ゲーム機を手に入れるためには、勝たなきゃいけないんだけど。



今のところ負ける気がしない。ここまでの戦い、当然ながらノーダメージを継続中。よく異世界転移系のアニメを見るが、俺ならば無双できると思う。カウンター戦法ならば、どんな強大な敵であっても、ノーダメージで倒すことができるのだ。


…何だかフラグを立ててしまった気がするが、まあ、異世界転移なんて現実ではありえない。



―――ん?これもフラグか…。



『では、第一試合を始めます。ダイキ選手、コウタ選手。準備をお願いします。』



さあ、目指すはゲーム機、優勝のみっ!

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