002 予定

おっちゃんに1枚のチラシを渡された。



「ありがとうございます…えっと、大会予選会のご案内?」



FPSというゲームの大会。レトロゲームに勤しむ俺でも知っている、超有名タイトルだ。基本的には格闘ゲームに分類される…と思う。


特徴としては、技を自分でセットできるところ。攻撃にかたよった技構成にすると、防御ぼうぎょ手薄てうすになる。その逆もまたしかり。そこに戦術性が生まれ、ネットにはさまざまな技構成が紹介されている。



「おぉー、FPSじゃん。」



しゅん、やったことあるの?」



俊はあまり格闘ゲームを好まないので、少し意外だった。さっきのゲームは付き合いで遊んでくれているだけ。



「うん。まぁ、再生数が上がるし。」



「なるほど。」



俊はゲーム実況の動画投稿とうこう者として、それなりの地位を得ている。特にシミュレーションゲーム界ではかなりの有名人。公式大会にゲストプレイヤーとしてお呼ばれすることもあるらしい。いわゆる顔出しはしていないため、中の人が高校生であることを知る人は少ない。


それにしてもおっちゃん、なんでこのチラシを俺に。



「ほら、優勝賞品のところ。」



おっちゃんが指さした先、そこには。



「あっ!これっ!」



思わず大きな声が出てしまった。欲しくてほしくてたまらない、最新のゲーム機ではないか。何回見てもたまらない近未来的なフォルム。今も魅力みりょく的なタイトルが続々とリリースされている。


大会の規模がどれほどかは知らないが、参加してみる価値はありそうだ。大会の日程は…。



「げっ!3日しかない…。」



エントリーに至っては今日の5時まで。あと30分しかない。実は昨日までテスト週間で、ここには顔を出せていなかったのだ。ぎりぎり間に合ったので、幸運だったと思おう。



「これ、エントリーの書類ね。親御おやごさんの同意書は、当日までに届ければ良いから。」



「ありがとうございます!」



もうゲーム機を手に入れた気分になっている。捕らぬたぬきの皮算用。





翌日、電気屋さんに行く予定はおじゃんになった…というよりも、せざるを得なかった。隣町のゲームセンターに行き先を変更したのだ。



―――さすがに操作方法くらいは覚えないと。



予選会まであと2日しかない。正直、できることは限られている。


FPSというゲームの特徴は、なんといってもバトル前に選択できる技にある。100種類にのぼる技から選ぶのだが、これが試合を決定づけることすらある。非常に重要だ。ネットで調べたところ、基本的には攻撃系を2つ、防御系を1つというのがセオリーらしい。


技にはそれぞれポイントがふられており、一試合の間で使える数には上限がある。強力な技ほどポイントが高く、使用可能回数が少ない。ここにも戦略的要素が見え隠れしている。



「カウンターってできるん?」



これが使えないとなると、俺に勝ち目はない。



「もちろん。あと、大樹に朗報ろうほうなんだけど、カウンターは通常攻撃に分類されるんだよね。だから、技の選択肢が減らない。」



これはありがたい。


カウンターの仕組みは至って単純だ。相手の攻撃をジャストタイミングで回避。続けて攻撃コマンドを入力する。それだけ。ゲームによっては防御をかませるタイプもあるが、FPSは攻撃コマンドの入力だけで良いらしい。


ただ、言うは易く行うは難し。相手が攻撃を仕掛けるタイミングなんてわからないし、動きを見てからでは間に合わない。高レベルの対戦になるほど、カウンターはラッキーパンチの色を強くする。要するに、当たればラッキーの運ゲーなのだ。



―――ま、普通なら。



俺なら相手の動きを見てからで、十二分に間に合わせることができる。絶対…は言いすぎか。まあ、狙って決められるカウンターが俺の武器。

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