第18話

「それじゃあ、早乙女さおとめくんは誰も殴ってないんだね?」


「はい」


 オレの取り調べを担当した警察官はまち めぐる(めぐり)というまるで中学生のような小柄な女性だった。動きやすいように髪は短くまとめているがどことなく雰囲気がまいに似ていて、親しみやすくもあり、気まずくもあった。


「でも、佐々木くんはキミに殴られたって言ってるよ。先に手を出したのは自分だってことも話してくれたけど」


「先にオレの頭を何か固い物で殴ったのはあいつです。それでオレは気を失って、目が覚めたら鬼瓦おにがわら……暴隠栖ぼういんずのボスにボコボコにされてたんです」


「で、キミはその罪をなすりつけられたと」


「はい」


 果たして警察はどこまでオレの話を信じてくれるのだろうか。何も悪いことはしていないのに、取調室の雰囲気がそうさせるのか異様なまでの緊張に襲われていた。


早乙女さおとめくんの話をひとまず信じるとして」


「え?」


「だって、キミの話にはどこもおかしいところがないじゃない。だから一旦は信じる。でも、他に証拠が出たら信じない。ちゃんと償ってもらう」


「本当に信じてくれるんですか?」


「警察官が嘘をついたらおしまいだよ。それに、早乙女さおとめくんの事情は聞いてるから」


「事情?」


「妹さんを亡くしたのは辛いかもしれないけど、暴走族なんて入ったら同じような事故を起こすかもしれないんだよ?」


「……」


「ああ、ごめんね。妹さんの話題を出すのはなんか違うよね」


「気にしないでください。こんなことになったのは全部オレのせいですから」


 居眠り運転をなくすために大音量を鳴らしながらバイクを走らせる。これだって十分な迷惑行為だ。


 今回はたまたま先にタチの悪い暴走族に絡まれただけで、いつか同じように警察の世話になっただろう。


「同じような居眠り運転の事故をなくしたい気持ちはわかるけど、その手段が暴走族なら別の事故が起きちゃうよ? その心は大切にして欲しいけど、別の方法を探してみて」


 町尾まちおさんの言葉を聞いていると、まるでまいがダメな兄を叱ってくれていたあの頃の感覚を思い出す。


「ここを出た後もしばらくは大変だと思うけど、困ったことがあったら頼ってくれていいからね」


「……ありがとうございます」


 警察官として働いているんだから当然自分より年上だとわかっているのに、なぜか妹のまいの面影を感じる町尾まちおさん。

 この時はまだ、鬼瓦おにがわら関係で困ったことがあったらすぐに相談しようと思える人という認識しかしていなかった。

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