五 あなたをフォロー

 やあ。


 君は小説は読む方かい?


 私は少し前に、投稿小説サイトを勧められて、web小説を読み始めたんだ。


 素人の作品と言えども、なかなか侮れないものだね。つい夜更かしが過ぎてしまう。


 教えてくれた知人には感謝だよ。




 そうそう。


 人に勧めるくらいだから、彼も熱心に利用していたらしくてね。


 しっかりアカウントを作って、毎日色々な作品を漁っては、フォローや評価をしていたんだそうだ。


 私はそこまでするのは面倒だから、ログインなんてしないまま読んでいるけどね。


 彼にしてみれば、投稿サイトはそういったやりとりこそが醍醐味なんだとか。



 ああ、彼自身は小説なんか書いてないよ。

 プロフィール欄には何もない。名前もアルファベットと数字を適当に打ったものらしい。


 そのアカウントでログインしては、目に付いた人の作品へ片っ端からフォローや評価ポイントを付けていく。




 読んでからじゃないよ。


 ただフォローと評価だけをして、次の作品へどんどん移動していくんだ。


 意味がわからないよね。


 さすがに私も、「何のために?」と聞いてみたさ。



 返ってきた言葉は、「ストレス解消」だった。



 何でも彼は、フォローや評価をした次の日には、すぐにそれらを撤回してしまうらしい。


 特に、まだ評価が低い人を狙ってやるそうだ。


 その方ががっかりさせられる、と楽しそうに言っていたよ。


 彼は複数のアカウントを作って、狙った人を集中して攻撃したりもしていた。


 それでやる気を削いで、退会に追い込んでやった事もある、と自慢気にしてたっけな。




 そう。


 小説自体には興味がなくて、伸び悩む作者に悪戯をするのが彼の目的だったんだ。


 その時は特に何も感じずに話が終わったんだけど。

 今思えば、あまり良い趣味とは言えないかな。


 いちいち付けたり外したりする労力を、もっと別の方向に向けた方がいいだろうにね。




 まあ、それはさておき。



 それからしばらくして、また彼と話す機会があったんだ。


 その時、彼は随分やつれていてね。


 聞けば、例の投稿サイトを退会したって言うじゃないか。



 話によると、突然自分がフォローされるようになったんだとか。



 さっきも言ったけど、彼自身は何も作品を投稿していないんだ。


 評価ポイントは付けるけど、レビューや感想なんかは書いてない。評論家としてフォローされるなんて事も無い訳だ。


 最初にフォローしてきたのは、以前自分がフォローを付けて外した作者の一人だったらしい。特徴のある名前だったからよく覚えていたそうだ。


 意趣返しのつもりかとせせら笑っていたところへ、他の作者からもどんどんフォローが飛んで来るようになった。


 彼はイライラしながらも、それらをいちいち解除していたらしいよ。


 うん。根が几帳面なのさ。



 おかしいと思ったのは、だんだんと作者以外のアカウントが増えて来た頃だ。


 自分と同じような、アルファベットと数字だけの無機質なユーザーネームがずらり。



 ブラウザが読み込まれる度に、どんどんとフォローされた際の通知が来るんだ。



 通知機能は切っているのに関わらず、ね。



 ついには解除の手が追い付かなくなり、新しいアカウントを作って乗り換える事にした。



 そうして登録をした直後に、早くもフォロワーがどどっと付いた。



 どれだけ恨みを買っていたんだろうね。


 結局彼は降参して、投稿サイトから撤退する羽目になったとさ。


 最後に見たフォロワーの数は、5桁を超えていたらしいよ。





 でも、辞めたのならもう解放されたはずだよね。



 なのにその時の彼は、話しながらもずっと何かを気にしている様子だった。


 今話した内容も、こんなのんびりした口調じゃない。それはもう切羽詰まった顔をしていた。


 胸元のポケットに入っていたスマホが、ずっと振動していたのが少しうるさかったな。


 最後に彼は早口で、「自分は監視されてる」、とか言い出して猛然と去っていったよ。


 そんな事を口走る病気があるよね。


 確か、ちゅう、ちゅう……なんだったっけ。




 まあ、覚えているのはこのくらいかな。


 残念ながら、それ以降は連絡が付かないんだ。メールアドレスや電話番号も変えてしまったようでね。




 うん。


 どうやら私の知人には、変わり者が意外にいるようだ。


 こんな話で良ければ、また用意しておこうか。

 いつでも聞きにおいで。



 じゃあ、またね。

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