三月十一日

若葉色

三月十一日

覚えています

慌てふためく先生を

泣いて身を寄せ合う友達を


覚えています

どこまでも灰色の、あの空を

降りやまない、あの真っ白な雪を


覚えています

幼い妹を抱いて、駆けつけてくれた母を

疲れきって、それでも「ただいま」と帰ってきてくれた父を


覚えています

色を失った信号機を

道に溢れ返るたくさんの車を


覚えています

まだ、覚えています

今までも、これからも、ずっと

忘れることはないでしょう

だって

あんなに恐ろしかったのですから


覚えています

暗闇に揺れる蝋燭の火を

喉を通らなかったレーズンパンを


覚えています

倒れた食器棚を

砕け散ったガラスの破片を


覚えています

いつもより暗くて怖かった家の廊下を

いつもより寒くて冷たかった家の空気を


覚えています

時折来る、あの大きな揺れを

度々来る、あの小さな揺れを


覚えています

まだ、覚えています

今までも、これからも、ずっと

忘れることはないでしょう

だって

あんなに恐ろしかったのですから


覚えています

時々ふっと思い出します

当たり前を壊されたあの日を

日常が粉々になったあの日を


皆さんも

どうか覚えていて欲しいのです

どうか忘れないで欲しいのです

北の地が揺れに襲われた日のことを

北の地が波に飲み込まれた日のことを

たくさんの命が犠牲になった、あの日を

たくさんの人が悲しんだ、あの日を

そして、今も苦しんでいる人がいるということを

どうか、忘れないでください


あの

三月十一日を





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三月十一日 若葉色 @cosmes4221

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