シスコン病

「あが、あががががが……」


 教室に着いて席に座った瞬間、蒼は奇声を上げて突っ伏した。


「蒼がついに壊れ……いや、元から壊れていたな」


 声からして啓介なのだろうが、いきなり壊れたと言うなんて失礼にもほどがある。

 自分でも今の声が変だというのは分かっているが、普通は気を使って言わないだろう。


「お兄ちゃん、大丈夫?」


 いつもと違う蒼に心配したのか、聞き慣れた声の主が近づいてくるような感じがする。


「美波が、この時間に、いるだと?」


 思わず目を見開いて頭を上げて確認すると、心配そうな顔をしているう美波が立っていた。

 いつもならギリギリに登校する美波がこの時間にいるのは本当に珍しく、普段の彼女からしたら考えられないことだ。

 蒼だけじゃなくて啓介ですら目を見開いて驚いている。


「そこまで驚くのは失礼だよ。せっかく心配して声をかけてあげたのに」


 驚いたのが不満なのか、美波は「むうー」と頬を膨らます。

 失礼なのは認めてもいいが、予鈴が鳴る十分以上前に美波がいるのは、本当に驚かずにはいられないほどに珍しい。


「悪いな。でも、この雨が雪になるかもしれないな」


 シトシト、としばらく止みそうにない雨が降っている外を蒼は見る。


「六月に雪が降るはずないでしょ。本当に失礼だよ」


 全くもう……と呟いた美波であるが、顔はしっかりとこちらを向いていて本気で心配しているかのようだった。

 幼馴染みだからいつもと違う蒼が気になった、というのもあるかもしれないが、心配しているアピールをしているのだろう。


「それでどうしたの?」

「いや、何て言うか……瑠菜の様子がいつもと違ったから」


 今までも恥ずかしがってはいたが、今日の瑠菜は明らかに異常なまでに普段と違った。

 照れ隠しと思えるくらいに会話がぎこちない時があったし、あまりに変でどう対応したらいい分からなくなってしまったほどだ。

 ただ、また妹の話なのか、と思ったでろう美波は不満気に再び頬を膨らましてこちらを見る。

 啓介は「お前がおかしくなる原因は妹しかないわな」と呟く。


「お兄ちゃんの心を奪った妹……むむむむ……」


 好きな人が他の女の子のことを考えているのが嫌なのか、美波はこちらに顔を近づける。

 吐息が感じられるほどに近く、少なくとも人がたくさんいるとこでの距離ではない。


「こんなに近いのに何とも思ってないでしょ?」

「シスコンたる者は女の子に興奮などしない」


 真のシスコンは妹にしか興味がないし、妹を性的な目で見ることもないため、どんなに距離が近くても異性に性的興奮することがないのだ。

 力が抜けたり鼻血を出してしまうのはあくまでも嬉しいためであり、性的興奮しているからではない。


「自慢気に言われても……高校生の男の子が興奮しないなんて絶対に変だよ」

「俺が普通なわけないだろ」

「……そうだったね」


 呆れたような表情になった美波は、何でこんな人を好きになったのかな? と思っていそうな顔だった。

 初恋の幼馴染み再開したら重度のシスコンになっていたのだし、呆れてしまってもしょうがないかもしれない。

 このまま恋も冷めてしまえばいいのだが、どうやらそうはいかないようだ。

 どんなに相手がシスコンであろうとも、好きにさせてしまえばいい、と言うのが美波の考えなようなのだから。


「お兄ちゃんのシスコンは病気だよ」

「妹で病むなら本望」


 ため息混じりの声の美波に反応すると、本気で呆れたかのようなため息をつかれた。

 実際に力が抜けたり鼻血を出して輸血が必要なまでに病んでしまったのだし、もはや蒼のシスコンは病気だと言っても過言ではないだろう。

 そんなのは自覚しているし、シスコン病を隠すつもりもない。


「こうなったら私がシスコンを治してあげるしかないよね」

「シスコンは不治の病だ」

「そんなことないよ」


 ギュッと美波が蒼の腕に自分の腕を絡めてくる。

 決して大きいわけではないが、むにゅう、という感触が伝わってきて、男子から羨ましい嫉妬の視線を向けられたのだった。

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世界一美しい妹を抱き締めて寝ていたらいつの間にかヤンデレになっていた しゆの @shiyuno

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