第4話 

 放課後、将棋部の部室、三人で活動中。


「後輩君ってさあ、・・・どうして私にも敬語なの?同い年なのに。」


 妹さんと将棋中、突然そんなことを質問された。


「・・・私も気になるかも。」


 先輩が、読んでいた本から顔を上げ、興味深そうに僕を見つめた。そんなに知りたいことなのだろうか。


「そう言われましても・・・癖としか。」


 実際、僕は身内以外の人と話すときには敬語を使う。それが年上であっても、年下であっても、ましてや同い年でもだ。理由など、考えたことが無い。気が付いたらそうなっていただけのことだ。


「まあ、初めて会った時からだもんね、後輩君の敬語は。・・・・・・ねえ、ちょっと敬語抜きで話してみてよ。」


 妹さんの目がキラキラと光る。『見てみたい!』と心から思っているようだった。


 ・・・そんなにキラキラした目で見ないでくださいよ。緊張するじゃないですか。


「はあ、・・・まあ、やってみますね。」


 そう言って、深呼吸する。そして、




「あんまり期待するなよ。照れるじゃんか。」




 ・・・・・・


 ・・・・・・


 妹さんと先輩は、ポカーンと口を開けていた。


「あの・・・何か言ってください・・・。」


 無反応と言うのはこうも恥ずかしいものなのか。自分の顔の温度がどんどん上がっていくのが分かる。


 二人が声を発してくれたのは、数秒後のことだった。


「姉さん、ちょっと。」


「うん。」


 二人は、僕を置いてベランダへと行ってしまった。一人部室に取り残された僕は、赤くなった顔を元に戻そうとペットボトルのお茶をくぴくぴと飲む。


 しばらくした後、二人はベランダから戻ってきた。そして、声をそろえてこう言った。


「「(君は)(後輩君は)敬語以外で話すの禁止!」」


 二人の顔は、かつて見たことが無いほどに真剣だった。


 ・・・・・・そんなにひどかったかなあ。




 ベランダにて。


「あ、あれはまずいって。破壊力ありすぎだって。ちょっとドキッとしちゃったよ。」


「彼、いつも敬語だからね。ギャップが・・・・・・。」


「・・・姉さん、顏、赤いよ。」


「・・・あなたこそ・・・・・・あれはやめさせようか。」


「・・・賛成。」




今日の将棋部活動日誌


・敬語以外で話すことを禁止されました。


・・・・・・気にしてませんよ。どうせ癖ですし・・・はあ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る