第4話 ひとまずの目的

 紆余曲折ありましたが勇者さん達と一緒に旅をすることになった私は、一向に平行線で終わらない話し合いを眺めていました。その内容は、『これからどこに向かって進むのか』という物でした。常識的に考えれば魔王討伐の為に組まれたパーティーなのですから、それに関わるところを目的地とするのが道理でしょう。ですが、ここにその道理が通用しない人が一人いました。


「やはり、ここは可愛い可愛いエレナの為になる所に赴くべきだわ!」


 そう、私のこととなると暴走するレオ姉のことです。目論み通り私をパーティーに引き入れる事が出来たのがよほど嬉しかったのか、先ほどから当初の目的である魔王討伐を差し置いて私の能力の使い道を探るのが先決だと言い張って聞きません。思わず『いい加減にして』と強めに言おうとしましたが意外なことに、その意見に同意した人がいました。武闘家のアルドさんです。彼はレオ姉の提案に頷きつつも自身の意見を述べます。


「私はレオーネ殿の意見に賛成ですな。こうして旅路を共にする事になったのです、その力をどうにか使っていただければ御の字でしょう」


 優しい目付きで私を見て、皆さんに向かって諭すように語るアルドさん。初対面の印象は怖い方だと思っていましたがどうやらそれは勘違いのようでした。ですが、当然反対意見も飛び出して来ます。


「ワタシは……今まで通り魔王討伐に向かって進むべきだと思う……。現に、先週旅立ってから今まで苦戦したことが一度でもあった……?レオーネの魔法なりアルド爺の正拳突きなりでほとんど戦闘は終わっていたしこれ以上の戦力増強は過剰……」


 囁くように落ち着いた声で語るのはレンジャーのレミスさんです。彼女は銀色の前髪の隙間から覗く金の瞳で私を見定めるようにその視線を向けてきます。冷たいそれに耐えきれず視線をはずすと、勇者さんと目が合いました。彼はにこやかに笑うとレミスさんのフォローに入ります。


「レミスが済まない。職業柄人の一挙手一投足を見張る癖があってね、僕たちも最初は面食らったよ。でもすぐ馴れるさ。っと、僕の意見も述べたい所だけど先にエレナ君の意見

 を聞きたい。君はどうしたい?」


 真っ直ぐ私を見つめる碧の瞳は優しげで、こんな目をする人にこれ以上自分のわがままで迷惑をかけたくないと思わせます。私はその意見を率直に口に出しました。


「私は正直、ただでさえ無理言って付いてきた状態なのにこれ以上高望みすると迷惑がかかるのではないかと思ってます。なので、私は勇者さん達の目的通り魔王討伐を急いだ方が良いんじゃないかなと思います。ごめんね、レオ姉」


 あえてレオ姉の顔は見ず、そう言いきります。恐らく悲しげな顔をしているでしょうから。彼女は彼女なりに私の事を思ってあのような意見を出しているというのは長年の付き合いでわかっています。その提案を私自身が飲まないことで傷付くことも。


「そうか。いまの時点でレオーネ君に賛成が二人、反対も二人。見事に割れた状態で、僕次第でどうするか決まる状態といったところだね」


 勇者さんは私たち4人の顔を見ながら話を続けます。彼の口から出てきた意見はどっちの意見でもありませんでした。


「なら、『両方を同時進行させる』というのが僕の意見だ。現状、エレナ君の能力をどう使うかもわからないだろう。旅を今まで通り続けながら情報をかき集めて片っ端から試していく。エレナ君には能力を使わずに運び屋ポーターとして付いてきてもらう。これでどうかな?」


 早い話がただの折衷案です。いくらなんでもこれでは反対意見が出るだろうと思っていたのですが、私を除く全員が『勇者がそう言うなら……』と賛成したため、ひとまずはそのまま旅を続ける事になりました。そんななか、ある人が私たちの前に姿を表します。


「勇者一行に誰か増えたと思えば、昨日面接を受けに来たエレナじゃねぇか。もしかして、無理言って連れていって貰おうとでもしてんのか?」


 その声に振り向くと、ヴォックスさんがニヤケながら私を見ていました。彼は私と目が合うと続けてからかうように続けます。


「付いていくのはまあ止めないが十中八九途中で離脱するハメになりそうだがな。『あのときついていかなきゃよかった……』なんて思わないようにな。まぁ頑張れや」


 そう言って踵を返して立ち去ろうとする彼の背中に、私は言葉を投げ掛けます。


「あなたこそ、私を採らなかった事を後悔しないで下さいね?この能力を使いこなして見せますから!」


 彼は私の決意を一笑すると、そのままどこかへ行ってしまいました。私は彼の背中が見えなくなるまで、先程口にした決意を噛み締めるように心のなかで繰り返すのでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る