人魚

涙が 涙が

もう出ないほどの

悲しみを携え 君は海へ向かった


春の海 

穏やかなその波間

けぶる水面に目を凝らせば

戯れる二人の人魚姫


おいで おいで こっちへおいで

私達と沈みましょう

沈黙の水底へ


艶やかな長い髪

艶やかな笑い声


君はよろめく足取りで

波をかき分け人魚の元へ

両手にしがみつく人魚達

不思議と冷たさは感じない

そうか 私はスープになるのね

このまま溶けて海のスープになるのだわ


何と恐ろしく

何と美しい

さようなら 孤独の日々

私は命のスープに帰る

源へ 太古の母の元へ

幸せに震えながら沈む体


その時だ

冴えない男が飛び込んで

君を抱えて砂浜へ


早まるんじゃない!


呆然と男を見つめる君は

突然笑いだした


何て事! 何て事!


大いなる勘違い

君は海のスープになりたかったのに

命の源へ帰りたかっただけなのに

死にたい訳じゃない


死にたい訳じゃない

より輝かしく生きるため

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