愚かなるタロウの初飲酒

田村サブロウ

掌編小説

ある日の夕方のこと。


6日前に20歳となったタロウは、酒屋の店主に質問をぶつけていた。


「初めてのお酒に挑戦したいんだけど、なにかいい一品はあるかな?」


「初飲酒か。ちょいと待ってろタロウ、オススメがあっからよ」


店主は店の奥にある、古風な雰囲気の酒瓶を取り出してきた。


「タロウ、この酒はどうだい? 癖のないスッキリした味の人気商品だ。どんなツマミにも合ってくれる安定したウマさがあるぜい?」


「どんなツマミにも? そりゃすごい」


店主の言葉に魅力を感じたタロウは、財布の紐をゆるめた。


千円札と釣り銭を交換し、酒を受け取る。


「まいどあり! 飲みすぎには気をつけろよい!」


店主の言葉を背にしながら、タロウは自宅に帰った。


夜がやってくると、タロウは晩酌の準備を初めていく。


唐揚げ、枝豆、旨塩キャベツ、にんにくのホイル焼きを用意。


どんなツマミにも合うという前評判を信じ、唐揚げと一緒に酒を口に入れると、


「うん、美味い!」


酒の味は見事、タロウの期待に応えた。


唐揚げにも、枝豆にも、キャベツにもにんにくにも合う。


おかずをひとくち食べるたび、タロウは酒をひとくち飲んだ。


酔いが回る。身体が熱い。酩酊感が気持ちいい。


「あれ、前にもこんな事があったような」


まあ、いいか。どうでも。


それより、もっとつまみと酒を楽しもう。


初飲酒・大成功にカンパイ!




タロウは時間を忘れて飲んだ。


つまみが無くなっても飲んだ。


酔いつぶれるまで飲んだ。






次の日、夕方。


7日前に20歳となったタロウは、酒屋の店主に昨日と同じ質問をぶつけていた。


「初めてのお酒に挑戦したいんだけど、なにかいい一品はあるかな?」


「初飲酒か。ちょいと待ってろ、オススメがあるんでい」


店主は店の奥に、昨日と同じ品種のを取りに行く。


その顔は悪どく、ほくそ笑んでいた。


「しめしめ、これで7日連続だ! 飲みすぎで記憶が飛んでやがんぜい! タロウが酒に弱いと自覚するまで、まだ小銭稼ぎができそうだな」


いや、たとえタロウに記憶は無くとも、飲んだ後に残る酒瓶から飲酒に気づけるだろうに!


愚かなるタロウよ、そろそろ気づけ! このままじゃ延々とカモられるぞ!

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