第2話


 曽我部とは、なぜかその後、よくつるむようになった。昼食もよく一緒に食べたし、同じコマの授業は大抵隣に座った。


 特別そこに疑問は持たなかったし、僕は沢山の友達と同時に話をすることが本当は苦手だったから、曽我部と二人で行動するのはちょうどよかった。


 曽我部もどこか人付き合いを避けている節があり、気がつけば僕らは、いつもクラスの端っこにいるメンバーに成り下がっていた。


 教室内で特定の人間たちが楽しそうにしているのを、教室の片隅に座って傍観しながら微笑むだけ。


 それは僕らにとって、不思議と心地がよい立ち位置だったように、今にして思う。



     ※ ※ ※


 曽我部の通夜は、火葬場に併設された斎場で行われるのだと聞いた。


 斎場の規模が小さいため、一般の参列はないのだと言う。


「俺、明日仕事で東京に行かなくちゃなんねぇから、通夜だけでも参列させてもらえないかって、曽我部のお母さんに頼んで参らせてもらうことにしたんだ。お前はどうする?」

「………」

 

 なぜが、すぐには返答できなかった。

 

 竹本が未だに曽我部と交流があったことにも、曽我部の電話番号を知っていたことにも、僕は正直驚いていた。



 僕と竹本は、高校の時からの友人だった。

 しかし曽我部とは、僕と同じく大学の時に知り合っているはずである。


 しかも、大学の時は、曽我部は僕を通じてしか竹本と交流してはいないと思っていた。


(そう思っていただけで、…オレは本当は曽我部のことを何も知らないのかもしれない。)


 僕は会社に電話を掛け、直帰の旨を伝えると、そのまま通夜に出る竹本と合流するため、車を西へと走らせた。


「………」


 普段走らない道路は勝手がわからなかった。

 西日が真正面になって、前がよく見えない。


 サングラスを取り出して、それを掛けながら、眉根をきつく寄せた。

 僕は一瞬でも気が緩むと流れ出しそうになる涙を堪えることに必死になっていた。


「…くそ。こんな時に、」


 走り慣れないだけあって、読めなかった帰宅ラッシュに阻まれて、車はなかなか進まない。


 進まない車内では、思考だけが無駄に回転し始める。


(あいつ、なんで、)


 慎重な人間だと思っていた。

 少なくとも、感情に任せて車のスピードをあげるような真似をするとは、到底考えられなかった。


 何かを避けて事故を起こしたのか?

 もしかして病気で意識が飛んだのか?

 ハンドル操作を誤ったのか?

 なぜ。なぜ。


(いや、考えたくない。やめてくれ。)


 僕は、動かないハンドルを強く握り、移動を電車にしなかったことを少し悔いた。

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