07.「まさかここまで来て追加の魔物なんていないだろうな」

当然のことながら、長期の探索を賄えるほどの食料を外から持ち込むのは現実的じゃない。


ならどうするか。


もしそう問われて一番最初に思いつくのは魔物の肉を食べることだろう。


しかし魔物は体内に魔素を持ち、特殊な行程を踏まないとその肉を食べることはできない。


魔素は人間にとっては毒になるからだ。


ただし、俺の<<絶対守護>>はその毒にも耐性を示す。


どこまでがセーフ判定かわからないが、少なくともBランク以下のモンスターの肉で体に不具合を起こしたことはなかった。


やっぱり持つべきものは、弟子のスキルを実験台にしてやりたい放題する師匠だなあ。


俺は師匠と過ごした日々の一部を思い出す。


死にたい。


俺はその記憶を心の中の箱に仕舞って、厳重に鍵をかけた。


まあつまり魔物肉を前提としたダンジョン攻略は俺にしかできない道程だった。


とはいえ味はお察しな訳だが。


この世には毒があっても美味い食材というのもあるが魔物の肉は違う。


どうやら魔素自体に人間の体は拒否反応を示すようだった。


まあ人間と魔物は、神と魔神によって相反する存在として造り出されたのだからそれは自然なことだったのかもしれない。


「ここが」


そんなこんなで悪食に耐えながらも100日以上の時間をかけて階層を踏破する。


途中のアクシデントで正確には数えきれなかったけれど、おそらくここが1000階層目。


なによりも、それ以前の階層と違う広々とした空間の構造と、目の前の巨大な扉がそれを物語っている。


壁の材質とか意匠も上の階とは違うしな。


これで聖剣が手に入ればやっと帰れるのかー。


まあダンジョン生活もたまに命の危険があることを除けばそう悪いものではなかったけど。


俺にとって他人との関わりの大半は、可能なら避けたいくらいの面倒事で。


逆に一人で目的のために黙々と行動するこの探窟は、個人的には悪くない生活だった。


そんな事を考えていると、まるで俺の人間性が社会生活に向いていないように思えるが、それは間違い。


俺だって昔は純真な少年だったのだ。


だけれど子供の頃の体験と、主に師匠の修行のせいで社会性を失ってしまった。


つまり俺は悪くない。


「まさかここまで来て追加の魔物なんていないだろうな」


ここまで何度死にかけたかはわからないが、最後に追加で大型の魔物が配置されていたら流石に殺意が高すぎる。


もしいたら、本気で殺す気なの?馬鹿なの?死ぬの?ってなること請け合いだ。


長いダンジョン生活でもう入り口で持ち込んだアイテムのほとんどは使ってしまっていて、もう一度強敵と戦えるほどアイテムが残っていない。


ただし、持ち込んでいた魔物避けの髪飾りは死守したので未だに健在。


深い階層じゃあまり役にはたたなかったけれど、上の方ではかなりお世話になったな。


戦力的に驚異にはならないCランク以下の魔物でも、無駄に襲ってこないというのはありがたくあった。


ちなみに予備を含めて二本持ち込んだ剣も片方は折れ、もう片方もボロボロになっている。


一応両方Bランクの剣だったんだけどな。


Aランク以上の品は金を積めば手に入るというものでもないので用意できるのはこれが限界だったのだ。


高いランクの装備は総じて魔術的な付与、もしくは神の祝福を与えられているので、当然数も限られていてまず入手するのが困難だったりする。


そもそもダンジョン探索途中で同業者に会わなければここにたどり着く前にアイテムが尽きていただろうと予想できたので、その点でだけは俺は幸運だったな。


もし彼と外で再開できたなら、感謝の印にいっぱい奢ろう。


まあこのあと聖剣が手に入らなければ、そもそも地上まで戻れないけどな。


そんなことを考えながら目の前に鎮座する大きな扉へと手をかざすと、ゆっくりと左右へと開いていく。




<<グオオオオオオオオ!!!!!!!!>>




いや、無理だって言ってんだろ。


俺の内心の突っ込みも虚しく扉は完全に開き、その先に居たSランク、レッドドラゴンが灼熱の炎を吐きながらその場で羽ばたいた。




死ぬ、死ぬこれ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る