真の姿の邪神と闘う

「ぬううううううううううう! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 とても元の美しい少女のような姿からは想像もできないような。おぞましい雄叫びを邪神はあげた。そして膨大な魔力が神殿に充満していくことを感じた。


「な、なんだ!? こいつは!?」


 俺達の目の前に物凄い化け物ができあがっていくのを感じた。それはアークデーモンなんかよりもっと巨大な体躯の化け物だ。神殿の大きさよりもずっと大きい。そんな大きな存在が誕生したらどうなるか。


 答えはひとつだ。神殿は崩れ落ちるに決まっている。


「逃げるぞ! エミリア! セフィリス!」


「う、うん! トール!」


「わ、わかりました!」


 俺達は急いで逃げ出す。俺達が外に出て間もなく、神殿は崩れ落ちていった。


 ◇


 外に出た俺達はその巨大な存在を確認する。まがまがしい化け物。先ほど戦ったアークデーモンが可愛く見える程の巨大な存在。そしてまがまがしさ。


 まるであのアークデーモンの親分のようだった。アークデーモン自体相当な巨体だったが、それが小さく見える程であった。


「あれが……邪神の本来の姿」


 セフィリスは呟く。


「よくもやってくれたな! 小僧! 名を名乗れ!」


 邪神が俺に言い放つ。


「なぜ、名を知りたいのだ?」


「覚えておいてやろうと言っているのだ。貴様はここで余の力によって死ぬ。だが、この姿にさせた貴様の力は認めざるを得ない。実にあっぱれであった。だから冥途の土産に名を覚えておいてやろうと言っているのだ」


 まあいい。敵に名乗るのは趣味ではないが、減るものでもない。


「トールだ」


 俺は教える。


「そうか! しかと覚えたぞ! トールよ! それでは悔いなく死ぬがいい!」


「トール!」


 エミリアは叫ぶ。

 

 邪神は全身から瘴気を放った。暗黒の瘴気だ。恐らくは状態異常を引き起こすデバフ効果を持っている。


「ごほっ! ごほっ! ごほっ!」


 セフィリスは思わずその瘴気を身に受けてしまった。


「セフィリス!」


 セフィリスは息苦しそうだった。やはり何らかの状態異常を受けたようだ。


「すみなせん、トールさん。エミリアさん」


「待ってて、セフィリスさん。クリア」


 エミリアは聖女としての魔法を発動させる。クリア。状態異常を解除する魔法だ。


「あ、ありがとうございます」


「どういたしまして。それで、どうするの? トール」


「俺に良い考えがある……だが、少しばかり時間がかかりそうだ。エミリア、セフィリス、何とか時間を稼いでくれ」


「時間を? わかったわ、何とかやってみる。とはいえ、あんな巨大なお化けみたいなの、とても長い時間は稼げそうにないわよ」


「それは同感です。自信がありません」


「僅かな時間でいい」


 俺は剣聖の職業を返済した後、また新たな職業を自己貸与する。自己貸与(セルフレンド)した職業は『召喚士』だ。杖とローブを装備した魔術師的な職業。大別すれば魔術師系の職業ではあるが、その中でも召喚魔法に特化した職業を『召喚士』と言うのである。


「なに!? トール、その職業は」


「召喚士だ。これからこの職業で召喚獣を召喚する。だから何とか時間を稼いでくれ」


「わ、わかったわ! やってみる!」


「何をチョロチョロとやっている! このゴミ虫めがっ!」


 邪神は巨大な拳を振り下ろす。


「ホーリーウォール!」


 エミリアは聖なる光の壁を展開する。


「ホーリーアロー!」


 セフィリスは聖属性の矢を放つ。


「くっ! ちょこざいなっ!」


 俺は二人に時間を稼いでもらっている間、召喚魔法を唱え始めた。あの邪神を倒す為のとっておきの切り札を呼び出すために。



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