「君、勇者じゃなくて村人だよ」職業貸与者《ジョブ・レンダー》~パワハラ勇者達に追放されたので、貸してたジョブはすべて返してもらいます。本当は外れ職業と気づいて貸してくださいと泣きつかれても、もう遅い!
【ラカムSIDE】ついに職業をトールから借りていたことに気づく
【ラカムSIDE】ついに職業をトールから借りていたことに気づく
「くそっ! なんだって! あの鑑定士のばばぁ! 俺が勇者じゃなくて村人だっていうのかよ!」
職業鑑定士の館を出たラカムは地面に拳を叩きつける。
「う、嘘だ! そんなわけねぇ! あのばばぁ! 大嘘つきやがって!」
ラカムは頑なに真実を否定する。ラカムにとって自分が勇者という特別な存在であることは唯一のアイデンティティでもあったのだ。
「だが、待て、ラカム。冷静に考えろよ。あの鑑定士のおばばが俺達に嘘をつくメリットがあるか? 何もないじゃないか」
「専門家の診断結果なのよ。信じるより他にないじゃない」
ルードとメアリーはなだめた。
「そ、そんな嘘です……聡明な僕が無職なんて外れ職業だなんて」
グランも嘆いていた。だが、同時に信じられる部分もあったのだろう。
「だけど、僕達が急に力を使えなくなったのも理解ができます。僕達は力を封じられたのではなく、最初から力なんてなかった。なぜなら外れ天職に僕達は選ばれていたからです。そう考えれば素直に納得できてしまいます。腑に落ちてしまうんです」
グランは嘆きつつも、それでも現実として納得しようとしていた。そう考えると理に適っているのだ。
「なんだってんだよ! 俺は勇者じゃないのかよ! 俺は勇者じゃ! 俺は村人だっていうのかよ!」
ラカムは涙を流し、拳で地面を叩いていた。
「落ち着きなさいよ。ラカム。怒ったり怒鳴ったりしても何も解決しないわよ。落ち着いて現実を見ないと」
メアリーは諭す。皆喪失感を味わっているのは同じだ。人生で初めて経験する大きな挫折であった。三人は何とかその挫折感に向き合うとしている。ラカムだけが。ラカムただ一人だけが子供のように駄々をこね、現実から目を背けているだけであった。
「だ、だったらなんなんだよ! 俺達が外れ職業だったとして、今まで連戦連勝してきた力はなんだっていうんだよ! あの時使ってきた力は幻だったとでもいうのかよ!」
ラカムはそう主張する。そう、ラカム達は連戦連勝を繰り返していた。そして良い気になっていた。それは間違いのない事実だ。夢や幻ではない。
「そんなの簡単よ。トールの言っていたことが本当だったのよ。トールが言っていたことは嘘じゃなくて、トールが私達に職業を貸し与えてくれていたから、本物の勇者パーティーのようにふるまえていた。連戦連勝ができていたのよ」
力なくメアリーが告げる。
「そ、そんな! 奴が! あの荷物持ち(ポーター)のトールの言っていたことが正しいかったっていうのかよ! それで俺達が間違っていたっていうのかよ!」
「残念ながらそう考えるしかないの。そう考えると辻妻が合うのよ」
「「「「…………」」」」
四人は沈黙をしていた。各々が考えていたようだ。そのうちに通り雨が降ってくる。水で濡れるが四人はお構いなしだった。それよりも目の前に直面している問題が自分達にとって重要すぎて、そんな事気にしていられなかった。
「で? ……どうするんだよ? 俺達」
ラカムが問う。
「どうするって? なにを?」
メアリーが聞き返す。
「これからの事だよ! これから俺達どうするんだよ! あの追い出した荷物持ち(ポーター)のトールに泣きつくしかないっていうのかよ!」
ラカムは叫ぶ。
「そうね……そうするしかないじゃない」
メアリーは答える。
「今更あいつに頭下げてパーティーに戻ってくれって頼み込むのかよ! しかも戻ってくれたとしてもずっとあいつのご機嫌取りをしなきゃなんだぞ! 弱みを握られてるんだ。今までみたいに雑な扱いはできねぇ! 荷物ひとつ持たせられねぇよ!」
「そうだけど……仕方ないんじゃないの? このままじゃ私達、勇者パーティーとしての使命を何一つ達成できないじゃない。私達は勇者パーティーとして王国グリザイアを旅だったのに」
「それは……そうだが」
もはやラカム達に残された唯一の手段であった。封じられた力など存在しない。今まで勇者パーティーとして連戦連勝できていたのはトールが職業を貸していたおかげなのだ。その恩恵がなくなった今、できる事はひとつであった。
トールがパーティーに戻ってくる以外にない。
「皆はどう思う?」
「仕方ありません。あのお荷物トールを呼び戻すしか」
「そうだな。それしか方法がないなら。それを試してみるより他にないだろう」
グランとルード、他の二人も力なく答える。本位ではないが、現状、仕方ない、そんなところであろう。
「けど、あいつは今どこにいるんだ?」
「情報を集めるしかないじゃない。それで探すのよ。とりあえず冒険者ギルドに聞いて回りましょう。今までの情報からするに、洞窟のドラゴンを倒したのもあのトールだったとみて間違いないから」
「そうだな。そうしようか」
こうして真実を知ったラカム達はトールの居場所を突き止めるため、情報収集を始めた。まずは冒険者ギルドへ向かうのであった。
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