【ラカムSIDE】貴族からの依頼で邪神の封じ込められた神殿に行く

「頼む! 勇者ラカム達のパーティーよ!」


「へへっ。どんな用件ですか? 貴族クレアドルさん」


 貴族クレアドル。王国アレクサンドリアの貴族である。小太りの中年であるが、彼は異常な程の収集癖があった。主に魔道具(アーティファクト)や遺跡で発見される珍しい、鉱石。


 トレジャーハンターでもなければ手に入れられないようなレアな物品(アイテム)を収集しているのだ。

 

 いわゆる収集家(コレクター)である。収集家(コレクター)の中には集まりがあり、そのコミニティの中のマウントの取り合いがあった。


 誰がより、レアなアイテムを持っているか。誰がより優れたアイテムを持っているか。そういうせんのないない意地の張り合いを彼等はしているのである。


 当然のように収集家(コレクター)なんて道楽、庶民ではできない。だから貴族が殆どである。見栄っ張りな貴族には相応しい趣味だ。


 貴族クレアドルはラカム達が実際のところ、外れ職業ばかりで構成された外れパーティーである事を知らない。当人たちも知らないのだ。


 この時はまだ勇者パーティーの悪評は広まってはいなかった。一応ではあるが、勇者パーティーの権威は保たれていたのである。


 勇者パーティーがもうダメになっているのを知っているのはジョブ・レンダーであるトール。それと国王と王女くらいのものである。明確な理由としてダメになった根拠をしっているのはトールだけであった。


国王と王女に至っては「なんかよくわからないけどダメになった」程度のフィーリングで理解している程度だ。


「私は他の収集家に負けたくないのだ! もっとレアなアイテムが欲しい! この前持ってきた連中なんて氷竜の牙だとか、鱗だとか! フェンリルの剛毛だとか、そんなすごいアイテムを持ってきたのだぞ! 私は絶対にそういう連中に負けたくないんだ!」


「へへっ。それで俺達に何をすればいいと! この大勇者ラカムが、きっとあなた様のお役に立って見せますぜ!」


 そう、自分を勇者だと思っている村人は言った。


「任せてください。僕たちならきっと何とかなります」


 そう、自分を大僧侶だと思っている無職が言った。


「ああ! この俺の聖剣に賭けてな!」


 そう、自分を聖騎士だと思っている農民が言った。


「私の大魔法で、どんな凶悪な敵もイチコロよ!」


 そう、自分を大魔法使いだと思っている遊び人が言った。


 彼等にとって先日の敗戦はたまたまだのだ。その日たまたま調子が出なかった。だから負けた、そういう結論になった。

 だから今日はそのたまたま調子の悪い日ではないだろう、そう思ったのだ。


 実際のところ、彼等の今の状態は馬脚を現した状態であり、本来の状態なのではあるが。

 彼等はチート職業こそが自分達の天職だと信じて疑っていなかった。


「おお! 素晴らしい! 素晴らしいぞ! 勇者ラカムのパーティーよ! ものすごい自信ではないかっ! 頼もしいぞっ!」


 本当の事を知らない貴族クレアドルは手を叩いて喜んだ。


「報酬はいかほどなんでしょうか? クレアドルさん」


「金貨300枚だ!」


 ドン。テーブルの上に金貨が置かれる。それだけの金額なのだ。それだけ危険なところでなきゃ入らないレアアイテムをこの男は求めているのだろう。

 リスクとリターンは紙一重の関係である。


「「「おおっ!」」」「す、すごいっ!」


 四人は目を光らせる。


「そ、それで俺達に何をして欲しいんですか!? 話からするに、そのアイテムの自慢大会に勝てる、すげー、レアアイテムをご所望みたいですが」


 これだけの金額を積んでいるのだ。当然そういう考えになるだろう。


「ああ。その通りだ。エルフの国の近くに、神殿があるんだ」


「神殿ですか」


「それもただの神殿ではない。そこは邪神が封じ込められた神殿だという。邪神は魔王の右腕として、1000年程前、大暴れをしていた存在らしい」


「へっ! そいつはなんだか危険な香りがしますぜっ!」

 

 ラカムは自分を勇者だと思っているから。その言葉を聞いても「おもしれぇ! やってやろうじゃねぇか!」としか思っていなかった。


「けど私達なら大丈夫よっ! だって私の大魔法があるんだもんっ!」


「今度こそ、大僧侶である僕の回復魔法の出番ですね」


「ああっ! 俺の聖剣エクスカリバーがうなるなっ!」


 四人は呑気であった。無知とは恐ろしいものだ。


「その邪神が封印された神殿には強力なモンスターがいるのだ。だが、手つかずになっているお宝も沢山眠っているそうなのだ! 頼むっ! 勇者諸君! その神殿に行ってレアなアイテムを取ってきてくれっ!」


「わかりましたっ! 今回のご依頼お受けしましょう!」


「私達ならきっと何とかなるわよねっ!」


「ああっ! 行こうぜっ!」


「はいっ! 行きましょう! 僕たちならやれます!」


「「「「邪神が封印された、エルフの国近くの神殿へ!」」」」


 自分達を本物の最強勇者パーティーだと信じて疑わない四人は、邪神が封印された神殿へ向かうのであった。



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