第6話・スロスだってまともな理由で怒るんだからね

「スロスさん、お願いだから浮遊魔法を使って黒板に文字を書かないでくれません?」


 俺はギルド職員の人に注意されてしまった。


「スロス……、お願いだから黒板で会話しようとしないで」


 どうしてイラが泣くんだ? 俺は疲労を伴わない会話を実践しただけなのに。


「めんどくさ……。で、アヴァはどうしてクエストの邪魔をしたの?」


「スロスさんは本当に唐突もなく会話を開始しますよね?」


「うちのポンコツメイガスがすいません……。プライド、説明を続けて」


 俺とイラの前に座る女性はプライド。俺たちが所属するギルドの責任者にしてイラのご近所さん。


 俺たちは今回のクエストがアヴァの介入で難易度が変わったことを報告しに来たわけだ。


「アヴァは当ギルドを恨んでいたようですね。クエストの設定難易度に不備があればギルドは責任を問われますから」


「アヴァって貴族を殴った責任を取らされたのよね?」


「……イラ、ちょっと待って。スロスさん、折角カップに紅茶を煎れたんですから水分だけ浮遊させないで……」


 ん? プライドが眉間に皺を寄せているけど、どうしたのかな?


「あーん、ごっくん。紅茶、美味しゅうございました」


 どう言うわけかイラまでも唖然とした様子を見せる。本当にどうしたの?


「スロス、お願いだからマナーくらい守ってよ?」


「イラも変な事を言うね? 俺だってマナーくらい知っているさ。だからソファーに座ってるじゃないか」


「スロス!! どの口が、そんなことを言うのよ!! あんたソファーに座ったふりして浮遊魔法で腰を浮かせてるじゃないの!!」


 ちっ、バレたか。


 ソファーに腰を下ろすと重力が掛かってカロリーを消費するんだよね。


「……」


「今度はソファー毎浮遊させるなっての!! スロスー!! どさくさに紛れて私のスカートを浮遊させるんじゃないわよ!!」


「イラ、キリがないから話を戻すわね?」


「プライド、すいません」


「アヴァがギルドを追放された理由はイラの認識通りよ。だけど、アヴァが手を出した原因は貴族側にも問題があったの」」


 プライドの表情が曇る。


 まるで自分の不正でも口にするかのような様子を見せている。


「……ちょっと待って。もしかして……?」


「イラのご推測の通りよ……」


「アヴァの悪い噂しか広まってないのも?」


 プライドが小さく頷く。


 だが俺にはイラとプライドの会話の内容を理解できずにいる。俺が質問しないといけないのか?


 めんどくさいあ。


「イラ、その貴族って誰?」


「ジル男爵よ。ケチで有名なの。これは私の推測だけど、男爵がクエストの報酬をケチったのよ」


 イラが怒りの感情を露わにする。ここまで怒ったイラを俺は知らないのだが。


 その要因だけは察しがつくんだけどね。


「男爵の依頼は『オリハルコン』の採取もしくは、その情報を入手すること」


 プライドが申し訳なさそうに口を開く。


「……アヴァは情報を手に入れたの?」


「スロスさんの言う通りです。そして男爵は報酬の支払いを拒否しました」


「拒否した理由は?」


 イラが静かに質問を口にする。


「情報に確証がないから、だそうです」


「で、ギルドは男爵の権力に屈したのね?」


「イラ、それ以上は……」


 プライドが弱々しく呟く。どうやらアヴァの冒険者資格剥奪はギルドとしても不本意らしいな。


 めんどくさがりの俺でも許せないことはある。


 俺が冒険者を生業とするのは自由があるから。


 冒険者は収入が安定しない。だが、その反面自由がある。


 俺は何もにも縛られたくない。


「その男爵、許せないね?」


 イラとプライドが怒りを露わにした俺を見て、驚いた様子を見せていた。

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