第5話・強欲が俺を化け物だと言うんだよね

「呆れたわ……。スロス、あんたって本当に生きていて虚しくならないの?」


「……」


「『敵に向かって行くより来てもらった方が疲れないから』じゃないわよ!! 自分の口で話せって言ってるでしょが!!」


 またしてもイラが大声を上げる。


「イラは俺と話したいの?」


「うっさいわね!! 私たちは仲間でしょうが!!」


「で、敵さんが目の前に来たわけだけど。イラはどうしたい?」


 イラが目の前で腰を抜かしているアヴァを睨む。


 イラの睨みは大抵の男をビビらせるからな。彼女は、それほどまでオーラがあると言う事だ。


「あんた……『強欲のアヴァ』じゃないの?」


「くっ!!」


 アヴァはギルドでは有名人だ。


 元傭兵だけあって実力は確かだし、何よりもギルドを追放されている。


 彼の噂は尽きない。


「あんた、確かクエスト依頼主の貴族をぶん殴って冒険者を辞めたのよね?」


「お前ら!! どうやって俺をここまで運んだんだよ!?」


「アヴァ、質問に答えない!!」


 イラが大声を上げて怒る。


 冒険者の間では有名なイラの威嚇。


 『見た目だけ』は可愛いイラはギルド内で秘密裏に実施された『とある男性冒険者のアンケート』で一位に選ばれている。


 この子は『罵ってほしい女性冒険者』で第一位なのだ。


 俺はめんどくさくて投票に参加しなかったけど。そもそも俺は毎日怒鳴られてるからね?


「ん? イラ、アヴァが握りしめている袋を調べるんだ」


「この白い袋のこと? ……中身は黄色い粉ね」


「……それはモンスターを誘き寄せる粉だろうね」


「ああ!? アヴァ、あんた!!」


 イラの威嚇にアヴァが震え上がる。この男も元とは言え、超一流の冒険者だと言うのに。


「ギルドへの復讐かな?」


「っ!!」


 俺の質問には動揺を見せるも、アヴァは頑(かたく)なにイラの質問にだけは答えない。


 俺は会話したくないのだけど。でも俺が話を進めないとクエストが終わりそうにないんだよね。


 めんどくさいなあ。


「因みに俺が使ったのは修復魔法。畑のすぐ近くに君の衣服の一部が落ちていたんだ」


「スロス、お前は化け物か?」


「初めて会話が成立したね?」


「スロス、それをあんたが言うの? 普段から私があんたに注意してることなのよ?」


 イラが呆れた様子を見せる。俺が何をしたって?


 そもそも俺とアヴァが話しているのだから横槍を入れないで欲しいのだけど。


「つまり服の切れ端が元通りになる流れで俺は引っ張られたと?」


「ん? イラ、アヴァが握りしめていた袋に服の切れ端がついているみたいだね?」


「本当だわ。アヴァの服とは色が違う」


 イラは服の切れ端らしきものを手に取って呟く。


「アヴァは兄弟三人で冒険者稼業をしていたはずだ」


「じゃあグラとインヴィね。スロス、また修復魔法を使ってくれる?」


 めんどくさいな。今日は厄日だ。


 一日で一ヶ月分は会話をした気がする。その上、二回も修復魔法を使うなんて。


「……イラ、取引はしっかりと守って貰うからね?」


 俺はアヴァを追跡する前にイラと『とある約束』をしていた。


 俺が約束の再確認をするとイラの表情が引き攣っていく。


「スロス、……本当しないとダメ?」


「当たり前だよ。俺は楽がしたいから」


「はあ、分かったわよ。その代わり、さっさとやって頂戴?」


 イラがため息を吐く。


 俺はイラに約束の言質を再確認をすると、修復魔法を使ってアヴァの弟たちを目の前に引っ張り出すことにした。

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