耳かき部隊イヤークリーナーズ出動!!

井上みなと

第1話 耳かき部隊イヤークリーナーズ出動!!

「本日はご予約ありがとうございます。耳かき部隊・イヤークリーナーズです」

「です!!」


 隊長に合わせて、隊員たちがポーズを取る。

 1cmくらいの小さな彼らに目線を合わせるため、俺は体を屈ませた。


「ずっと予約を取りたいと思っていたので、ここに来られてうれしいです」

「我々も光栄であります!」


 小さい隊員たちを微笑ましく思いながら、俺は椅子のほうに視線を向けた。


「あそこに座ればいいのですよね?」

「はい! 椅子にモニターがあるので、ご覧ください」


 用意された座席の前には、モニターが設置されていた。


「隊長のヘルメットと、最後尾の副隊長のヘルメットにカメラが付いてるので、中の様子や隊員の様子が見られます」

「お客様のお声も、イヤホンで聞いていますので、何かあったらおっしゃってください」

「わかりました」


 椅子に座ると、小さい隊員たちも動き出し、床の一か所に集まった。


「上がりまーす」


 床だと思った場所がぐいんとせり上がる。

 どうやらそこは昇降機になっているらしい。


 昇降機で上がって、椅子の横にある台に乗ると、隊員たちはいそいそとシートのようなものを取り出して自分たちを拭き始めた。


「何をしてるんですか?」

「除菌です。お客様のお耳に入るので、きちんと菌を落とすのです」


 キュッキュッと念入りに自分たちを拭いて、小さな隊員たちが並ぶ。


「それでは失礼いたします」


 挨拶をして、隊員たちが俺の耳に入っていく。

 耳の中に何かが入っていくのはちょっと怖かったけれど、すぐに意識がモニターに向いた。


 隊長がヘルメットにつけたカメラ画像がモニターに映り、耳の中が見える。


「……汚れてんなぁ」


 思わず独り言を漏らしてしまう。


 耳の中には散らばったように耳垢が点在していた。

 隊長が頭を動かしたのか、耳の入り口直ぐに細かい粉のような耳垢がたくさんあるのが映った。


「全員、ハタキ用意!」

「ハタキ用意!」


 号令に隊員たちが答えるのを見て、心の中で首を捻った。


(……ハタキ?)


 隊員たちは薄桜色の古典的なハタキを手にして、パタパタと細かい粉のような耳垢にハタキをかけ始めた。


 細かな耳垢が落ちると、隊長が新たな指令を出した。


「ホウキ用意!」


 次に隊員たちはホウキを取り出して、落ちた耳垢を集め始めた。

 チリトリ係もいて、ホウキで集めた耳垢を回収している。

 集めてみると、なかなかの量になっていた。


「よし、次に行くぞ!」


 隊長の号令の下、隊員たちが奥に入っていく。

 すると、進行方向に張り付いた耳垢があった。


「耳垢発見! 様子を確認します」


 隊長のそばにいた隊員がツルハシのようなものを持ち出す。

 そんなものを使って大丈夫かと思ったが、ツルハシで隊員が耳垢をつつくと、ものすごい痒みが走った。


(か、かゆい)


 ツルハシの先でつついているだけなのに、すごく痒い。


「これよりどの程度の固さか確認します」


 隊員がツルハシを振り上げる。

 カキンッ!

 振り下ろされたツルハシは固い音がして跳ね返された。


「なかなかの固さですね」

「年代物だな」


 隊員たちが話す声が聞こえる。


「お客様、いかがいたしましょうか」


 隊長が副隊長のカメラを通して顔を見せ、こちらに呼び掛けてくる。


「耳垢を柔らかくする液を使って、しばらく待つ方法と、工具を使って剥がす方法がありますが」

「工具でお願いします」


 ちょっと怖いけれど、どんな風にやられるのか興味があったので、工具でお願いした。


「それでは工具でやらせていただきます」


 隊長が一礼をして、先頭に戻っていく。


「よし! 総員、ツルハシ用意!」

「はい!」


 隊員全員がツルハシを持つ。


「目標! 前方の耳垢! ただし! お客様の皮膚には決して傷をつけないように!」

「はい!!」


 真剣みを帯びた隊員たちの返事が聞こえてくる。


 隊員はツルハシを持ち、耳垢に取り掛かった。


 カチン、カチン、カチン!


 耳の中で音がする。


 隊員たちが固く大きな耳垢を削っているのだ。

 ツルハシが振り下ろされると同時に、細かな耳垢が飛び、耳垢がほんの少しだけ動く。


(か、かゆい!)


 隊長の命令の元、隊員たちが一生懸命、耳垢を動かしてくれようとしているのだが、それが耳かきで耳垢をかくときの感覚に似て、とてもかゆい。


「よし、そこまで!」


 ピタッと隊員たちが動きを止める。


(え、今、ものすごく、かゆいのに!)

 

 お預けを食らった気分でいると、別の隊員たちがロープを持ってきた。


「これで引っ張るぞ!」


 手際よく耳垢にロープを巻き、綱引きの要領で、隊員たちが耳垢を引っ張る。


「オーエス! オーエス!」


 隊員たちが頑張る様子を見て、こちらも心の中で応援する。


(がんばれ……!)


 隊員たちの頑張りに合わせて、耳垢が動き、猛烈にかゆくなる。


「あと一息だ! みんないくぞ」

「オーー! エス!!」


 隊長の激励を聞き、隊員たちがギュッと力を込めた時、ロープに引っ張られた耳垢がポンと外れた。


(うわっ……)


 耳の中のかゆみが一気に取れた。


 それは解放感にも似たものだった。


「残った部分を掃除していきますー」


 隊員たちはホウキで綺麗に散らばった耳垢を掃除し、残った部分は拭き掃除もしてくれた。


「それでは、逆の耳に移動いたします」


 隊長の言葉に返事をしつつ、逆の耳へのワクワク感が止まらなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

耳かき部隊イヤークリーナーズ出動!! 井上みなと @inoueminato

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ