第19話

ここまで散々付き合わせたが、今夜までは居てくれとお願いした。

親に話すために側に居て欲しかったから。

こちらから連絡するのは入学以来だ。

どうしても気が引けて疎遠にしてしまった。


父に電話をかけ、事の顛末を話す。

いくらか心配してくれてたら良いな。

「何てことだ…………!」

溜め息がもれる。


「お前をひとりで行かせるんじゃなかった」

いや、娘じゃないんだから。


「性別は関係ない、お前はオレたちの大切な息子だ、親として子を守れないなんて自分が情けない!!」

そんな風に受け取るなんて。


「悪いのは俺だから、俺を責めてよ。俺がこんなだから、迷惑かけるから早く家を出なきゃって、だから離れた大学選んだのに、またこんな事で………」


「ごめんなさい、なんて言うなよ。お前が謝ることは何ひとつない。有るのは、ひとりにならねばと思わせたオレ達だ。お前がお前らしく生きる術を無意識に奪ってすまない」


そんな言葉を聞くとは思わなかったので、その後に何も続かない。

ただただ目頭が熱くなるばかり。

側から腕が伸びて頭をポンポンされる。

鼻水も出始めるからそんな事しないでくれ。


「お前にはもっと早く伝えるべきだった。

 お前がゲイであることと、イケオジのオレが花粉症でグジュグジュになることは、母さんが華麗に踊り眩しく微笑むことに等しい」

何だよ突然、その例え。

自分だけ微妙に持ち上げてるし。


「俺らのは残念でしかないじゃん……」

「それは違う。どれも日常のありふれた一コマであり、その人だけが持つ魅力だ。

 それが判らぬ頭の偏りが激しいヤツは、神の如き寛容な心とあらゆる知識で骨の髄まで教え込ませてやる」

意味が判んないうえに何か物騒。


俺が身バレした時もそう。

「何でそんなに物分かり良いの?」

「オレも母さんも少数派の痛みを知ってるから、かな。だが、悲観に暮れて周囲との遮断を選ぶのは自分を否定するようで好きじゃない。オレ達は決してお前を拒絶しない、判ったか?」


何で俺は全てを避けて来ちゃったんだろう。

こんなに優しい人が側に居るのに。


「母さんにはオレから話しておく。

 ああ、今すぐ飛んで行ってお前を抱き締めたいが、誰か頼れるヤツは居るのか?」

「大丈夫、今、友達が居る、ずーっと居る」

「良かった。今度紹介してくれ」

「いや、今、出させるよ」

「母さんと一緒でないとオレが怒られる!」


んんん、これ、もしかして…………。

「あのさ、勘違いしないでよ、友達以外の何者でもないよ!」

お前からも言ってくれよっ!!

「ええと、ご紹介に預かりました、わ、わたくし……」

余計に怪しむから、ドモるな!!


これからもよろしく、と笑った後に父が続ける。

「これから先、大人が介入すれば更にツラい思いや辱しめを受けるかも知れない。だがお前はひとりじゃない、オレも母さんもご友人も居る、それだけは忘れないでくれ」


ずっとひとりだと思ってた。

取り残されて腐って終わるんだと思ってた。

そうじゃなかった。

堰を切ったように次から次へと涙が溢れて、花粉症の父の様に顔がぐちゃぐちゃだ。


「ありがとう、父さん」

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