そして、春。

第35話 三月七日。

 今日は、学校はお休みの日だ。


 おじいちゃんといっしょに少し遅めの朝ご飯を食べて。日菜が屋根裏部屋に戻ると、スマホがチカチカと光っていた。

 メッセージが届いているのだ。


『日菜、お誕生日おめでとう!』


『お誕生日、おめでとー!』


 奈々と彩乃からのお祝いの言葉と、クラッカーを鳴らす動物のスタンプに、日菜は微笑んだ。奈々はクマ、彩乃はハムスターだ。


『ありがとー!』


 日菜は喜びのダンスを踊るインコのスタンプを返した。

 二人からの返事はすぐさま返ってきた。


『ところで、黒猫さんとの件はどうなった?』


『隠し立てするとためにならんぞ。吐けー!』


 奈々はクマが首をかしげているスタンプを。彩乃はおまわりさんの格好をしたハムスターのスタンプを送ってきた。

 “黒猫さん”は悠斗のことだ。


 日菜はカーテンを少しだけ開けてみた。

 窓の外を見下ろすと、おじいちゃんの家の前でそわそわうろうろしている悠斗が見えた。


 悠斗の腕の中にはかぎしっぽがいた。黒猫のかぎしっぽだ。

 神社でしか見かけたことがなかったのに、どうして? と、思ったけど。すぐにまぁ、いいか……と、微笑んだ。


 かぎしっぽは幸運のしるし。

 幸運のしるしが来てくれたなら、こんなに心強いことはない。


 悠斗は落ち着きなく歩き回ってる。日菜も少し緊張している。

 なんて言われるかも、なんて答えるかもわかってるのに。それでも、こんなに緊張するし。こんなにうれしいんだから不思議だ。


 今日は日菜の誕生日。

 おじいちゃんとおばあちゃんにあやかって、悠斗が日菜に告白する日だ。


 ――やっと、言葉にできるんだ……!


 日菜は緩みきっているだろう顔をカーテンに埋めて、二人に返事をした。


『今からだよ』


 と、――。

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