ポチに踊らされる勇者 俺達は絶対に納得しない

はねうさぎ

勇者と相棒と魔王

「なあタウロ、お前この戦いが終わったら本当にいなくなるのか」


「あぁ、多分な…」


「それって冷たくないか、いくら私達の知らない世界から召喚されたからって、私や他の奴ら、今ではこっちにだって知り合いがたんまりいるだろう?少しの未練もないのかよ」


「未練がない……と言えば嘘になるだろうな。確かに故郷は恋しい。だが今のこちらは俺が存在する意義がある世界だ。それにここには気になる奴もいるし、こっちの方が肌に合ってる気がする」


「だっ誰だよ、気になる奴って…私が知らない間に……」


「はは、お前だよ、俺がいなくなったら一体お前の世話は誰がするんだ?って思ってさ」


そう言って俺は傍らに座った金色の獣の頭をガシャガシャと撫でくり回した。


「失礼な、私はずっと一人で生きて来たし、これからも生きていける」


んな事ブツブツと言っているが、知ってるさそんな事。

こいつの名はキサラギ、勇者として召喚された俺と堂々と対等にやり合い、死闘の末に俺がこいつに止めを刺そうとした。

だがその前にちょっとカッコを付けたら……。



「俺とここまでやり合うなんて、大した奴だなお前は、名は何と言う」


俺は聖剣ダンガリオンを獣に突き付け言った。

だ――、俺カッケー――‼

(観客数0人だけどな)


『名など無い、そんな事よりさっさと殺せばいいであろう』


喘ぐ息の下、見上げるよな獣がそう呟く。


「そうか、では冥途の土産に名を持っていけ、そうだな……お前の名はキサラギだ。お前は良くやった誉めてやろう」


声高らかにそう宣言し剣を振り下ろそうとした瞬間、キサラギは目も開けていられないような光に包まれた。


そして目を開ければそこにはシェパードほどの犬がいた。

いや、犬じゃ無いよな…どちらかと言えば狼?


『きさま!!私は魔獣の王デビルスガウア(種族名)であるぞ!誰にも侵される事の無い自由な存在、それをお前が名を付け、まるで奴隷のように従属の証を付けるなど、一体何って事をしてくれた!!こんな事など絶えられぬ、さっさと殺せぇ!!!』


「えっ?名前つけちゃダメだったのか」


「当たり前だぁ!!!!」


う~ん、さっきぐらいの大きさだったらかっこよかったけれど、今はまるで犬がキャンキャン吠えているみたいだよ。


「あ~取り合えずごめん。んで、俺さっきのお前だったら殺せたかもしれないけど、今はもうダメ、殺せない」


だって俺犬好きだもの。

噛まれようが、血が出ようが、笑ってやり過ごす自信あるよ。


「きさま~~~これを見ろ!」


グイっと突き出したその首は、毛並がぐるっと一周銀色に変化していた。


「………えっと、メッシュ入れたみたいにカッコいいかも……」


「たわけもの!これは従属の証!これが消えるまではお前に一切逆らってはならぬと言う印だ!これが有っては自ら死ぬ事すらできぬ……そうだお前、俺に向かい死ねと言え。そうすれば私は自ら死ぬことが出来る」


「やだね」


犬好きなのに、わざわざ死ねなんて命令する訳無いじゃん。


「逆らっちゃダメって、もし逆らったらお前どうなるんだよ」


「この銀が締まり、私の首を切り落とす」


「何だそれ、お前死んじゃうじゃん」


「そうか、その手が有ったか」


「だ、だめだよ、お前は自殺なんかしちゃだめだ」


「クソ、死に損なったか……だがお前は先ほどまで私を殺そうとしていたんだが、これは矛盾と言うものではないか」


「まあまあ細かい事はいいって。ところでさ、その呪いみたいなやつを解く方法は無いのか?」


「あるな、お前が死ねば私は自由になる」


それも嫌だな。

何か他に方法はないものか。


「従属って言うのはもしかして俺の命令に従わなきゃならないって事?」


「そうだ」


「絶対に?」


「当然だろう」


「分かった、なら命令。お前は今後一切俺の命令に従ってはならない」


そう言うとキサラギの首のメッシュが一瞬光ったように見えた。

もしかしたら証が消えたのか?

そう思ったが、それは消えずに未だキサラギの首に有った。


「キサラギはこの先自由に生きるといい、ただ悪い事はするなよ」


「それは命令か?それなら私は聞く訳にはいかない。だからこの先私は悪い事をしなくてはならない」


「そりゃ屁理屈だな、これは俺からのお願い。願いと命令は違うからな。気が向かなかったら従わなくてもいいよ」


「分った、ところでお主の名は何という」


「俺か?名はタウロだ……もしかして名を聞いて俺を支配する気?」


「私にはそんな能力など無い。第一、既に付いていた名を聞いたところでどうにもできないだろう」


そんなもんか。


「じゃあな、俺はもう行く。達者で生きろよ」


俺はキサラギを残し歩き出した。

だがキサラギは俺の後を付いて来る。


「だからさぁ、もう勝手に生きていいって言ってるだろう?」


「分っている。だから私は勝手にしている」


「そうなのか?」


「そうだ」


「ならいいや」


という訳で今に至る。

それからキサラギは俺の仕事(魔王その他の討伐)を手伝ってくれている。

道すがら色々な世間話や身の上話もした。


「そうか……お前も苦労したんだな………」


「いや、タウロほどの事ではないぞ……」


いや、俺は単に昔は貧困家庭に育って、いじめに遭ったり、パワハラされたりした事を話しただけで、普通にある話だろう?

それに比べたら………。


「キサラギ、お前は偉いよな。ようやく餌を取れるようになったら、すぐに親に捨てられたんだろ?それでも頑張って今まで生きてきた」


「いや、それは普通の事だけど…」


「人間や身内に迫害されたり、さんざんな目に遭ったんだな。うんうん、何て不憫なんだ。なんか俺達似てるかも~」


「そ…そうかな……」


俺達は昼間通った町で酒を仕入れ、今は人里離れた森で焚火を囲み酒盛りをしていた。

何と言っても明日は最終決戦、魔王の城に突撃するのだ。

いい気分でコップを傾ける俺の傍から、キサラギがそっと酒瓶を隠した。


「お前飲み過ぎ、それで先ほどの話だが、この世界に留まる気は本当に無いのか?」


「んーそれもいいかなって思ったんだけど、無理なんだよね」


「無理なのか?」


「あぁ、俺がこっちに召喚された時に聞かれたんだよ神さんみたいな人に。俺が魔王を討伐したらこの世界に残るか、元いた世界に帰るかどちらにするのかってさ。だから俺は帰りたいって言ったんだ。だってこの世界の事なんて知らなかったもん。あの時点だったら帰るの一択でしょう。だからこれは決定事項なんだ」


そうさ、仕方ない事さ。

今の俺は後悔してないかって聞かれたら、後悔しているって答えるよ。

この世界は俺に合っている。

あんなくそみたいな前の世界に比べたら何倍も楽しい。

だけどきっと、魔王を倒した時点で俺は送り返されるんだ……。


「だが私の事はいいのか?」


「キサラギ?」


「私はタウロの討伐対象だったのだろう?その私が生きているんだ。たとえ魔王を倒したとして、タウロは元の世界に帰れるのか?」


「大丈夫じゃね?俺が消せとされたのは名を持たない魔獣の王デビルスガウアであり、今ここにいるのは俺の相棒キサラギ、全然別人じゃん」


そう、ここにいるのは今の俺が唯一腹を割って話せる俺の親友のキサラギだ。

あの時とは違う。


「そうか…ありがとう」


もしそれが原因で魔王討伐が成功しなくてもその時はその時、あとで考えればいい。

それでゲームセットにならなくても、俺は絶対にキサラギを手に掛けたりしない!



酒が残っては明日に差し支えると、俺達は宴もそこそこに眠ることにした。

考えてみれば、ここでキサラギと飲む酒は最後になるかもしれないのに、惜しいことしたよな……。





「嘘だろ………」


本当にここかよ、俺達は道を間違った訳じゃ無いよね。

目の前にそびえる……(訂正)……建っているのは、領主の屋敷程度の家。

お世辞にも魔王城には見えない。


「キサラギ……まずどうしたらいいと思う?」


「そこに呼び鈴が有るけど……押してみるか?」


「そうだな………」


一応領主規模だ、大声で叫んでも聞こえっこないよな。

そう思ってボタンを押してみた。


暫くして屋敷の扉が開き一人の男が出て来た。

多分名前はセバスチャンだろう。


「いらっしゃいませ勇者様。お待ちしておりました」


「あ~お待たせしてすいません」


取り合えず挨拶大事。


俺達は屋敷の中に案内され、3階の一番奥まった部屋の扉の前に案内された。

この中にラスボスの魔王がいるのか!

と思ったけど、緊張感など皆無だ。

セバスチャンは、執事のくせに客を歓待する様子も無く、ただ無表情に動く人形のようだったし、すれ違うメイドや使用人は、皆一様に涙を浮かべ悲しそうにしている。

まるで俺達の方が悪者。


「魔王様、勇者様をご案内しました」


「そう、入ってもらって」


マジか、今聞こえたのって子供の声だよな、それも女の子。

部屋に通され対峙したのは、俺の予想と違い少女ではなく幼児だった。


「ようやく会えたわね勇者。さあさっさと一思いに私を殺しなさい」


「何言ってるの」


そんなことしたら俺悪者だよ。

誰が見たって俺の方が悪いって思うよな。


「いいのよ、これが運命だと皆も納得しているし」


「納得などしてません魔王様」


俺達を案内し、そのまま魔王を守る様に傍らに立つセバスチャンが言う。


「そう、ごめんね……」


何なんだよこれは…悪趣味そのものだろ。


「あんた本当に魔王かよ」


「そうみたいね」


「何でだよ、何でこんな子供が……」


どう考えてもおかしいだろ、大体にしてこれが魔王城だって!?

おかしいだろう。

そう言えば昨日寄った町だって、魔王城がこんな近くに在るのにみんな普通に幸せそうに暮していた。

何だよこの展開。

全然面白くないクソゲーより悪いわ!


「見くびってもらっちゃ困るわ。これでも私二十歳超えてるの。魔族って人間と違って成長が速度ゆっくりなんですって。だけどそのおかげで恋愛も出来なきゃ普通の女の子の楽しみすらなかったわよ。おまけに勇者に殺されるのがラストステージですって。もういい、もううんざり、殺される事に怯えて暮すのもこりごりよ」


「キサラギ……どうする?」


「私は知らん、自分で考えろ」


「つめてえなぁ」


まあその気持ちは分かるよ。

俺だってこんな事無視して、今すぐここから逃げ出したい。


「ねえ、あんたは何て言われたの?私はね、いずれここに来る魔王に殺されるって言われたの。それも生まれた時にね。それからずっとあなたに怯えて育ってきたの。ねえあなたは?何て言われたの?」


「お…俺は……」


魔王一派を討伐せよ。

言えないよ、こんな事。


「もしかして君も転移者なのか?」


「違う、私は転生者だ。あの時死んで、そして今また死ぬの…。いいわ、さっさと殺して」


「出来ねえよ、そんな事。そんな思いを募らせてきたあんたを殺せる訳ないだろう」


この人は、生まれてすぐ死ぬことを運命づけられて今まで生きて来た。

人間誰しもいずれ死ぬが、それにしても同一の記憶で2回だ、残酷すぎる。


「なぁ、おかしいと思わないかこの人生。誰かに決められた事をしなければならないなんて、まるでどこかのプログラマーが作ったVRMMOみたいだ。それもストーリーはクソゲー」


「そうね、でもこれはゲームじゃない。死ぬ時は死ぬのよ」


「俺は納得できねぇ」


そうさ、誰かに決められた人生なんて、納得できる訳がない。


「いいわねあなた、私は死ぬ方、あなたは殺す方。変われるなら絶対に変わっていたわ。ねえ私の諦めは生まれた時に、ううん、1年ぐらいは嘆いていたか。でも1歳ぐらいから諦めはついたていたわ。だからもう早く終わらせて」


「そんな言葉を吐きながら笑うなよ。諦めが良すぎるよ、もっと抗えって。あと1年でも、10年でも、100年でも。あんた寿命長いんだろ!?」


「いいの?抗っても。私これでも魔王よ。一応攻撃も出来るし魔法も使えるのよ」


「そ、それは」


今まで戦いなどいくらだってしてきた。だけどこいつとは戦いたくない。

そう思うんだ。


「だけどあなたを倒しても、また新たな勇者が私を殺しに来るの。嫌なのよそんなの。何年も何度も死ぬ事に怯えて暮すなんて。だったらさっさと殺されてリタイヤしたいわ」



う~~~~~~~~~~ん。



「もういい!もう止めた!!誰がなんて言っても俺はもう魔王討伐なんてやめる」


「何を言っているの」


「そうだよ。俺が死ななきゃ新たな勇者は出ないし、あんたが殺されなきゃ魔王が再び誕生しない。お互い都合がいいだろ?いい考えだと思わないか?」


「それでいいのか?お前は魔王を殺す事により何らかの報酬がもらえるのだろう?」


「いんや、元いた世界に戻るか、この世界に残るかの二択だった。俺は前者を選んだけれど、今はもうどっちでもいいんだ。だからこのままこっちにいたって別に構わねえ。お前はどうなんだ?」


「私はそんなこと考えた事など無かった。でもこの世界の人、セバスチャンやメイドのメアリー達は優しい。私を愛してくれた。だから私が死ぬ事で悲しませたくない。正直に言えば私はこの世界に未練が有る」


「なら決まりだな、俺はあんたを殺さない、この世界で生きて行く。だからあんたもこの世界で生きろよ」


「勇者よ……」


「俺の名はタウロだ」


そう言い、魔王に手を差し出す。


「私の名はアリサだ」


魔王がその手を取る。

だがその時、けたたましい警告音が響いた。


【勇者、魔王討伐失敗。したがって己の希望した報酬は取り消しとなる。】


「やっぱりクソゲーか。だが己が希望した報酬の取り消し?俺は自分の世界に帰ることを希望したから帰れなくなったって事か?帰れないって事は帰らなくていいって事だろ?おまけに勇者の称号剥奪とは言ってなかった。それなら俺はまだ勇者だ。従って俺が死なない限り、新しい勇者は生まれない!」


「それはそうだが……いいのそれで」


「いいさ、これでキサラギと別れなくてもよくなったしな。なっ相棒」


「そうか、タウロはもう帰らないのか。私は全然かまわないぞ、お前の面倒は私が見てやろう」


「言ってろ」


ドアの傍らでは、一部始終を見ていたセバスチャンがハンカチ片手に涙を流していた。

やっぱり魔王はこの人達に愛されてたんだな。

俺の選択は間違っていなかった。




結局俺達は、しばらく魔王城に厄介になる事にした。

目的が無くなっちまったからな。

この先何をするか、考える為だ。


「タウロ、決まったか?」


「そんなに早く答えを出せば後で後悔するだけだぞ。計画はじっくり練るべし」


それにしても………。


「なあ、あのポチ(俺達をこの世に呼んだ奴の仮称、神か創造主か分からないから)の設定した報酬って酷くないか?ここに留まるか帰るか……だけだぞ。無理やり連れてきてそれは無いだろう?せめて成功報酬1億円とか。まあ結局失敗したんだけどさ。それに、こんなに可愛い魔王を殺した報酬なんて欲しくもないけど………」


ふむ。


「なぁ、俺達組んで金儲けしねぇ?荒稼ぎって言うんじゃなくて、生活費は稼がなくちゃだめだろ。いつまでもここにお世話になっている訳にもいかないしさ。魔物狩りを請け負ったり、素材を売ったり、何か考えようよ」


「いつまでもここに居てもいいのに」


いつの間にか割り込んでいたアリサが言う。


「だけど何もしないで人の金で暮らすのも心苦しいし…ってアリサはどうやって稼いでいるんだ?」


「私は魔王で領主だからね。この町を魔物や外敵から守り、揉め事の仲裁をしたり、時には気候さえ操るよ」


「すげえな。そして対価として税金を貰っているのか」


「だがそんなにふんだくっているつもりは無いわよ、正当報酬と思う程度」


「だろうね、じゃなきゃあの街の人があんなに幸せそうにしてないからな。あんたが治め出してあまり経っていないだろうに大したものだよ」


「そ…そうか?アハハハ………」


照れる魔王も可愛いな。

見た目10歳ぐらいだけど。


そして俺、元勇者は魔王城にお世話になりながら、生活の方法を探る事になったのだ。


仕事決まったらまた報告するよ。



終わり良ければ総て良し!

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