第49話


 放課後は文化祭の準備と、やり残した夏休みの宿題。

 そして、うみんちゅハウスで仕事の手伝いに勤しんでいれば、普段よりも速いスピードで日が過ぎていくような気がしていた。


 暇な時間があればすぐに失恋の傷を思い出してしまうため、忙しなく頭を使っていたかったのだ。


 結局宿題はちっとも答えが分からず、クラスメイトの一人に頼み込んで写させてもらうことになったのだ。


 ひまりは前日まで文化祭実行委員としての準備が忙しそうで、まともに会話が出来たのは朝の登校時間くらいだ。


 コンビニで買った美味しいお菓子の話や、新しいプリクラ機種の話など、当たり障りのない会話。


 あの事はまるでなかったかのように、お互いが触れずにいるのだ。

 



 文化祭当日を迎えて、晴那は約束通りに由羅と二人で回っていた。

 上半身は制服ではなくて、文化祭のために各クラスがデザインしたクラスTシャツをそれぞれ身に着けている。


 丸首でさえあれば他に細かい指定はないため、それぞれのクラスが特色を出すために個性的なデザインを施しているのだ。


 どこのクラスも出し物で賑わっており、廊下にも沢山の飾り付けが彩られている。文化祭らしい雰囲気に心を躍らせながら、校内を練り歩いていた。


 「わたがし買ってきてもいいですか?」

 「もちろん、私もりんご飴たべようかなあ」


 縁日をテーマに出し物を行っているクラスへ入れば、やけに視線を注がれていることに気づいた。

 

 皆、隣にいる由羅を見ているのだ。学園中から羨望の眼差しを向けられている彼女はどこへ行っても目立つようで、先ほどからチラチラと視線を感じていた。


 途中で会ったクラスメイトからも、由羅と仲が良いことに何度も驚かれたのだ。

 

 悩んだ末に、晴那はわたがしではなくて水あめを購入していた。

 幼い頃に駄菓子屋さんで食べた記憶が蘇り、つい食べたくなったのだ。


 「水あめってどうやって食べるの?」

 「こうやって、お箸を二本使ってぐるぐるするんですよ」


 練り込み続ければ、飴が白く変色し始める。

 その様子に、由羅は興味津々と言った様子で興味深そうに眺めていた。

 

 「次どこ行きます?」

 「晴那ちゃんのクラスでやってるお化け屋敷は?」

 「実は、かなり盛況でめちゃくちゃ並ばないといけないんですよ」


 実行委員をはじめとして、クラスメイト達も皆やる気にみなぎっていたためか、文化祭にしては高いクオリティで、学校中で噂になってしまったのだ。


 晴那も由羅と会うまでは当番として受付をやっていたのだが、途切れることのない列にすっかり疲弊させられてしまっていた。


 結局、二人はお化け屋敷へは行かずにガーデニング部主催の展示会へと向かっていた。


 教室を一室貸し切って行われているのだが、生花からドライフラワーまで様々な種類のものが展示され、綺麗らしい。


 階段を登っていれば、反対に降りていく女子生徒の顔を見て、思わず足を止めそうになる。


 「ひまりのおかげで超賑わってない?そっちのクラス賞取っちゃうんじゃないの?」

 「どうだろうね」

 「うちの所マジ過疎ってるから。お客さん分けてよ」


 隣にいる女子生徒は初めて見たが、彼女の友達だろう。

 自分で断ったくせに、いざひまりの顔を見ると一緒に回れている友人が羨ましいと思ってしまうのだ。


 ひまりは友人と喋るのに夢中なあまり、こちらの存在に気づいていないようだった。


 「晴那ちゃん、行こう?」


 手を取られて、されるがままに指を絡めとられる。

 由羅の手を握りながら、考えてしまうのはあの子のことで。


 それが酷く失礼なことだと分かっているのに、ひまりに焦がれる気持ちを、未だにやめることも出来ずにいるのだ。

 


 

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