第22話


 授業合間の僅かな隙間時間。

 晴那は、クラスメイトである水戸沙月に声を掛けていた。

 仲良くなるためには積極性が大事であることは確実で、僅かな勇気を振り絞ったのだ。


 少し緊張している晴那に、沙月は笑顔で対応してくれて、次第に彼女と仲の良いクラスメイトもちらほらと集まり始める。


 話せば意外と皆友好的で、ひまりの言う通り晴那に興味を持っている生徒は確かにいたのだ。

 こんなにも賑やかな時間は初めてで、楽しくて仕方ない。

 

 会話の合間にふと、派手なグループの中心にいるひまりの姿が視界に入った。

 昨日からずっと気になっていたことを、1番近くにいた沙月に尋ねる。


 「ねえ、沙月はさ、ひまりが器用だと思う?」

 「ひまりちゃん…?」

 

 教室の輪の中心にいるひまりに、沙月がちらりと視線をやる。

 そしてすぐに、自信満々の様子で答えを返してくれた。


 「うん。勉強も得意だし、人付き合いも器用にこなしてない?」


 どうやら沙月から見ても器用と感じるらしい。

 しかし、晴那が知ってるひまりはそうじゃないのだ。

 不器用だけど、優しくて、一生懸命な女の子というのが、晴那の中でのひまりの印象だった。






 昨日、由羅の家で衝撃的なカミングアウトをされた直後のことだ。

 器用で何でも出来ちゃう妹と紹介された分、晴那は実際のひまりとのイメージにギャップを感じてしまっていた。


 考え込むように唸る晴那を見て、由羅は意外そうな声を上げたのだ。


 『知ってるの…?』

 『はい、同じクラスで…』

 『そっか…けど、私と仲良いことはあの子に言わない方がいいかも。仲良くないから、それで晴那ちゃんが目つけられたら大変だし』


 昔からクラスの中心にいる子だったからさ…と由羅は言葉を続けた。

 恐らく、晴那とひまりが割と仲がいいなんて、由羅は毛頭にも考えていないのだろう。


 これはひまりとの関係を正直に伝えてもいいのだろうか…と悩んでいれば、丁度由羅の母親が帰宅して、会話はそこで中断してしまったのだ。


 もういい時間だったため、そのまま家に帰ったのだが、未だに引っ掛かりを覚えてしまっていた。




 改めて、教室にいるひまりを眺める。

 器用と正反対にいる子だと思っていたが、周囲の人はそうは思わないのが、意外で仕方なかった。


 どうして、二人はあまり仲が良くないのだろう。姉妹特有の空気感があるのだろうが、やはり気になってしまう。


 すると、「由羅さんだ」という男子生徒の声が聞こえて、晴那は背後を振り返った。

 彼らは窓から外を眺めており、つられるように晴那も目線を寄越す。


 そこには、外廊下を歩く由羅の姿があった。


 「綺麗だよね亜澄先輩。男子が騒ぐのも分かるわ」

 「知ってるの?」

 「この学校じゃ有名だよ。背も高くてスラーってしてて、モデルみたいじゃん」

 「そうなんだ…」

 「うちの学校で1番綺麗って言われてるよ、あの人」


 下級生からも知られているなんて、改めて彼女の美貌を痛感させられる。

 たしかに、晴那も初めて見た時その綺麗さに目を奪われたのだ。


 「あ、ちなみに2年生で1番可愛いって言われてるのはひまりちゃんなんだよ?亜澄先輩派かひまりちゃん派で別れてるの」


 2人が姉妹だと知らなくても、違う形で同時に話題に上がってしまう。

 

 あの二人が姉妹であることを知っている人は一体どれくらいいるのだろう。


 学園が憧れる美人2人の、意外な関係。

 口外する気はさらさらないが、ひまりに対して知らないふりをした方がいいのか。

 由羅に対して、ひまりと仲が良いことを伝えてもいいのか。


 まるで板挟みのような状態に、晴那は困り果ててしまっていた。

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