歩く女の子

@chased_dogs

歩く女の子

 女の子が歩いていました。


 女の子が歩いていると、空からスポンジが降ってきました。香ばしいバターの香りのする、やわらかいスポンジです。

 女の子は頭の天辺から爪の先まで、すっかりスポンジに包まれてしまいました。

 女の子は歩き続けます。


 女の子が歩いていると、空から大きな苺が落ちてきました。ひと粒ひと粒が女の子の頭くらいある、大きな苺です。

 女の子は頭の天辺から爪の先まで、すっかり苺の甘い香りに包まれてしまいました。

 女の子は歩き続けます。


 女の子が歩いていると、空からクリームが降ってきました。真っ白くキメの細かい、コクのあるクリームです。

 女の子は頭の天辺から爪の先まで、すっかりクリームだらけになってしまいました。

 女の子は歩き続けます。


 女の子が歩いていると、クマに出逢いました。茶色い毛皮の滑らかな、大きなクマです。

「わあっ、ケーキが歩いてる!」

 クマは驚いて立ち止まりました。

 クマの横を女の子が通り過ぎていきます。


 女の子が歩いていると、オオカミに出逢いました。灰色の毛を蓄えた、けれど痩せぎすのオオカミです。

「わあっ、ケーキが歩いてる!」

 オオカミは驚いて立ち上がりました。

 オオカミの横を女の子が歩いていきます。


 女の子が歩いていると、小さな家が見えて来ました。煙突からは煙がモクモク立ち昇っています。

 女の子が近づいてくると、玄関の扉が開きました。中からおばあさんが出てきます。

 おばあさんは女の子が進む道の途中に、家の玄関を置きました。女の子は玄関に吸い込まれるように入っていきます。

 家の中には大きなお皿が一つありました。おばあさんがお皿をテーブルの上に置くと、女の子はお皿の上に載りました。そして壁にぶつかると、女の子は座り込んでしまいました。


 それからおばあさんは、大きなフォークと大きなナイフを持ってきました。おばあさんは、ナイフとフォークできれいにケーキを切り分けて、それから全部食べました。

 女の子はどこにもいなくなっていました。

 ケーキを食べ終えると、おばあさんは眠くなってしまい、椅子に座ったまま、眠ってしまいました。


 女の子が目を覚ましました。それから、すっかり何もかも思い出しました。

「そうだった。ケーキを作らないと」

 女の子は玄関の扉を開けると、家の外へ歩き出しました。


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