第6話 帰路に着くオレです


 ミヤビの異常をなだめながら京はとりあえず役所へ向かった。おそらくミヤビがクエスト完了は伝えていると思うが、それ以降何をすればいいか分からなかったからだ。数分歩き、役所の扉を開ける。



「あ、新米第四騎士の連れ様! 話は聞いています。お怪我はありませんか?」



 役所に入れば早々、受付嬢が京の元へ駆けつける。



「第一騎士が助けてくれたから大丈夫だ。……。という事は、ミヤビは無事に昇格出来たってことか?」



 受付嬢の言葉からしてミヤビは第五騎士から抜け出したのであろう判断した。頷く受付嬢。隣にいたミヤビが自慢げに胸元の装飾を取り外し京に見せつける。


 京の物ほど派手ではないが、最初に会った時のブローチよりかは宝石かラインストーンのような輝く装飾が少しついていた。真ん中にはローマ数字で〈IV〉と彫られていた。



「ふふん。私もやればできる子ですよ。これで新米騎士から卒業します」



 お姉様達に可愛がって貰えなくなるかもですけど、と付け足し笑うミヤビ。彼女の笑顔に京は教え子と生徒のような感覚になった。



「それは良かった」



 ミヤビの頭に軽く手を置く京。反射的に顔を赤くするミヤビ。



「あーーー! もう!! キョウお姉様!! 好き!」




 そう言えばコイツ、女のオレに憧れていたんだ。



 嫌な思い出を思い出すと、抱きつこうと飛びかかってしたミヤビを簡単に避ける京。その勢いのまま顔面から床に着地するミヤビ。どすんという派手な音が役所中に響いた。それに反応するかのように役所にいた他の騎士や魔道士たちの視線が一気にミヤビに集中した。



「やだぁ……」



 鼻血を垂らしながらゆっくり立ち上がるミヤビ。右手でその血を拭うと、先程とは別の意味で顔を赤くし、そのまま役所を出ていった。



「おい! ミヤビ!」



 受付嬢に軽く礼をし、京もミヤビの後を追った。




 しばらく歩くと、ミヤビの顔の火照りは治まり、京に向かって頬を膨らませた。



「もう! キョウお姉様! どうして受け止めてくれなかったのですか!?」



 僅かについていた鼻血の痕を再度拭いながら叫ぶミヤビ。京は半分呆れの混ざったため息をついた。



「当たり前だろ。抱きついた次は何をするつもりだった? キスか? それ以上か?」



 京の言葉に反論できず口を閉じるミヤビ。その後口を尖らせる事で精一杯の反論をした。




「ほら、言わんこっちゃない。オレはお前とそんな関係になるつもりは無い。家を提供してくれるのはありがたいが、出来ることは精々掃除とさっきのようなクエストの引率程度だ。それで不満ならオレは出て―」


「いいえ。充分です。私が悪ぅございました。申し訳ないです。なので一緒に住んでください」




 京の言葉を遮るように土下座と共に早口で話すミヤビ。そんな彼女にドン引きと言わんばかりの顔をしながら彼女の横を通り過ぎる京。鉄製の靴が地面を蹴る音がミヤビの耳元で虚しく響く。



「あー! もぅ! 待ってください!」



 土下座から立ち上がり、京を追いかけるミヤビ。そんなやり取りをしていると、ミヤビの家の前に着いた。流石に家主より先に扉を開けるのは良くないと思い、ミヤビが追いつくのを待つ京。数秒後、ミヤビが追いつき、玄関の扉を開けようとしたが、家の方から奇妙な会話が聞こえた。




「ちょっと……ここでは……」


「いいじゃないですか。姉さん。ほら、体は正直ですよ」


「それはカエデが……!」



 そこまで聞くと、ミヤビは先程の京に負けないため息をついた後、思いっきり扉を開けた。再度ドアが悲鳴をあげる。そこにはカエデがモミジの腰を取り、片方の手でモミジの顎を固定し、今にも接吻をしようとしている所だった。数秒間四人全員の時間が止まったかのように固まっていた。



 その後一番に動いたのはミヤビだった。本日何度目かの顔を真っ赤にしながらモミジとカエデを引き離す。



「やだ! エッチー!」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る