第33話 念願のステーキ
「……な、なぁ、あいつモンスターハウスを一撃で壊滅させてないか?」
イワンは心底驚いた様子で声を震わせながら言った。
「そうだね。あんな魔法使える冒険者なんて今のルンベルクにはいないんじゃないかな?」
ニコライは冷静ぶって答えるが、内心めちゃくちゃ驚いていた。
「素敵……っ」
ドリーはロアに惚れた。
「ッチ、つまんねぇな。これだとあいつが調子に乗るばかりじゃねーか。クソが」
ジェイクはとても機嫌が悪そうだった。
「ジェイクはそろそろ負けを認めなよ。あれは多分めちゃくちゃ凄いユニークスキルを持ってるんだよ。僕たちじゃ相手にならないよ」
「ニコライ、随分と弱気だな。……ん、待てよ。良いこと思い付いたぞ。戦果で勝てなくてもあいつに勝てば俺がルンベルク最強の冒険者だという証明になるじゃねーか。くっくっく……俺はなんて頭が良いんだ。よし、あいつに決闘を申し込もう」
「その考え方、めちゃくちゃ馬鹿っぽいよ」
「んだとォ!? ニコライてめぇ!」
「まぁまぁ、落ち着けって。それにニコライの言ってることは正しいぜ。あれは格が違う。あんまり噛みつくのはやめておけ」
ジェイクがニコライの胸ぐらを掴んだところでイワンがその間に割って入った。
「ジェイクは何でそんなにあの冒険者に噛みついてるの?」
ニコライは胸ぐらを掴まれたことを何とも思っていない様子で言った。
「ムカつくだろ。ああいうの」
「なるほど、僕たちがCランク冒険者になってからこれ以上の活躍を見込めないことに不満を感じているんだね」
「んなこと言ってねぇだろうが!」
「でも事実だろ?」
「……ッチ」
「しゃーない。ジェイクの言う決闘に付き合ってやろうぜ。でも相手になるべく迷惑をかけないやり方で戦うんだ。野蛮な輩が多い冒険者の間でも最低限のマナーは存在する。それを超えるようだと、冒険者として長い活動は出来ないからな」
「イワン……ありがとよ」
イワンがジェイクの思いを汲み取って、決闘の提案を受け入れた。
「これじゃあ誰がリーダーだか分からないね。ま、それが僕たちのパーティらしいんだけど」
「ははっ、そうだな。ドリーもそれでいいか? ……って、ドリー?」
ドリーは表情を赤らめながらボーッとロアを見つめていた。
「ああ、こりゃダメだ……ちゃんと聞いてないな」
イワン達はがっくし、と肩を落としたのだった。
「……おい見ろよ。あいつら魔物の素材を剥ぎ取らないで[転移石]で帰って行ったぜ」
「ハッ、馬鹿な奴らだぜ。あれじゃあ魔石しか回収してないだろ。くっくっく、素材の価値も分からないとはやはり冒険者としての実力は俺たちの方が上……」
「ってことはさ、あの素材僕たちが頂いちゃっていいよね?」
「まぁ捨ててあるんだからな。拾っても文句は言われないだろ。よし、みんな拾うぞ!」
ロアが倒した魔物達の素材を剥ぎ取ってから4人はダンジョンから帰還するのだった。
◇
冒険者ギルドで換金を済ませるついでに依頼を達成したことを報告した。
本日の魔石は30個だ。
12万ムルに加えて依頼の報酬の15万ムルを手に入れた。
めちゃくちゃ稼げた。
モンスターハウス駆除の依頼は今後とも積極的に引き受けていきたいところだ。
Cランク昇格もすぐなんじゃないか?
「マジかよ……あいつら、本当にたった二人でモンスターハウスを駆除してきたのかよ」
「只者じゃねーな……」
「俺、パーティに入れて貰えないかな……」
受付に立っていると、他の冒険者からの噂話が聞こえてきた。
耳を済ませて内容を聞くと、どうやら俺たちのことだった。
赤髪の冒険者が言っていたことは本当だったか。
この様子だとマジで噂になっているみたいだ。
まぁ確かにダンジョン内で見る他の冒険者達と比べると俺たちは一つ頭が抜けていると思う。
決して自惚れとかじゃない。
俺の【魔法創造】がとんでもないスキルなだけなのだ。
よし、それじゃあ食事にしよう。
「ロアさん、なんだかとっても嬉しそうですね」
「ふふ、そりゃあんだけ金が入ればな。──ソニア、俺は今日ステーキを食べるぞ!」
このギルドに来たときから気になっていた牛肉のステーキを俺は今日ついに食べることを決めた。
理由は所持金がかなり潤ってきたからだ。
50万ムルを超えて、今は60万ムルぐらい所持している。
これからも所持金はどんどん増えていくだろうから、ちょっとぐらい贅沢しても罰は当たらないだろう。
「食べたいって言ってましたもんね」
「ああ、所持金も溜まってきたしな。これからもどんどん稼げるようになるだろうし、食ってもいいよな?」
「ふふ、それは私が決めることじゃありませんよ。ロアさんが食べたいと思ったら食べればいいんです」
「だよな。ちょっと貧乏癖が抜けなくて中々食べる決断が出来なかったが、今日こそ俺は食べるぞ」
牛肉のステーキを注文し、いざ実食。
ナイフとフォークをソニアの見様見真似で使ってみる。
あまり綺麗な食べ方ではないだろうが、俺は気にしない。
それっぽい食べ方をしている雰囲気を味わうのだ。
ナイフで肉を切ると、断面の赤色が食欲をそそった。
肉は想像していたようにあっさりと切ることができた。
一切れにした肉をフォークで突き刺し、ひと口。
じゅわっと肉汁が口の中に広がる。
噛めば噛むほど肉の味がして、めちゃくちゃ美味い。
「……うめぇ」
俺は涙を流しながらステーキを完食した。
「おいお前」
ステーキの余韻に浸っていると、先ほどの赤髪の冒険者から声をかけられた。
「なんだ。モンスターハウスの駆除依頼ならもう達成しちまったぞ」
「そんなことはもうどうでもいい。俺たちと勝負しろ!」
うわー、めっちゃめんどくさそう……。
「ハァ、一応聞いておくけど、一体何で勝負するんだ?」
「くっくっく、ルンベルクのダンジョンボスの討伐タイムで競おうじゃないか。より早くダンジョンボスを倒したパーティの勝ちだ」
「まぁ……それなら勝負を受けてやるか」
どうせダンジョンボスは倒す予定だからな。
丁度いいだろう。
こいつらよりも早く倒せばギルドも評価してくれるかもしれないしな。
そういう評価項目があるかは知らないが……。
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