第21話 ビールお願いします

幸助の約束の前に

俺はテレビ取材があり

テレビ局へ


緊張するな・・・


俺ってこういうの得意じゃないんだよな


芸能人が行き交う通路を通り

スタジオへ案内される


連れてこられたのは

リビングのようなセットの中へ


そこで

今日、インタビューしてくれるアナウンサーが紹介される


「今日は取材を受けてくださって

ありがとうございます

笹山 奏と申します

宜しくお願いします」


その名前に顔を上げる

・・・奏

驚く俺に

彼女は初対面の様な笑顔を向ける

俺も

他の人たちもいるし

状況をややこしくしないためにも

それらしく

挨拶をする


そして


1時間弱のインタビュー


いつもそうだけど

今日はとくに

緊張が増して

話しが上手くできない


奏は

そんな俺から上手く話を引き出し

まとめ

笑いまで作ってくれて


アナウンサーとして

テレビ業界の人間として

なれているような

できる人のような

さばけた仕事をしていた


俺はそれに見とれるというか

状況を理解するのにいっぱいで

不甲斐ないことに

ぼんやりとしていたと思う


その時間は

あっという間に終わり


挨拶をすると

速やかにその場を離れた


何だったんだろう?

今の空間は?


理解できないまま

用意されて着ていた衣装を脱いで私服に着替える


帰ろうとしたとき


”トントン”


ノック音

スタッフの人かな?


「はい」愁


「笹山です」奏


奏だ・・・どうしよう

何で?何で”どうしよう”って思うんだろう


「失礼します」奏


どうぞって言ってないのに戸が開いた


奏ではにっこり笑顔で部屋に入ってきた


「噂とか困るでしょうから

戸は開けておきましょうね」奏


そう言って

目の前に立つ


「お久しぶり

愁くん」奏


化粧してるからかな?

大人っぽい


「久しぶり・・・だね

気が付いてないのかと思った」愁


奏は”ふふふ”と笑って


「気が付くわよ

資料ちゃんと読んでインタビューするんだから

それ以前に愁くんは

あの頃からずっと有名人だしね」奏


そうだよな・・・そっか

えっ?今、愁くんって呼んだよな・・・


「大人っぽくなったね

話し方とかしっかりしてるし」愁


奏では褒められなれているのか

これをほめ言葉と取らなかったのか

表情は全く変えることなく

にこやかに


「そうね

仕事柄・・・それに

私たち

結構いい年齢なんだよ

いつまでも少女じゃないわ」奏


そうだよな

10年たってるもんな

あれから10年

生まれたばかりの子が

小学校高学年

全力でかけっこしたら

三本目くらいにはギリ負けるかも


時間過ぎたな・・・


「そっか」愁


思う事はあるが

なかなか言葉は出ない


「少し話せる?」奏


そう言って彼女は連絡先を置き

部屋を出ていたった


幸助との約束まではまだ4時間あるし

直ぐに来るって言ってたから

奏が指定した店に行く事にした


久しぶりに会えて

嬉しかったのかな?

それとも彼女の押しが強かったからなのかな?


俺は半個室のダイニングバーで彼女を待った


あの頃も美少女だったけど

今はそれにもましてあか抜けたというか

大人の女性に成長していて

洗練された美しい人になっていたから

俺はここで待っているんじゃない

下心ではない


そう自分に言い聞かせながら

時計を見る


その時


「お待たせ!!」奏


そう言って

俺が待つ席に案内されて彼女が来た


彼女はさっきまでのパンツスタイルとはまた違って

フェミニンなワンピースに薄手のカーディガンを肩にはおった姿で現れた


少しドキッとした

俺はいくつになっても単純だ


俺はぺこりと頭を下げて

挨拶をすると


彼女は俺の向かいに座って店員さんに


「ビールお願いします」奏


なれた口調でそう言った

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