第12話 号泣

俺の冬は終わった

最後まで

走りぬけることは出来なかった


仲間は声を出して泣いた

先輩たちは嗚咽をしていた


俺は泣かない


後悔はない

今の全力を出し切ったから

俺たちの力が

そこまでだったんだ

次の課題が見つかった


通過点だ


そう言っていても

下を向くと

汗に紛れて涙が落ちそうだった


俺は

休まず

今日からまた

走り出す


一つの試合が終わっただけで

俺のサッカー人生が終わったわけではない


だけど

もうしばらくは

しっかり負けに浸りたくて

バスには乗らず

観客席へ上がり

俺は一人で

もう誰もいないフィールドを眺めていた


「・・・悔しいなんて思っちゃだめだ!

潔く弱かった自分を受け入れろ」愁


自分に言い聞かせる


「愁・・・大丈夫?」唯香


唯香が横に座った

俺は独り言を聞かれたのでは?と思い少し赤くなる


「帰らなかったのか?」愁


小さく頷く唯香


「頑張ったね・・・みんな」唯香


唯香は遠くを見ていう


「・・・」愁


俺も遠くを見る


「愁・・・一番走ってたね」唯香


そんなことは無い

相手チームの一年生に

俺は完全に抑え込まれていた


「・・・」愁


唯香はサッカー経験者

自分なら・・・って

見ていて悔しい思いしたんだろうな・・・

ごめんな


「PKは運だよ

じゃんけんと一緒」唯香


そうだ

その通りだけど・・・


「・・・だから

そこまで持ち込んじゃいけなかった

もう一点入れれなかった俺たちは

弱かったんだ」愁


思ったより大きな声を出してしまった

唯香にあたっても仕方がないのに

唯香は慰めてくれているだけなのに

俺は強く言ってしまうなんて

情けない


唯香はじっと俺を見る


気が付くと

俺はボロボロと涙を流す

息が上がって

小さな子供のように号泣する


唯香は俺の肩に手を置いて

ポンポンと励ますように叩く


「泣いた方がいい」唯香


涙はどんどん出てくる


そうしていると

唯香は立ち上がり俺の前に立って

俺の事を抱きしめた


唯香のジャージ

あの時の甘い香りがする


俺は唯香の腰に縋りつくように抱き着いて

唯香の柔らかい胸の下あたりに顔を埋めるように

情けなく泣いた


唯香は何も言わないで

俺の後ろ頭を

猫の背中を撫でるように触れていた


どのくらいそうしていたろう?


俺はゆっくり離れた

夕日が目に刺さって

まぶしい

自分のジャージの裾で涙の痕を拭いた


唯香は俺の顔を覗き込んで

ニコリと笑い


「しっかり見とこう

愁の泣き顔」唯香


俺は顔を横に向ける


「愁のファンの子に見せたら

大興奮だよ

写真撮ろっかな~」唯香


ふざける唯香の顔を手で避けるようにして


「からかうなよ」愁


そう言うと

唯香は男友達のような格好で俺の首に手をまわして


「親友のよしみで内緒にしておこう

このことは私だけの思い出にしておく」唯香


そう言って

俺の頭をポンポンと撫でた


「偉そうだな」愁


俺がそう言って笑うと

唯香もまた笑った


「よし、帰るか」唯香


俺たちは何もなかったような顔で

競技場を出る


今日は唯香が俺を寮の前まで送った


「いや、俺が送るよ」愁


そう突っ込んだら

唯香は首を横に振って


「うちの大切なエースを

ちゃんと送り届けるまでが

マネージャーのお仕事のひとつだよ

今日はゆっくり休んで」唯香


そういい残して

唯香は男前に帰っていった


有り難う


俺は心のなかでそう呟いた



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