第47話 弟の威厳

あんなに降っていた雨はも上がっていた

栞は私の手を引いて

またどこかへ行こうとしている

通りに出て

タクシーを拾う


「今度はどこにいくの?」悠


そう聞くと何も答えずにタクシーの運転手さんに言った行き先は

涼太の家


数分間

私たちは何も話もしないで

栞は

私の手を握りしめる


不安なのかな・・・・・・?


タクシーが着くと

マンションの前で栞は涼太に電話


「もしもし

俺・・・今どこ?

・・・うん・・・うん・・・あのさ

今、お前の家の前にいるけど

話しがあるんだ

いっても良い?

・・・・・・うん」栞


私は栞の顔をずっと見ている

栞は表情があまり変わらないから

どんな話になっているか読み取れない


「悠ちゃん

行こうか!!」栞


えっ

行くの?


電話を切ると

直ぐに私の手を引いて涼太の家に


”ピンポン”


ドアが開く


「こんばんは!いらっしゃい」來未


來未ちゃんは満面の笑みで迎えてくれて

次の瞬間

隣に私が立っていることに気づくと

キョトンとした表情をして

直ぐにまた笑顔になって


「お久しぶりです」來未


そう言って

中に案内した


リビングでは涼太がこちらを見ていて

栞を見て私を見て

私の手を握る栞の手を見た


そして

あからさまに嫌な顔をした


「話ってそれ?」涼太


栞は涼太の前に座って


「ごめん涼太

いっぱい心配させたし

迷惑かけたけど

やっぱり俺

悠ちゃんしかないよ」栞


涼太は不快感を表情にそのまま出して

そっぽを向く


次に呆れているような表情で私を見て


「どうするの?見合い

お前、そんなにいい加減な大人なの?」涼太


私は何も言えないでいると


「俺が断る

ちゃんと誠意をもって

悠ちゃんは悪くないから!!」栞


涼太は栞を睨みつけて


「お前に話してねーよ」涼太


涼太の言う通りだ

パパやママだけではない

この見合い話は

たくさんの人たちの思いが集まってできている

そんな人たちの気持ちを無下にできるほど

私はもう子供ではない


栞の方を見る


真っすぐに

何かに耐えるようにこらえているような

そんな表情に見える


もういいよ

もう十分

あなたの気持ちがこんなに私に向いていてくれていることが分かっただけで

幸せだから・・・


「ごめん・・・栞

わたし、涼太の言う通り

お見合い・・・断れない」悠


そう言うと

栞は険しい顔で


「悠ちゃん!!違うよ

そんなに簡単に俺をあきらめないで

これまでそうやって

そうやってここまで来て

すれ違って来たんじゃないか!

俺はもう間違わない

言ったろ?

俺はもう

どんな事があっても悠ちゃんを手放さない」栞


栞は今までにないような強い言い方で

でも優しく真っすぐに私を見て言う

涼太はそれを

キョトンとした顔で見る


「栞・・・マジなの?

マジで姉ちゃんと居ようと思ってるの?

守っていく自信あるわけ?」涼太


栞は涼太を真っすぐに見て

頷く


「今、たった今

実家に行って悠ちゃんと結婚することを両親と裕也に話してきた」栞


「マジか?」涼太


「マジだ」栞


「おやじさん・・・なんだって?」涼太


「色々あったけど

裕也の援護もあって

許してくれた」栞


「裕也・・・協力してくれたの?」涼太


「うん・・・俺・・・俺も驚いたけど

裕也

味方してくれた

悠ちゃんとのことがきっかけで

家も

うちの家族も

今までとは違って

良い方向へ進めるきっかけになった気がする

お前にも

いや

お前には絶対に俺たちの事を認めてほしい」栞


「なんで?」涼太


「親友だから

あと

悠ちゃんの大切な弟だから

俺たちが一緒に居ることで

お前を失ったら

100パーセント幸せじゃない

悠ちゃんを幸せにしたいんだ」栞


涼太は下を向く

しばらく下を向く

私たちはそれを見ている

すると肩が揺れ始める


「くくくくっ」涼太


涼太は笑いだす

どういう事?

この子・・・どうしちゃったの?


「笑える

お前・・・マジ

笑える」涼太


涼太は大笑いする


「お前・・・男らしくなったな

むかしからカッコよかったけど・・・男を上げたよ」涼太


栞の表情が緩む


「分かったよ

分かった・・・認めるよ

お前が姉ちゃんの事好きなこと

良かったな

姉ちゃん・・・」涼太


涼太は栞の前に綺麗に座りなおして

深く頭を下げ


「どうしようもなくガキっぽい未熟な姉ですが

宜しくお願いします」涼太


栞も涼太に合わせるように座りなおして

より深く

頭を下げて


「大切にします」栞


そう言って

二人は同じタイミングで頭を上げると

何故か涙が目いっぱいに溜まっていて


「は?お前なんで泣いてんの?」涼太


涼太が栞を茶化すと

栞も負けずに


「お前だって泣いてるだろ!!」栞


そう言って二人は

以前のように仲良く

笑いあっていた


「こんなものしかないですけど・・・」來未


來未ちゃんがジュースを入れてくれた

ニッコリ笑ってるけど

彼女の目にも涙が・・・

來未ちゃんにも心配させたな・・・私たち


「ジュースかよ!」涼太


そう言って

涼太は一気に飲み干した


栞も柄にもなく

同じように一気飲みしてまた笑いあった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る