第45話 父の…

栞と私は

人が一人十分に生活ができそうなくらい

広い玄関の直ぐ先にある部屋に通された


きっと

応接室・・・


とても古い家ではない

メンテナンスが行き届いていたとしても

築30年たたないよね

今時、こんな部屋あるんだ

贅沢なつくりだ


そうか

栞の家って名家だし

お父さんは学校法人の代表だから

家にはたくさんの来客があって

その都度

生活空間に招き入れるなんて物騒なことしないよね


ってことは

私は物騒?不審者みたいなものか・・・


それはそのはず

初対面だし

庶民だし

今日は格別に汚らしいし


「栞・・・久々に家に戻ったかと思えば・・・」栞父


呆れたような目をする


「紹介します

杉崎 悠さんです」栞


「それは

さっき聞いた」栞父


あからさまに苛立っていることは分かる


栞の母も部屋に入ってくる

栞はチラリとそちらを見て

直ぐにお父さんの方へ視線を向ける


「悠さんとは結婚を考えています」栞


お父さんは頭を抱える

そして

深くため息をつく


「何を言い出すかと思ったら

どうしたんだ?」栞父


栞は真っすぐにお父さんを見る


「彼女との結婚を・・・」栞


栞がそう言おうとしたとき

お父さんは、くい気味に


「何が気に入らないんだ!!

お前は・・・沙也加さんが気に入らないのなら普通にそう言え!!」栞父


沙也加さん?

何お話しだろう?


「父さん

今はその人は事は関係ありません」栞


「沙也加さんに積極的にと言ったのは私だ!!

それに対して怒っていると言う事は沙也加さんから聞いている

お前が同僚女性の誘いにすら前向きにならないから

女性に対して興味が薄いのかと思った

だから

強引に既成事実を作ればと考えたんだ!

そうすれば

情もわくだろ?

彼女は普段は清楚なお嬢さんで

お前が思うような人ではない

もう一度、会って

彼女の話も聞いてやってくれ

あの日から

彼女はショックを受けて引きこもっているらしいぞ!

彼女はまだ若いのだから」栞父


大きな声で

まるで栞を叱る様に

淡々と言っている内容は

私に言っているように聞こえる

特に

”彼女は若いのだから・・・”

それは撃ち抜かれるような衝撃で響く


紛れもなく

知りたくはない事実

私の知らない間に

やはり

色々あっていたようで・・・


栞のお母さんは

お父さんの膝に手を置いて


「そういう言い方は・・・」栞母


小さな声でなだめる

お父さんは

こちらをちらりと見て


「栞には今

結婚を考えている女性がいます

彼女はうちの学生で

両親

祖父母もうちの卒業生で支援者でもある

再来年には大学を卒業する

それと同時に結婚をするという話が進んでいる

容姿端麗才色兼備

を絵にかいたような人で

若く可憐で笑顔の愛らしい人です

誰が見ても可愛らしい

しかし

何が気に入らないのかは分からんが

その方との縁談を断ると言っているかと思えば

今日はあなたを連れてきて

”結婚する”と言う

今まで優等生をしてきたから

反動なのか?

今更、反抗期か?栞

ところで

あなたはおいくつですか?

みると・・・

栞より年上に見えますが」栞父


栞のお父さんはじっくりとこちらを見る


「父さん

そういう事は関係ありません

今日は許しをいただきに来たのではなく

報告に来ました」栞


栞は鋭い目になる


「・・・どういうことだ?」父さん


「俺は・・・俺はこの人と結婚します

受け入れてもらえないのなら

この家との関りを絶ちます」栞


栞は切り札のように

そのカードを出した

それは

栞のお父さんにも大きく効き目のあるもので

しばらく黙り込む


沈黙


その時

部屋の戸が開いた


そこに立っていたのは・・・栞と同世代の男の人


裕也・・・さん・・・


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