妹と秘密の欲望

 私はお兄さんと同居をしています。いえいえ、健全な関係ですよ? まあ私がそれを望んでいるかはさておいて……


美樹みきー、夕食が出来たぞ?」


「はーい、兄さん、今行きますねー」


 今の私は満ち足りている、「偶然」兄さんが進学した大学と私の進学した高校が同じ位置にあったのが幸いして、私と兄さんは同居している。


 私の進学先がそれなりの偏差値だったため、父さんも母さんも諸手を挙げて私と兄さんの同居を喜んでくれた、目的はさておきやはり認められるのは嬉しいものです……


 私の兄さん愛する人をどこまでも大切に思う心に嘘偽りはない、私は嘘が嫌いです。嘘はつきませんが全てを詳らかつまびからに解説するほどの良心は持っていない。だから兄さんと私は仲良く共同生活をしている。


 私がどこまでも兄さんを求めるように、兄さんにも私を求めて欲しいものですが、それは贅沢というものでしょう。今はただ、兄さんと私の二人きりの生活を楽しみましょう。


「おーい? 夕食だぞ?」


 目の前に兄さんがいました、呼びかけに気が付かなかったからでしょうか? 私のことを不思議そうに眺めています。ああ……その全てを私のものにしたい……


「夕食ですね、いきましょうか」


 いきましょうかと言ってもワンルームに住んでいるのにいきましょうも何もないものだとは思いますが、同居している以上無用な衝突は避けなければなりません。


「今日はサンマですか……」


「美樹は魚ダメだったっけ?」


「いえ、随分家庭的だなと思っただけです」


「?」


 兄さんは首をかしげています。そうですね、この感情を兄さんが理解できるとは思いません。兄さんと家庭を作りたいのに少しはロマンチックな演出を求める、ワガママが過ぎますね。


 私は食卓に着きました、食卓といってもただのローテーブルなのですが……これを家庭的ととるか家族扱いととるかは人によるでしょう。


「今日は良い感じのサンマが売っててな、塩焼きにちょうど良さそうだから買ってきた」


 兄さんは私より家庭的ですね。私ならもっと雰囲気の良いレストランに行きたいところです。


 白いご飯とお漬物、それに塩焼きのサンマ、まるで年を経た夫婦が作りそうなメニューですね……兄さんと私の夫婦……いいですね……


「お、今日は自信あったんだが美味しそうだろ?」


 兄さんは私が食事を見てよだれをこぼしたと思っているようです。その方が都合がいいのでそういうことにしておきましょう。


 なんだか兄さんと何年も過ごした夫婦みたいな関係性ですね、そう考えるととても気分が良くなります。


「ん? そんなに美味しかったか?」


「ふぇ!? あ、ええ! とっても美味しいですね!」


 私の妄想をひけらかすには兄さんとの関係はあまりにも遠すぎます。もうちょっと距離を詰めることが必要ですね!


 私は食器の載ったお盆を兄さんの方に寄せてお行儀よく食べます。兄さんが作ってくれた料理と言うだけで限りないおいしさが私を包みます。


「兄さん、さすが料理が上手いですね?」


「そうかな?」


「そうですよ、ふふふ……」


 兄さんの手料理を食べられるのは学生の期間限定なのでしょうか? 一生一緒に料理を作って食べていく仲になりたいものです……それが現実的かどうかはさておいて。


「ごちそうさまでした」


 私は食事を牛歩戦術でゆっくり食べていったのですが、有限なものを食べるということはいつかなくなるということで……つまりは食事を綺麗に食べきってしまいました。せっかくの兄さんとの食事タイムが……


 私はとても大きな喪失感を覚えながら食器を片付けていきました、作るのが兄さんだったので片付けは私です。


 兄さんが私のために用意してくれた夕食を片付ける作業はとてもとても悲しいことです。例え順番がもう一度回ってくれば同じことが出来るとしても、「今」兄さんの用意してくれたものを処分していることに悲嘆に暮れるのでした。


 食器を片付けてキッチンから部屋に戻ると兄さんがソファで横になっていました。兄さんはソファで寝て、私はベッドで寝る、不平等だと私は主張したのですが、兄さんは「育ち盛りに不健康なことはさせられない」と言ってソファを自分のベッドにしたのでした。


 夜も更けてきているので兄さんは静かに寝息をたてながら寝ています。兄さんも疲れているんですね。


 私は兄さんに毛布を掛けながら少し考えました。


『今兄さんは意識が無い』、『兄さんは私のことが嫌いではない』この事実から導き出される答えを実行していいものでしょうか? 神様への反逆にも近いことをやってのけるのはカルマを随分とため込みそうなことです。


 私は兄さんの顔に自分の顔を近づけました。唇がそっと触れます。残念ですが兄さんは口を固く結んでいたのでそれ以上のことは出来ませんでした。もっと……もっと兄さんが欲しいです……


 私は大きめのソファにこっそり潜り込み、翌日まで兄さんに抱きつきました。その日は夢のような眠りにつくことができました。


 翌朝、兄さんが目を覚ます前に私はそっとソファから離れて朝食を作ることにしました。


 何もありません、私はできた妹なので兄さんが望まないことはしないのです。あくまでも一線を越えるなら兄さんが超えてきて欲しいのです。


 兄さんにどれだけ気持ちが伝わっているのかはさっぱり分かりませんが、きっといつか、兄さんと一緒になれることを祈って、愛情を込めた朝食を作るのでした。

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