第二十六話 能力者vs能力者

 七月十七日深夜、真夏だということもあって深夜でもジメッとした空気が漂っていて、防寒という言葉とは無縁の夜だ。俺は今日もロストシティに来て、ダイバーを生み出す、ターゲットは先日と同じ。武田という邪魔は入るかもしれないが、その時はその時だ。俺は慣れた手つきでダイバーを生み出し、先日と同じようにダイバーと共に行動する。前と同じようにダイバーは進んでゆく、黄土色や茶色に、黒などの不思議な空間を移動しながら武田を思い返す。直接会った感想としては、武田は善い人間だろうというのは明らかだ。俺がやっていることは決して褒められたものではないという自覚はある。それに対して彼は真正面から反抗心を見せ、俺のことを止めると言った。しかも友人のことも配慮はしていた。その配慮が上手くいくかは俺が応じるかどうかで決まるわけだが、心優しいのは確かで、それと同時に楽天家の馬鹿だ。ダイバーと行動して約三十分ほどだっただろうか、ダイバーが浮上し始めたと思ったら、地上に飛び出した。俺の眼前には物音に気づいたのか、住宅街を歩いている振り向いてこちらを向く途中のターゲット、梶原がいた。ダイバーが腕を広げ、梶原を攫おうとした瞬間、俺の背後にも気配を感じた。感じた時にはすでに遅く、ダイバーの右腕は斬られていた。

「な!?」

俺は声を上げ、ダイバーは焦りからか左腕を梶原に伸ばす。だがそれも一瞬の怯みを見逃さなかった何者かが左腕を切り落とす。俺とダイバーは仕方なく距離を取る。前方に目を向けると、尻餅をついてワナワナと震える梶原と、斧を構える武田がいた。

「間一髪って感じだな。」

武田は不敵に笑っている。

「お前、本気だな。」

「まぁな。お前を止めりゃ、俺の仲間も安心できるからな。」

武田は焦りを隠している俺とは対称的に余裕そうな表情をしている。

「どういう意味だ?」

「お前のダイバー、ターゲットを勝手に俺らに変えてるかもしんねぇぞ。」

武田は真剣な眼差しを向けてくる。

「前にも言ったが、ダイバーは能力者も狙っている。それがお前の意志でないなら、ダイバーの意志ってことになる。ならお前は、ダイバーを制御しきれていないってことだ。」

「あぁ、お前の言う通りだろう。だから俺はダイバーと共に行動することでその欠点を払拭したつもりだが?」

「どうしてお前が一緒なら大丈夫だと言い切れる? 暴走でもしたらどうする? お前の手には負えないぞ。」

武田が言っていることは恐らく本当だ。だが何故コントロールできないのか分からない。今はダイバーと共に行動しているため、制御できているのだろうが、絶対とは言えない。

「それにお前がやってることはエゴだ。」

「何?」

その一言に俺は怒りが込み上げてくる。

「お前に何が分かる。」

「分かるわけねぇだろ。」

武田はすぐに言い返してくる。その背後では相変わらず梶原がまだ震えている。

「お前が守った奴は最低な人間だ。罰を与えるべきなんだ。」

「その罰をお前が与えるのか?ずいぶん偉いんだな。」

「誰も罰を与えられないから俺がやるんだ。そのためのこの能力だ。俺はこの能力を神様からの贈り物だと思っている。」

「俺は最初、この力を憎んださ。でもな、今分かったかもしれねぇ。お前を止めるために、俺はこの力を使う。お前みたいに能力に溺れるなんてことは絶対にない!」

武田はそう言って斧を再度構える。

「対話の余地は……無いようだな、残念だ。」

俺はダイバーを操り、武田の方へ一直線に近づかせる。

「おい!逃げるぞ!」

「え、おあぁ!?」

武田は梶原を片腕で抱えると猛スピードで走り始めた。だが、ダイバーが地面への潜水を始めたら、スピードは追いつくはずだ。しかし、俺は追いつくことを躊躇している。もしここで戦闘を始めれば住民が目を覚ましてしまうかもしれない。ならば、武田を走らせ、体力を削った方が良いだろう。恐らく武田も広い場所での戦闘を狙っている。俺はそこまで思考するとダイバーにと共に移動することにした。武田の速度は常人からすればかなり速い、が、今は能力者同士の戦いである以上、それは大したメリットではない。さらに武田は梶原を背負っている分、ハンデがあると言える。

 武田が走り出してから約十五分、武田は大きな公園にやってきていた。

「ここは……」

「見覚えがあるんじゃないのか?ここは俺がダイバーを倒した場所だ。」

武田に言われ、ニュースで報道されていた風景と同じであることに気づいた。

「なるほど、ここなら周囲に人はいない。ある程度本気で戦えるというわけだな。」

俺はダイバーから降り、アスファルトの地面に両手をつく。改めて武田の方をチラッと見ると梶原はまだ武田のすぐそばに武田に隠れる形で立っている。

「悪いが、手加減はしない。」

俺はそう言ってまたダイバーを生み出した。

「何体でもぶった斬ってやる。」

武田は再度斧を構える。そして何か梶原と話しているように見えるが内容までは分からなかった。たった数秒の会話であったのだろうが、それが今の戦いにおいて重要だということは容易に想像できた。武田は梶原からダイバーの方へと向き直し、斧を構えながら果敢に向かってきた。現在ダイバーは二体。二体を用いての戦闘は初めてだが、相手の強さを考えれば、妥当だろう。しかも武田には梶原おいう保護対象を抱えている。その状況でダイバーとどこまでやりあえるか、ここで観察しておく必要があると俺は考えていた。武田にダイバーの二体の攻撃が同時に行われる。どちらも拳、別れて左右からの攻撃。武田は斧を巧みに使い、両端で二体のダイバーの攻撃を逸らした。二つの拳は地面へとぶつかった。ドゴォン、という轟音が響く。地面のアスファルトは抉られ、その攻撃で人が重傷を負うのは明白だ。その恐怖に武田は動じることなく、ダイバーの隙を突き、斧を一回振るだけでダイバーの腕を一本ずつ切断した。ダイバーは武田と距離を取り、俺の元へ戻ってくる。その逃げ足の素早さに武田も追撃はしてこなかった。

「その逃げ足の速さ、そういうふうに命じてるのか?」

「誘拐が目的だが、一番大切なことは他人に見られないことだ。」

「お互い、注目を浴びたくないのは一緒ってわけか。」

武田は相手の意図に安堵したようだった。

「お前は何故俺の邪魔をする? 関わりたくないんじゃないのか?」

俺にはいまいち武田が俺の邪魔をすることが理解できなかった。

「たしかに面倒さ。でもな、お前がやっていることは間違っていると思うし、止められるのは俺だけだしな。」

武田の返答に俺は怒りをあらわにした。

「ならお前は、邪魔だ…!」

怒りは一層強まり、俺はダイバー二体に新たな命令を下す。

「武田を捕らえろ…!」

俺の声には力がこもり、殺気すら生まれているだろう。心なしかダイバーもより攻撃的になった気がする。二体のダイバーは武田へと再び向かっていく。先程とはスピードが違った。二体のダイバーは確実に威力を増した拳を振りかざす。

「なるほどな。」

それでも武田はまだ余裕の表情をしている。武田はダイバーの攻撃を避けながらダイバーへと斧を振り下ろしていく。斧で切断出来ていた拳は強くなり、斧を受け止められるようになっていた。だがそれでも、武田は攻撃を躱し、受け流し、確実に反撃してきている。斧と拳が衝突する度に轟音が公園内に響き渡る。ダイバーの拳の威力は確実に増していき、武田からの反撃にも対応してきている。もはや人間の域を超えた戦いを俺は手を顎に当てながら怒りを押し殺して静観していた。戦闘によりアスファルトの地面は所々で抉れている。こちらのダイバー二体と武田はまた距離を取った。武田は斧を構えながらも、少し息が荒くなっているようにも見える。俺は地面に膝を突き、両手を地面につけた。

「そろそろケリをつける。」

俺は三体目のダイバーを生成した。

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