かくのごとし

@shiromi

エピローグ:恥のはじまり

もう何十年と経つというのに、

未だに過去の嫌な思い出を思い出す。

忘れたいはずなのに思い出してしまう癖が私にはある。

何度も反芻しているせいか、

鮮明だった記憶はいつしか薄ぼんやりとした色褪せモノクロフィルム化している。


ポジティブになれ。

楽しいことに目を向けよ。

何度も言われてきたし、何度もトライしたが、

もう癖が抜けきれなくなっている。

そんな自分が嫌いだ。



思い出すな!と思っても出てきてしまうから、

もう自然の摂理に任せているけれど

繰り返し過ぎたのと、

時が過ぎたのも相まって気付かないうちに消滅している記憶もある、気がする。



私の癖はさらに特徴的で、シャンプーの泡を洗い流すときに最も発動する。

初恋の人への気持ちが強すぎて、

進物サイズの箱チョコレートを渡してしまったこととか。

バイトしていて「まだ出来ていません」となぜか言えず、

蒸しあがっていない肉まんを売ってしまったこととか。

他人にはくだらない、自分にもくっだらない。なのに捨てきれない。

息を止めながらシャワーで泡を流しきると、

泡と一緒に流しきった気がして心なしか少しすっきりする。

でもしばらくするとまた脳内再生される。


「どこまでが覚えていたい記憶でどこまでが忘れたい記憶なのか。」

最近好きなミュージシャンが歌う歌詞に、ハッとさせられた。

心のささくれを何度も引っぺがしてしまって血が滲み出てくるけれど。

全て忘れてしまったら本当に全てが無くなってしまう気がして、

恥ずかしい記憶が少しだけ愛おしく思えた。


私の恥部たちをいっそ晒して消化してやろう。

もしかしたら書いて欲しいがために消えてくれないのかもしれない。

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