第6話

 家から一キロの道のりを経て神社の下まで着いた。階段の『裏』があるのは社のところだけだ。ここから五十段登らないといけない。もう足が棒のようだ。だが、走ってみても、心臓が痛くない。運動ってこんなに楽しいことなんだ。


 一段目に足をかけて一気に駆け上がる。そして、真っ暗な神社に着いた。社の階段に近付いて裏を確認する。何かが貼り付けてあった。取ってみると封筒だった。かなり厚い。中は大量の写真と一枚の便箋だった。賽銭箱の近くにロウソクとライターがあったからそれを使って読むことにする。


 炎の暖かい光が辺りの冷たい闇を少しだけ払う。


『この手紙を読んでるのが君なら私、本当に死んだんだね。正夢ってあるんだね。凄いや。君は元気ですか? 心臓は治りましたか?』


 誰かに救ってもらったよ。


『出来ることならお互い元気に大人になりたかったんだけどな……』


 俺もお前と一緒に大人になりたかった……


『まぁ、無理になったものは仕方ないよ。ねぇ、知ってる? 私の心臓って君の身体に適正があるんだよ? 一応、万が一のことがあったら君に心臓を提供するようになってるんだけど、どうなったんだろ?』


 初耳だった。そんなことちっとも話してくれなかったじゃないか。


『話したら君のことだから拒否するでしょ?』


 ……そうだけど。


『夢の通りに死んじゃったなら神社の階段から落ちて死んでると思うんだけどどうかな? それなら心臓はあげれると思うんだけど……?』


 嘘だろ? 


『この手紙が最後になると思うから思いの丈を思いっきり綴っておこうと思う』


 ロウソクの火がチロチロと最後の力を振り絞って燃えていた。残された時間はあと少し。俺は覚悟を決めて次の文章に目を向けた。


















『ありがとう……大好き』

















 たったそれだけだった。多くは語る必要は無いってことだろうか? しかし、これだと、


「なんも、分かんねぇよ」


 便箋の裏側にもなにか書いてあることに気がついた。


『追記、そこの神社、実は死者と話せるいわく付き神社なんだよ〜 お賽銭箱の前にあるロウソクの火に写真を焚べるとそれが燃え尽きるまで話せるらしいゾ♡』


 それを読み終わると同時にロウソクの日が、ボワっと一瞬大きく燃えて消えた。


「それ、最初に書けよ……もう、ロウソク無くなったわ……」


 なにか、まだ書いてあるみたいだ。俺は月明かりで照らして何とか読んだ。


『じゃ、また、会う日まで……』


 俺は静かに芝生に転がり夜空を見た。星が滲んで光の洪水となって俺に押し寄せてきた。その中に優花がいたような気がするが、どうでもよかった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 あとから知ったことだが、心臓を移植すると、その人の人格が反映されることがあるらしい。まぁ、俺の場合は……


『寝るたんびに夢に出てくるのやめろ!』

『なんで? いいじゃん。最初に出てきた時は凄く泣いて喜んでたじゃん』


 夢にまで出てくる。そこで心臓の話とかちゃんと聞いた。初めて夢であった時、ほんとに嬉しかった。ほんとに嬉しかったのだが……


『うるさい! 黙れ!! 鬱陶しい!! 今日、授業あんの! 遅刻するの!』

『いいじゃーん。あと5分だけいよ?』

『それ、さっきも聞いたぞ! ……今日は早く帰ってくるから我慢しろや』

『……わかった』


 毎日、遅刻しそうだ。



                  (完)

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また、会う日まで ユウイチ @0524yu

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