第12話 交渉1

 ライルは降り立つ、サーゲンレーゼのクルー達と話していた。  戦いの後、戦艦は着陸し、ノン艦長が通信を開いた。

 

「ご苦労だった。 ニフティーのパイロット。 君の名を聞かせてもらえないか」


「……ライル、ライル=ハレミ―です」


「ライル?]

 一時の沈黙があった。

「そ、そうか、ライル君はこのまま、当艦の格納庫へそいつを収納してくれ」


 ライルは思った。 ここでこの船に乗ってしまって大丈夫なのだろうか?  もし、自分の想像以上の姿をした者が出てきたら、どうしたらいいのかと。 


 格納庫内でコックピットを開けた時、その姿を垣間見る事になるのだった。



「やぁ、私がこの艦の艦長。 エールス=ノ…… こんなに若い者がパイロットだと言うのか!?

 スーツも着ていないなんて!」


 前に出た男が何やら驚いていた。

 ノンと一緒に来たクルーたちも同じ反応だった。 


「どういう事だ? 聞いていた話とは違いうぞ。 確かに若いとは聞いていたが、君は19そこそこじゃないのか? シキ=シラカミはどうした?!」


 ライルは顔を曇らした。 自分の話しは聞かれず、勝手に話が進んでいく。

 ノン達も司令部から聞いていた内容とは違い、。この状況が呑み込めないでいた。


 話してくる者たちは皆、宇宙服のようなスーツにヘルメットで顔面が覆われていて、顔が見えない。ライルからしてみればこれほど、奇妙な名乗り合いは無かった。



「そんな人は知らないよ。 これ、あんたらのなんだろ。だったら、これを渡したら、地球から出て行ってくれるのか?」



「どういう事だ? 君はこの惑星の青年か? だとしたら、どうしてニフティーを動かせた? 話ではシラカミと言う者しか……」


 ノンはぶつぶつと小言を呟き始めた。 


「まぁ、そんな事はともかくさ、よくこいつを守ってくれたな。 俺はグロス=グレーリーだ。お前の近くでアルバに乗ってたおっさんだよ」


 優しい笑顔で握手を求めてくる一人の男。 友好的な性格らしいが、ライルは手を出そうかは戸惑った。 愛想は良さそうでも、どこかチャラそうと言うか、ふわふわしたようなそんな感じも感じられた。また、彼だけは普通にヘルメットを取って話しかけてきてくれたので表情を見る事が出来た。 耳には水色に光るアクセサリーをつけていた。

ライル達とまるで何も変わらないような姿にライルも驚いていた。


 横にいたノンは驚きを隠せず、グロスに忠告した。


「グ、グロスさん。 ヘルメットを取るのはあまりにも迂闊すぎる。 まだ、何があるのかわからないんだぞ。 さっきも安全が確認できている場所では無いと」

 

「ん? だけど艦長、なんともないみたいだぜ」


 グロスはノンにニコっと笑って見せた。 ノンとしては返す言葉がない。

勝手をして手を付けられれないおじさんに困り果てる顔をノンは浮かべた。


「こいつが新型か! しかし、もう、結構ボロボロだな。 まぁ戦闘してんだから仕方がないってか。 こりゃ直しがいがあるな。 ナット―! 急いでこいつのマニュアルを持って来い」


 そう言ってオレンジ色のつなぎを着た大柄の男がやってきた。 帽子のつばを持ち後ろに回す。


「俺はここの整備士長をやってる エレクトロニック=パウローってんだ。 よろしくな! みんなは長ぇからニックって呼んでら。 あ、そうだグロスには気をつけろ。 こいつ口先だけの男だからよ」


 オレンジの襷を来たニックは、ライルの耳下で、周囲に聞こえるようにささやいた。


「うるせぇよ、筋肉じじぃ! 変な事拭きむな」 


「だれが、筋肉じじぃだ! お前も同じジジィだろうが。 酔っ払いじじぃが!」



「おいおい、よさないか! こんな青年の前で」


 そこへ、金髪の高貴な姿をした20代ぐらいの男が、ヘルメットを取って近づく。


「私はニルス=トイマーナだ。 ここのAD《アームズドール》の隊長を務めている。 以後お見知りおきを」


 彼のような人を美形と言うのだろうか。肌も白く、すらっと切れた目。まだ若い。育ちが良い所の生まれを感じさせる。 ライルはただ黙って、伸ばされた手を握り返した。彼の耳にもまた、さっきとは形の違うアクセサリ―がついている。


「艦長!そろそろいいか? 修理に取り掛からないと、俺たちもわからない事だらけだからな。 色々取りつけないといけないものもあるんだろ」


 ニックは同じ繋ぎを着た仲間たちに忙しそうに支持を出していた。


「そ、そうだな。すまない。 とりあえず、ラウンジに上がろう。 ついて来てくれ。青年」


 ライルはとまっどた表情をした。 あまり、ずかずかと船の中に入りたくはない。何をされるのかわからないのが、怖い。 それと同時に船の中を見れると言う好奇心も少しはあったが、9:1の割合で恐怖が勝っていた。

 だが、ついて行くしか選択肢は無いようだった。


 そんな時、綺麗な声が、ライルを呼び止めた。

「歩きながらでごめんなさい。 私はシノ=ハスギと言います。 ここの航路士を担当しています」


 物静かで、落ち着いたトーンで話す冷静な女の人。彼女もまた、安全とわかるとヘルメットを取ってその素敵な髪をぬぐった。 まるでロボットかというぐらい、礼儀の作法が美しい彼女は、しっかりとライルの顔を見ていた。



「あ、ラ、ライル=ハレミ―です。よろしく」


 ライルは照れながら、その小さな手を握り返し、そのまま大きなエレベーターに乗せられた。



「おいおい。 ちゃんと副長だって言えよ。大事な事が抜けてるだろ」


 彼女の表情は一瞬にして凍てついた。


「グロス! いい加減にしてください。 私は副長だとは思っていません。 もっとふさわし人がいるでしょう」


「すまない。やはり、不服だったか」


「い、いえ、エールス艦長。 私は、艦長がおられる以上は、副艦であるつもるは……無いだけです 」


 グロスはシノの少し困った表情を楽しんでいた。 シノはまたきりっとした表情にもどると、グロスを睨んだ。 



 乗っていたエレベーターのドアが開くと、広い部屋が顔を出した。 そこには沢山の真っ白な机と椅子が並べられ、さながら食堂のように見える。  男が二人乗ってきた。 彼らは艦長を見ると、砕けた態度から一変。しゃっきと敬礼した。


「お疲れ様です。 ノン艦長」


「あぁ、お疲れ様。 調子はどうだ?」


「はい、問題ありません」


「そうか。休める時にゆっくり休んでいてくれ」


「は! ところで、艦長この子は? 一体?」


「艦には見慣れない方ですが」


「彼が、今回の新型を動かしていた者だ」


「な、何ですって! だってまだこんなに若いのに」


「大したものだな。 お前らも負けないように、精進しろよ」


「は!」


 ノン艦長のその皮肉った言葉には、どこか優しさのようなものを感じたのと同時に、ライル自身も褒められたようで嬉しかった。 さっきから子供、子供と言うように、見られることにいい加減腹立たしくも思っていたが、その怒りは何処かへと消えてしまっていた。


「艦長! 着きました」


「うん。 こっちだ」


 シノはまるでお付きの人の様にノンを先導していった。 失礼します。そう言ってエレベーターに乗った二人はまたしっかりと敬礼して、出ていくノンを見送っていた。


 ノンが、カードをかざすと扉が横に開く。 中は少しだけ広く、会議するような形で長方形型の机がくっ付けて並べられていた。 ここの机もまた真っ白で美しい。 見たところこの艦は、どこも中が奇麗だ。まるで使い古された感じがない。


 ライルの前には、ノンとグロス、そしてシノという女性。 それから隣に金髪のニルスが席についた。

 尋問でもはじまりそうなこの形は、真ん中に立たされなかっただけ良かったものの、以前地球で味わった大人たちからの罵倒を思い出させた。

 ライルの前に、書類を挟んだバインダーがシノの手から渡される。 シノはそっとそれを置くと着席する。


「さて、ライル君。 君がこれに乗った敬意について教えてくれないか。 実は我々も聞いていた内容を大いに逸脱していてね。 後、ここでの話は口外しないように。 君たちの為にも、我々の為にもね」


 ライルは頷くと、今まで自分に起こった敬意を包み隠さず、ノン達に話した。 



「って事は、その時にはもう、シキ君は乗っていなかった……のか」


「艦長。 コンテナが焼けていたという事は、彼は蒸発してしまったのでは?」


 ニルスが独自の推測を話す。 グロスはその解答に異議を唱えながらも、今回の事態が自分たちの知る内容と相反している事に、気がかりを覚えていた。


「可笑しな話だぜ。 そもそもなぜこいつがこの惑星に落ちた? 本来なら、受け渡しのはずだろ」



 ノンは黙って考えると、この惑星の事も聞いた。 地球という惑星の暮らし等、ライルは知っている事を話した。

 ライルもまた、彼らの事を聞いた。宇宙から来ているのは本当らしいが、自分たちと同じような人、言葉が通じている事にはお互いが驚くのであった。  


「とにかく、この件は上に報告を入れる。 ライル君、君には心からお礼を言いたい。 我々の大切なものを守ってくれてありがとう。 君はこのまま自分の居場所に帰ってもらうのだが、その前に少しだけ付き合ってくれ」


 ライルは嫌な予感しかしなった。 ノンはブリッジに上がると忙しそうに、指揮を出す。


「皆は、警戒を怠るな。 サフィ! この星の大臣と言う者がいるらしい、そこの電波を割り出して通信をつなげるか」


「やってみます」


「頼む、この星に住む、ライルと言う青年をつける。 彼から色々聞いてくれ。


 ライル君、すまないが、この惑星のトップを張るものと話がしたいんだ。あそこに座っているサフィんの協力を頼む」


「分かりました。 だけど、場所とかしかわかりませんよ」



「それだけでいいんだ。 後はサフィがやるから。とにかく、君はサフィが必要とする情報を与えてくれ」



 それぐらいならと、ライルはノンの指さす方向へと歩いて行った。

 変わった光る通信機のようなものを耳にはめる女性。


「あなたがライル君ね」


 サフィはライルをくまなく見た。


「そう、あなたが。……すごい。 私はサフィ。 サフィ=シャロンよ。 よろしくね。 ここの艦務士を担当しているわ。 たぶん君、私より年下だよね?」



「ライル=ハレミ―です、 えっと18ですが」


「やっぱり。じゃあ年下ね。 またゆっくり話せたら、話そうね。 それで、場所なんだけど」



 サフィと言う女性はとても、優しい笑顔をライルに向けた。 ライルに姉などいた事はない。なのにまるで、姉と思えるような感覚だった。 とても明るく笑顔が素敵な女性。それがライルが彼女に抱いた第一の印象だった。 だから、ライルは見た目から、1.2ほど歳上なんだと思って彼女と接した。



 


 

 一方、

 スクレイを失った、帝国軍ラーデルのギエン艦隊は、ニストル軍督との交信を行っていた。


「そうか、ニストルが落とされたか。 あいつの勝手な行動がお前の作戦を揺るがせてしまったようだな」


「いえ、我々が力及ばずだったのが一番の敗因かと。 ただそのおかげで向こう側の性能を垣間見る事が出来ました」


「んー、して、敵の新型はそれほどだったのか?」


「いえ、ただ、単機であれば、何とか我々でも落とせたでしょ。 しかし、L.S.E.E.Dの介入があり、このような結果のご報告に。 申し訳ありません」


「構わん。 元はスクレイが余計な事をしなければ、上手くいってたやもしれん作戦だったのだろう。

 これはこれで、仕方がない。 スクレイを近くに配備させた私に責任がある」


「いえ、これは私共の責任です。 そして、戦ってみて分かったのですが、あれは絶対に敵の手に渡すべきではないかと」


「やはりそうか。 その為にお前を行かせたのだが、ギエン。 お前だけでやれそうか?」


 ギエンは唇を強く咬んだ。


「申し訳ありません。 L.S.E.E.Dの最新鋭艦と合流されてしまいました。 やれない事はありませんが、異郷の地。 こちらのADも消耗していますゆえ、現状の状態では難しく思われます」


「お前がそう言うという事は、やはり、それほどだったという事か。 そうか。 お前を行かせていてよかった。 別の者ではここまでも務まらなかっただろう。 わかった一部隊をそちらに回す。 スラッグ隊だ。それであれば行けるか?」


「スラッグ隊! あの侵攻沿線策戦で大功績を収めた部隊ですか? 」


「そうだ。スラッグなら心強いと思ったのだが」


 スラッグ隊はそうそう表立って出る部隊ではなかった。 なぜなら、帝国軍にとって隠し玉でもあるからだ。 

「それ相応の武装もさせていく。 お前たちの機体の物も届けさせよう。 それと一緒に、ギエン。 お前に一機、新機体を持って行かせる。 うまく使ってくれ」


「誠で。 かしこまりました。 なんとしても奪取して見せます」


「いや、構わん。 破壊しろ。期待しているぞ。」


「それと提督。 これはまだ確証はないのですが、L.S.E.E.Dはこの惑星とつながりがあったのかもしれない節がところどころ匂います。もう一点。 オープン回線にて敵側より、グロス=グレーリーを名乗る者がいました。 まさかとは思いますが…… 」



「なに? グロスだと?! ……

 それはありえん。 いや、奴ならばもしや。 気をつけろ。 もしやつだと言うのなら」


「分かっています。 その時は早急に」


「頼むぞギエン。 その惑星に関しては追って調べる。 もしつながっているのであれば、その時はそこも占拠する必要がある」


「ははっ」



 こうして地球にいるギエンとの交信を終えたニストル。彼らはまだ、アレスティアラ宙域で両者睨みを利かせたままである。


「ニストル様!」


「どうした?」


 一兵士が声を上げる。


「連合政府軍の主要箇所に戦線している ドルドゥス、ジャフィー大佐より、先ほど、占領が完了したと報告が入りました。 これより第二作戦に移るそうです」


 ニストルの表情は変わらない。


「そうか。成功したか。 やってくれるとは思っていたさ。 後はチュートルズ大佐の部隊だな。

 よし我々も動くぞ、」



 この報告はアルカ―ナ軍において大きな一歩をきたす。作戦を成功させた、ドルドゥス、ジャフィー大佐の両軍は宇宙連邦の本拠点を総攻撃する為の道を繋げたのである。

 アレスティアラ宙域。この場所は、戦争を終わらせるためにも、絶対に抑えなければならない場所なのである。

 達成の報告を期に、ニストルも、この長々とづつくL.S.E.E.D艦隊との戦いに更なる一手を入れようとしていた時だった。

 

「軍督! 新たな敵艦隊を捕捉! 左舷方向より、高速で接近! その数……80!!」



 いまだ宇宙では、L.S.E.E.Dの大艦隊と帝國軍は硬直をきたす。 陣形を崩され大打撃を食らっていたL.S.E.E.D艦隊だったかに見えたが、それでもうまく立ち回り攻防を続けていた。何かを待つようにして、じっとその時を耐えたのである。


 L.S.E.E.D側もここは絶対に落とすわけにはいかない。両者が主力を懸けた戦場であった。



「何? どこからそれだけ湧いてくる。 L.S.E.E.Dめ。 まだこれだけの艦隊をもっていたというのか? それかルドルの隊が失敗した? サギンめ。やってくれる」



 この時、援軍を塞き止める為に進行させていたルドル隊が破れ、それをいち早く察知したL.S.E.E.Dの部隊が駆け付けたのだった。


 優勢がまたも覆される瞬間だった。帝国軍が、連合軍の主力艦隊を袋とじにしていたが、後ろに回ったニストルと向かい合うようにしてやってきた大軍隊の艦隊の到着により、袋の底が破れた。



「サギン大将さらに、両側よ援軍の到着の通信が届きました」



「粘った甲斐があったな。 後ろに回ったのはニストルだろ。 この宙域を指揮しているのはニストルだ。 危うく落とされるかとも思ったが、わしも早々と引退する訳にはいかんのでな」


 宇宙連合軍はここにきて一気に形成を覆した。 帝国はみるみると、連合軍の大きな袋に包まれる形となった。 背後についたニストル達のみが、包囲から逃れる形となった。





――地球圏、


 ギエン達は車輪の無い車のような乗りものを走らせ、近くの町へと向かっていた。


「良いんですか?隊長。 まぁ、俺は待っているより、こっちの方が大賛成ですけど。ジトーは色々言いたそうでしたよ」


「大丈夫だ。 ニストル様はあのようにおっしゃられたが、他の隊の手を煩わせるわけにもいかない。 できるだけ自分たちのできる事はやっておきたいじゃないか」


 それは、ギエン達がまだ艦を出る前の時の話し。


「何ですって! 隊長、ニストル様は援軍を待てと」


「いや、少ししかけてみる。 こちらが何も出来ずじまいだと知ったら、指揮も落ちるやもしれん。

それに、我々ができなかったと言うのは癪に障る。 

 

 ニギュー。 少し町を調査する。 ついて来い」


「はい。わかりやした」


 ジトーは不快な顔をする。


「隊長、危険ですよ。 偵察なら、私も行きます」


「ダメだ。 お前は残れ。 何かあった時にこの艦を動かしてもらわねばならない。 とにかく、話した通り、もう一度地球側に交渉をかけてみよう。 その為にも、少しは私もこの惑星の事を知っておきたいのだ」



「だからって」


 相変わらずジトーは不満そうな顔をして、言い出した言葉の続きまでは言わなかった。

 このころからである。 ジトーは自分の体がやけにしんどい事を隠していた。 頭痛や時より吐き気がやってきた。



 そんな事があって、日が暮れかけて来てから、ギエンとニギューは乗り物を走らせていた。



「着きましたね」


 ニギューが乗り物を止めたのは町の手前。 そこからは歩いて町の様子を伺った。 


 どこの家も明かりがついており、何やら楽しそうな雰囲気だった。だからと言って、警戒を怠る訳にはいかない。暴力的な部族の集まりではないのかと、思いながらも、町の中を歩く。



 その時一つの家から女性と手をつないで出てくる子どもと目が合った。 ギエン達の姿を見た子供は叫びだし、それを見た母もまた、驚いて我が子を抱きしめた。

 そんな声を聴いて、血相を変えて家からできた男性が、持っていた銃を構える。


 ギエン達は必死に何も危害を加えるつもりはないと話した。 しかし男性は発砲をしてきた。それはギエンの足元の砂にのめり込んだ。 この騒ぎに、各家から人が出てくる。 


 その街の一つに、ライルをよく揶揄う子どもの家があった。 彼もまた、奇妙なヘルメットを被った、宇宙人を見た。  町は宇宙人と言う声で響き渡った。 それにつられるように、この家の子供の父もまた、ライフルを持って外へと出て行った。


 ギエンはまずいと思いそのまま、その場を離れようとした時だった。 どこからともなく飛んできた銃弾が、ニギューの左足を打ち抜いた。


 悲鳴を上げて倒れ込むニギュー。 ギエンは必死になって、殺すなと、訴えた。しかし、周りの者たちの表情は何一つ変わることなく敵意をむき出しにしていた。 言葉が通じていない。このままでは殺されてしまうと思ったギエンは自分に問いかける。 そして持っていた銃に手を掛けた。

一人、また一人と住民を撃ち殺していくギエン。 ギエンは今すぐにでも目を瞑ってしまいたいぐらいだった。 


 辺りはすっかりと戦場へと化していた。 火薬の破裂する大きな音。 次々に悲鳴を上げ倒れていく人。軍人と市民とでは雲泥の差だとでも言わないばかりに、ギエンは住民を寝かせていった。 時にはナイフで喉を掻っ切ってニギューと逃げていく。

 耳に輝く光を彼らは忘れないであろう。



 一人の子供はそんな戦場を、家の窓からのぞいていた。 外が気になるのは、宇宙人を見たいからではない。 自分の父か気になって仕方がないからだ。 家族を守るために飛び出した、父の勇猛な姿など喜んで見送れるはずもなかった。 死んでしまったら終わりなのだから。


 そうしてその子供の映る視界の中で、一人の男性がこめかみに一発の銃弾を受け、倒れた。

子どもはその姿を見て、唖然とすると、急いで家を飛び出していった。 


 辺りはすっかり静まり返り、火薬のにおいだけが立ち込めた。 周りには誰一人として立っている大人がいない。 皆人形のように座るか倒れている。 子は、一人の倒れ込んだ男性の胸に顔を当て泣いた。 


 お父さん。お父さん!




 ギエン達は乗ってきた乗り物で艦を目指した。 撃たれた事よりも、スーツに穴が開いた事をギエンは心配していた。  ギエンのスーツにも亀裂が入った個所に保護テープを巻いた。


 この時ギエンは、この星の生き物は全く話など聞こうとしないのだと、脳に刻んだ。


 艦に帰るとすぐさまニギューを集中治療室へと運んだ。


「ギエン少尉!? その傷は? 」


「何でもない。 ちょっと、この惑星の者と交戦になっただけだ。 どうも話を聞かない。 やはり見るや、好戦的だった。 すまんジトー、少し疲れた。 私は眠るよ」


「え?大丈夫ですか? もしかしてなのですが、少尉も嗚咽や頭痛がしているのでは?」


「俺とした事が、少し休めば治ると思う」


「実は私もなんです」


「何だと? 穴があいて、この惑星の空気にさらさられたせいとか思ったが、そうではないのか? ともかく、一度皆、交代で休憩を取ろう。その後に、もう交渉する」


 

 





 サーゲンレーゼの艦長ノンは地球の大臣と交渉を取り付け、朝に会って話し合う約束を取り付けていた。 そして、その日、話に聞いていた場所よりも遥か遠くで大きな艦隊を止める様に言われ、そこから迎えに来た地球の車に乗って、ノン達は移動した。


 車に乗り込んだ、ノン、グロス、ニルス、ジャン。沢山の乗組員は大きなバスで全員移動させられた。


 何でも持て成すという事で、バスに乗っていた乗組員たちは一流のホテルへと連れていかれた。

ノン達を乗せた車は官僚党へと走った。



「あなたが地球の大臣ですね。 通信ではありがとうございました。 私が、L.S.E.E.D所属シーキュナ隊の館長を務めます。エールス=ノンと申します」



「これは、こちらこそご丁寧に。 私達がこの国を代表する大臣でして、私がトップのマイロ=ニコロフだ。 よろしく頼む」

 こうして対話が始まった。 ノン達は地球とに危害を加えるつもりは無く、また戦争の意志も無い事を訴えた。 彼らの目的は、この惑星に落下した自軍の目標物の回収と、安全に宇宙へ上がる事。だった。



大臣側も、今回の被害について、彼らには何とかしてもらいたい事、今後、こちらに危害が加わらないようにしてほしいとの要望を伝えた。 


それは、アルカ―ナ帝國軍の事を指していた。

 ノンは、第一の要望として、地球に降りかかってしまった被害に対しては、上層部と掛け合い、また上官と連絡ののち回答とし、第二の要望として、地球側としては宇宙に人がいて、ましてや世界的大規模な戦争をしているなんて思いもしていなかった。 アルカ―ナと言う軍が残っている以上、それを何とかしなければ、サーゲンレーゼ含め、シーキュ―ナ隊を宇宙に上げる事はしないということだった。 


 つまりノン達は、ここ地球で滞在するアルカ―ナ軍を一掃し、宇宙の遺物がない状態にしてくれなければ困ると言われたのだ。 



 これに対しても、尽力は尽くすが、上の判断をノンは仰いでからの回答になると回答した。同時に自分たちは一刻も早く宇宙に上がらなけらばならない事態にいる事を説明し地球からの早期離脱を訴え、この戦いで我々が負ければ、この惑星もどうなるか分からないと説明した。


 地球側はその重大さは解らず、その意見を飲むことは無かった。結果として、ノン達はそのまま牢獄へと拘束される形で話は終わった。



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